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「勝負ってこんなもの」…大体大・坂本総監督、44年の監督生活に幕

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大阪体育大DF菊池流帆(2年=青森山田高)と握手を交わす坂本康博総監督

[12.15 全日本大学サッカー選手権(インカレ)準決勝 大体大2-3日体大 町田]

 後半アディショナルタイム、大阪体育大の劇的同点弾。悲劇はその1分後に起きた。大きな掛け声と激しい守備で幾度となくチームを救ってきたDF菊池流帆(2年=青森山田高)が鼻血治療のためピッチ外へ。そのわずかな隙を狙った日本体育大MF高井和馬(4年=千葉SCユース)が、豪快な左足シュートを突き刺した。

 2-2の同点弾が決まったとき、坂本康博総監督は延長を視野に入れ始めていた。しかし無情の決勝弾。「まあ勝負ってこんなものでしょう」。試合後、号泣の菊池を労い、坂本総監督はガッチリと握手を交わした。

 インカレの敗退は、44年間勤め上げた坂本総監督の勇退も意味していた。名将は芯の通った声で記憶を蘇らせる。「学生サッカーに飛び込んで44年間。今ではサッカー部の教え子は1500人ほどいるんですよ」。そのうち500人以上が教員、もしくはサッカーの指導を行っているという。インカレ優勝2回、総理大臣杯優勝3回、関西リーグ優勝3回と輝かしい歴史を築き、多くのプロ選手を輩出してきた。しかし「旅立った教え子がサッカー界で色んな仕事をやってくれているというのが一番なんです」と自らの矜持を語る。

 教え子たちが旅立ち、指導者として自らも新天地で育てていく。その縁は途切れることなく、教え子の教え子が、再び坂本総監督の元にやってきている。第93回全国高校サッカー選手権優勝の星稜高を率いる河崎護監督も、旅立った教え子の一人だ。インカレのメンバーには、河崎監督が育てた平田健人(2年=星稜高)、大田賢生(2年=星稜高)と「ある意味、孫弟子」の選手たちが在籍している。「輝かしい実績を上げたとか、プロ選手を何人輩出したとかよりも、今後日本サッカー界を支えてくれる教え子たち」、そしてそこから連綿と続く44年間の絆が、坂本総監督のかけがえのない財産だ。

 今後について、坂本総監督は「しばらくはゆっくりしたいと思います」。優勝して花道を飾るという最高のシナリオは描けなかったが、退任後のプランを語るその笑顔に達成感がにじみ出た。

(取材・文 石川祐介)

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