beacon

52週間で「0.01秒の差」を縮めて福岡の新王者に。飯塚が初出場初優勝に挑戦

このエントリーをはてなブックマークに追加

飯塚高が初出場初優勝を狙う

「応援している飯塚の人とか、初めて飯塚のサッカーを見た人たちが、『何か、飯塚のサッカーって応援したくなるよな』とか、『何か、心動かされるよな』というサッカーをしたい」

 第101回全国高校サッカー選手権は31日、2回戦16試合が行われる。激戦区・福岡を勝ち抜いて初出場する飯塚高は、明桜高(秋田)と初戦。本格強化8年目で選手権出場へ導いた中辻喜敬監督は、選手たちとともに「0.01秒の差」にこだわってこの一年間を過ごしてきたという。その「0.01秒の差」がもたらした、見る人の心を動かすような戦いと、選手権切符。初の選手権でも選手たちは仲間、家族、支えてくれた人たちのため、対戦相手に「0.01秒の差」をつける。

 飯塚は21年のインターハイで全国大会初出場し、ベスト16進出。夏冬連覇を狙った選手権予選では延長戦の末、名門・東福岡高に1-2で敗れている。そこから「0.01秒」にこだわる日々はスタートした。

「『52週間で0.01秒縮めよう』と。去年、1-2で負けた。『この1-2の差は0.01秒なんだ』と。0.01秒の差って何なんかって言ったら、直径22cmのボールに最後つま先にボール当たるか、当たらないか。0.01秒速く走れたら、11cm縮められるんですよ。だから、0.01秒を1年間で積み重ねたら11cm、ボールに近づける。今までパスカットで当たっていなかったのが、つま先に当たる。今までゴール前で流れていたのがスライディングで当たる。『それを52週間でやって行こう』と。一年間、52週積み重ねてきて、それができるチームになった」(中辻監督)

 1年前の敗戦から52週間で縮めてきた「0.01秒の差」。ワールドカップカタール大会で日本代表の「奇跡の1mm」が話題となったが、飯塚も1年間かけて紙一重と言えるような差まで求めてきた。そして、選手権予選準決勝では、インターハイ予選決勝でPK戦の末に敗れた九州国際大付高に3-0でリベンジ。同決勝では東福岡を1-0で下し、福岡王者に輝いた。

 飯塚はU-16日本代表としてU17アジアカップ予選を戦った大型左SB藤井葉大(2年)をはじめ、県決勝で決勝点の注目エースMF池田悠夢(3年)、「キャプテンとして細かい1対1の部分やロングボールの質は絶対に負けないようにしています」というCB片山敬介主将(3年)とCB坂本海凪太(2年)の両DF、Jクラブも関心を寄せたという司令塔・10番MF村井天(3年)、期待値大のMF原翔聖(2年)ら攻守に充実の陣容。本格強化当初はドリブルや圧倒的なポゼッションが注目された飯塚だが、実は組織的な守備が大きな特長だ。今年は全体的にスピードがあり、ラインブレイクを繰り返す攻撃も強烈。セットプレーも磨いてきた。相手の状況に応じて戦う個人戦術の高さ、対応力の高さも強みとなっている。

 初出場校だが、チーム力は今大会上位のレベル。中辻監督がまず称えるのは3年生の取り組みだ。「日本一になって欲しい、国立でやって欲しい、と思わせる3年生のいるチームやと思います」。彼らの52週間の取り組みが「0.01秒の差」を縮めさせ、「福岡王者に相応しいチーム」へ成長させた。

 主将の片山は「チーム全員が一つの目標に対して日々の練習を全力で頑張ったりしてきたことで、自分たちのチーム力が上がったんじゃないかなと思います。(個人としては怪我もあったが、)与えられたメニューを、手を抜かずに一日一日、自分の今出せる全力で積み重ねていくことを意識してやってきた成果がこの選手権で出た」と分析する。

 細部にこだわる姿勢は全国でも。「選手権まで細かいところをやってきたので、ここぞのところでゴール前詰めたり、身体を張れたり、身体を投げ出して守れたり、そういう気持ち、粘りが全国大会でも大事になってくると思います」。その片山は飯塚で感謝の気持ちとメンタル面が鍛えられたという。タレントたちが初の選手権でもチームのために走り、戦い、紙一重の勝負をモノにする。

 目標は初出場初優勝だ。片山は、「本当に自分たちは福岡県を取るというのが一つの夢だったんですけれども、優勝したからには福岡県の代表として初出場初優勝を目指しますし、この初出場初優勝は今年の選手権でしか達成できないので、その目標に向けて169人の部員全員がその目標に対して全力で戦えたらなと思います。今、自分たちが持っているモノを全力で出せれば、日本一というモノが取れるんじゃないかなと思います」と力を込める。

 これに対し、中辻監督は「初出場初優勝に相応しいチームになって欲しいですね。そういう取り組みをやろう、という毎日を送って欲しい。その意志、行動とかが今後の飯塚高校の糧になるだろうし、何かを与えると思う。本気で目指す取り組みをやって欲しい」と求めていた。全国の強豪校が何度も跳ね返されている選手権の壁。それを簡単に勝ち取れるとはもちろん考えていない。「日本一のチームに相応しい」準備ができたか、問われる戦いとなる。

 本気の取り組みを経て迎える選手権デビュー戦。片山は「(2年時に出場した)インターハイとは違う雰囲気で選手権は初めてなので、いつもとは違う環境とか雰囲気の中でサッカーするのでワクワクという気持ちがありますが、その場にすぐに慣れて、自分たちの今持っている最大限の力を出せるように頑張れれば良いと思います」。地元のバーバー(理髪店)や豆腐店とのコラボなども話題となっている新鋭が、初陣から全力で仲間のために走り、戦い、ライバルたちに「0.01秒の差」をつける。

(取材・文 吉田太郎)
▼関連リンク
●【特設】高校選手権2022

TOP