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ピッチとスタンドを繋ぐ抜群の一体感。全国16強の日本文理が最後まで貫き通した「文理らしさ」

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日本文理高は最後まで「文理らしさ」を貫いた

[1.2 全国高校選手権3回戦 日本文理高 0-3 大津高 駒場]

 もちろん負けたことは悔しいけれど、やり切ったという想いもある。バックスタンドから送られる最高の声援を浴びて、自分たちが磨き上げてきた『文理らしさ』を貫くことはしっかりできたし、何よりもようやく辿り着くことのできたこの晴れ舞台は、とにかく楽しかったから。

「3試合とも全部厳しい戦いではあったんですけど、3チームとも異なるスタイルがある中で、自分たちの戦い方は変えずに、自分たちらしく戦えて終わったのは良かったかなと思います。こんな大舞台でできたことが嬉しかったですし、『選手権ってこんなに楽しいんだな』と思いました」(日本文理高・曾根大輝)。

 5年ぶりに冬の全国に帰ってきた日本文理高(新潟)の冒険は、この日の浦和駒場スタジアムで幕を閉じることになった。だが、みんなで築いてきたスタイルを存分に発揮し、ベスト16まで勝ち上がった成果には、大いに胸を張っていい。

 近年の新潟は、強豪ひしめく激戦区として知られている。まず県内を勝ち上がることが難しい。選手権初出場となった96回大会(17年度)でいきなりベスト8進出を果たした日本文理も、ここ4年は全国の扉を開けられずにいた。その間に新潟を制し続けたのが帝京長岡高だ。

 今年のチームは、彼らに喫した“逆転負け”から始まった。昨年度の選手権予選準決勝。前半で2点を先制した日本文理は、しかしそこから帝京長岡に4点を奪われ、悔し過ぎる敗退を突き付けられる。「2-0から負けた経験なんてほぼなかったので、あの試合の印象はメチャメチャ大きかったですね」と振り返るのは、その試合にスタメンで出場していたMF塩崎温大(3年)。悪夢とも表現したくなる、衝撃的な敗戦だった。

 それから1年。再び選手権予選準決勝で対峙した帝京長岡に、またも2点を先制すると、今度はそのまま逞しく勝ち切ってみせる。「あの悔しい経験から、どうやって勝ちに繋げていくかというところをそれぞれが考えながら、自分がやりたいプレーを選択するのか、チームが求めるプレーを選択するのか、というところの判断が、少し上がったのかなというような感じはします」と話したのは駒沢友一監督。決勝でも新潟明訓高相手に、リードを追い付かれる展開を強いられながら、最後は2点差での勝利。チームはこの1年で、確かな勝負強さを身に付けてきた。

 今大会も『文理らしさ』は健在だった。「本当に国立競技場まで行くつもりで準備をしていたので、相手の良さを消しながら、泥臭いサッカーで勝ち上がろうと。周りが何を言おうが、関係なくそこを狙っていこうという形でやっていました」(駒沢監督)。力のあるFW杉本晴生(3年)とFW曾根大輝(3年)の2トップを生かすために、縦へと速い展開で相手を押し込んでいく。

 初戦の立正大淞南高(島根)戦では杉本が2ゴールを、2回戦の成立学園高(東京B)戦は終了間際に曾根が決勝点を、それぞれ挙げて1点差で粘り強く白星を手繰り寄せる。2トップに信頼を寄せるチームメイトに、きっちり結果で応える2人のフォワード。予選決勝後に「やるからには前回のベスト8を超えるとかではなくて、優勝を目指してやっていかないと意味がないと思うので、全国制覇を目標にやっています」と口にした塩崎の言葉通り、選手たちは真剣に全国の頂を目指して、前へと突き進んでいく。

「自分たちも最初はやれるなと思っていたんですけど、いざやってみるとメチャメチャ強かったですね」。曾根が清々しい表情で振り返る。全国8強を目前にした3回戦。スコアは0-3。優勝候補の一角、大津高(熊本)の壁は高かった。

「格上のチームではあるんですけど、我々は相手がどうのこうのということで戦い方が変わるわけではないので、スタイルを貫くという形で、縦に速い攻撃と、前に前にという姿勢は崩さずに行きました。プランとしては前半をゼロで行きたかったというところと、必ず良い時間帯があるはずだから、そういったところからセットプレーも含めてチャンスを窺ったのですが、簡単ではなかったですね」(駒沢監督)。

 良い時間帯は、間違いなくあった。前半の中盤にはMF山田拓実(2年)と曾根が相次いで枠内シュートを打ち込み、システムを4-4-2から3-5-2にシフトした後半も、中ごろまではMF石澤賢汰(3年)のロングスローやCKから惜しいシーンを創出した。だが、前半も後半も良いリズムが失われ始めた矢先に、失点を献上してしまう。

「こっちも粘り強く守っていたので、相手もチャンスが少ない中で、ああいうチャンスを決め切るところは素晴らしいと思います」とは曾根。最後は後半アディショナルタイムにPKで失点して、万事休す。日本文理の全国行進は、ベスト16でその行く先を遮られる結果となった。

 取材エリアに出てきた曾根は、「今は悔しい気持ちと、こんな最高の舞台でプレーできて楽しかったなということと、あとは良い仲間と一緒にプレーできて良かったなという想いがあります」と言い切った後、スタンドから応援してくれた仲間に想いを馳せる。「苦しい時に、ああいう声出し応援が本当に自分たちの背中を押してくれて、力になったので、感謝の気持ちでいっぱいですね」。

 全国出場を決めた予選決勝の試合後。日本文理の選手たちとスタンドが共有する歓喜の時間は、いつまでも、いつまでも、続いていた。「ウチはメッチャ盛り上がるチームなんです(笑)」とは塩崎。『カモン文理』を全員で踊り、何人もの選手がスタンドに向かって優勝旗を掲げ、そのたびに盛り上がったり、盛り上がらなかったり、結局盛り上がったり、を繰り返す。マネージャーに「良いチームですね」と声を掛けると、「いつもこんな感じなんです」とまた笑顔。その場にいる全員が、とにかく楽しそうだった。



 この日のスタンドでも、日本文理の応援席はにぎやかだった。吹奏楽部の演奏を得て、メガホンを叩き、チャントを歌いながら、飛び跳ねる。敗色濃厚になっても、試合終了のその瞬間まで、彼らは歌って、飛び跳ねて、大声を出し続けた。

 曾根の言葉が印象深い。「もちろんどのチームも一体感はあると思うんですけど、そこに関しては『日本文理が一番だな』って自分はずっと思っていたので、本当に一体感のある良いチームだなと思っています」。

 全国のピッチでも、スタンドでも、一体感あふれる『文理らしさ』を貫いた日本文理の挑戦に、大きな拍手を。

(取材・文 土屋雅史)
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