beacon

「山田でやっていることは間違っていないと証明してくれた」青森山田、恩師のJ1昇格&J2優勝も刺激に日本一奪還へ

このエントリーをはてなブックマークに追加

青森山田高が県27連覇

[11.5 選手権青森県予選決勝 青森山田高 9-0 八戸学院野辺地西高 カクスタ]

 過去7年で3度の全国高校サッカー選手権制覇を果たした青森山田高は5日、今年度の青森県予選決勝を9-0で制し、27年連続29回目の全国切符を掴んだ。29年間にわたってチームを率いた黒田剛前監督が昨季限りで退任したが、19年間ヘッドコーチを務めていた正木昌宣新監督の下で常勝の歴史をつないだ。

 もっとも新たに生まれ変わったチームの中でも、黒田前監督の存在は大きかった。前指揮官は今季、FC町田ゼルビアの監督としてJリーグに異例の転身を遂げ、初年度からクラブ史上初のJ1昇格とJ2優勝という偉業を達成。その活躍ぶりは古巣の生徒たちにも大きな刺激になっていたようだ。

「夏に来てくれた時、選手たちにも『山田でやっていることは間違っていないよ』という話をしてくれた。彼らが『やるぞ』という気持ちを高めてくれた要因の一つになったと思う」

 そう振り返ったのは正木監督。黒田監督は青森山田時代と同様のスタイルを町田でも志向し、ゴール前で身体を張り続ける守備や、相手守備陣の嫌がる攻撃を徹底するしたたかさをチームに植え付けた。その結果、町田は序盤から首位を快走。高校サッカー界で積み上げたスタイルがJリーグでも通用することを身をもって証明していた。

 青森山田高の選手・スタッフは今年7月9日、黒田監督が率いる町田が国立競技場でホームゲーム開催した東京V戦を現地で観戦する機会を持った。ちょうどその日は高円宮杯プレミアリーグEASTの前橋育英高戦が群馬県内で行われていたため、試合を終えてスタジアムに直行。自分たちの試合の記憶も残るホットな心理状態で、38,402人の大観衆の中で指揮を執る恩師の姿を見つめた。

 正木監督によると、この取り組みは選手たちに恩師の晴れ姿を見せるということだけでなく、全国高校選手権の準決勝以降は国立競技場で行われるため、「我々もという気持ちを持って欲しかった」と大舞台へのモチベーションを高める狙いもあったという。

 その目論見は選手たちに伝わっていた。試合を見ていた選手たちからは口々に「自分もプロになりたいと思った」「今度は見る側ではなく、国立のピッチに立ちたい」といった声が聞かれ、また近いサッカースタイルながら高いクオリティーのモデルケースに触れたことで、さらに高いレベルの基準を求めるようになっていった。

 主将のDF山本虎(3年)は「去年まで教えてくれた監督がああやってJの舞台で活躍していて、また山田にいた優大さんや禅斗さんが活躍しているのを見て、試合のクオリティーを見ても高いし、自分たちがそれを目指さないといけないと感じた」と当時を回顧。全国出場を決めた直後ながら「黒田監督からは山田でやっている守備が間違っていないとも言われたので、それを細部まで突き詰めれば日本一が近づくと感じた。そこをプレミア、全国に向けてもっとレベルを上げていきたい」と力を込めた。

 またエースのFW米谷壮史(3年)は「山田でやっていたことが間違っていなかったとプロの世界で証明してくれたので自分も信じてやっていこうとあらためて思った」と振り返り、「ほとんど満席で、応援もすごくて、迫力もすごくて、熱気もすごかった」と国立の雰囲気が印象的だった様子。「今日(県決勝)でも声が通らないくらいの応援だった。国立に行ってその雰囲気を経験したい」とモチベーションを燃やしていた。

 加えて山本はJリーグのレベルに自らを近づけていくための意識も強めていた。「守備は失点したら評価されないし、プロに近づくためにはもっと自分がゴール前で止めたり、1対1で止めたりしないといけない」。黒田前監督の下で近年の高校サッカー界を牽引してきた青森山田。新たな挑戦をスタートさせた恩師が日々示し続けている基準も胸に抱きつつ、覇権奪還に向けての再挑戦をしていく構えだ。

(取材・文 竹内達也)
●第102回全国高校サッカー選手権特集
竹内達也
Text by 竹内達也

TOP