beacon

[MOM4478]福井商FW大谷仁人(3年)_周囲の良さを引き出す「王様にはならない」背番号10を背負うキャプテン

このエントリーをはてなブックマークに追加

福井商高の10番とキャプテンマークを託されるFW大谷仁人(3年)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[10.29 選手権福井県予選準決勝 北陸高 1-1(PK4-5) 福井商高 テクノポート福井スタジアム]

 福井商高の10番とキャプテンを担うのが、FW大谷仁人(3年)。身長は158cmと小柄だが、スピードと上手さを備えたドリブルは魅力十分でピッチで違いを見せるプレイヤーだ。ただ、エースとしての雰囲気を感じさせないようにも見える。

「昨年までの福井商業にはスーパーな選手がいた。でも、今年はそういう選手がいなくて、全員で点数も取って、守備もするチーム」と口にするのは、DF田中俊平(3年)。プレーだけ見れば大谷がエースやスーパーと呼ばれてもおかしくないが、呼ばれないのには理由がある。「大谷は上手いけど王様にはならない。オラオラ系ではない。一人だけ朝早くに筋トレをしたり、上手いけど足りない所を見つけてひた向きに努力できる」(田中)。

 歴代のエースとは少し毛色が違う大谷だが、チームに勝利を引き寄せる存在であるのは先輩たちとの共通点かもしれない。「前半はみんな緊張していたのもあって、練習でやってきたことが出し切れなくて、自分たちのプレーができなかった」と振り返る準決勝の北陸高戦でも特徴を発揮し、攻撃陣を牽引した。

 前半はチームだけでなく、大谷も満足のいく出来とは言い難い。最前線に入る大谷を起点に北陸のビルドアップを奪うトレーニングを積んできたが、プレスをかわすそうと相手が長いボールを増やしたため、上手くハマらない。落ち着かない試合展開となったため、大谷としても良い形でボールを受ける回数は少なかった。

 だが、後半になると持ち味が出始める。「ボールを持ったら思い切って前に行けば良いと言われていた。運ぶプレーはこのチームで一番できると思っているので、自分がチャンスを作ってやろうと思っていた」。見せ場が訪れたのは後半5分。中盤の真ん中でボールを受けた大谷にはスピードに乗ったドリブルで前進していく。「敵の事は考えず一枚剥がしたら、谷口君が良い所に走り込んでいた」と右前方へのパスを選択すると、FW谷口櫂我(2年)がゴール前に入れたボールをMF河原航大(3年)が合わせて均衡を崩した。

 直後の6分には右サイドへの飛び出しから、谷口のシュートを引き出すなど攻撃を活性化させたが、大谷は嫌な予感がしていたという。「後半は1-0で勝ち越せてからチーム全体で落ち着いてしまった。このままでは終わらないと思っていました」。キャプテンとして集中力を切らさないよう声をかけていたが、不安が的中し、25分には同点弾を献上。以降も危ない場面があったが、再び気を引き締めPK戦の末、勝利した。

 入学時からAチームのメンバー入りを果たすなど大谷の実力は確か。元々、技術力のある選手だったが、高校に入ってからは判断の質も高まっている。「中学校の時は攻撃の中心選手として自分の特徴を出していたけど、高校に入ってからはフィジカルの差もあるので味方を使いながら自分の良さを出そうと意識しました」。

 これまではドリブルをしても、ゆっくり持ちすぎる傾向が見られたが、最近は県外勢との練習試合で持ち味が通用する回数が増え、プレーに変化が生まれてきた。「前に運ぶドリブルを意識し始めた。抜くというより、相手を外してチャンスメイクしようと考えている」。先輩たちと同じように一人でゴールまで持ち込むタイプではないが、「一人で攻めるのではなく全員で攻めたい」というスタイルは効果的でドリブルを上手く活用し、周りの良さを引き出せる。決勝の舞台でも大谷らしい働きで、チームを勝たせてくれるだろう。

(取材・文 森田将義)

▼関連リンク
●【特設】高校選手権2023
森田将義
Text by 森田将義

TOP