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雨にも負けず、雷にも負けず、U-17日本代表が「想定外」に揺らがない理由

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後半29分、U-17日本代表がFW佐藤龍之介(FC東京U-18)のゴールを喜ぶ

[6.29 AFC U17アジアカップ準決勝 U-17日本 3-0 U-17イラン]

「昨日の練習で凄まじい雨が降るのを目の当たりにして今日も来るのかなと予想というか、覚悟はしていた。やっぱり来たか、と」(森山佳郎監督)

 29日に行われたAFC U17アジアカップ準決勝。U-17イラン代表との試合に臨んだU-17日本代表にとって、ある意味で相手以上の難敵となったのが環境面だった。

 試合途中から始まった猛烈なスコールは試合の様相を一変させ、轟く雷によって試合は10分ほど中断される事態に。ピッチコンディションも悪く、ズルズルと芝がめくれて足を滑らせるシーンも少なくない。ただ、そんな状況にあっても、選手たちの様子に揺らぐ部分は観られなかった。

「『想定外のことにみんなで対応しよう』というのは、ずっと言ってきたこと。『大雨くるぞ』『ピッチ悪いぞ』『事故が起きて先制されるぞ』『けが人出るぞ』『退場者出るぞ』『PK取られるぞ』……。試合はいろいろなことが起きるもので、想定していないような事態になるもの。そして僕らが戦っていくのは『◯◯が起きたから負けました』で済む世界ではない。そのことはずっと選手たちに言ってきた」(森山監督)

 環境だけでなく、相手についても同じこと。想定していた戦い方と同じようにやってきてくれるとは限らないし、試合中に大きく変化してくることもある。U-20ワールドカップでそうだったように、相手が極端なギアを入れてきたときに対応し切れるかどうか。そこで動揺したり、チーム内での反応がバラバラになるようでは勝ち切ることはできない。

「リードを奪っていれば、相手が捨て身で来ることだってある。『恐ろしいほどに来るかもしれないぞ』とは言いつつ、ただ相手がリスクを取って攻めてきてるなら、ひっくり返せばビッグチャンス。落ち着いて状況を観ながら対応すればいいだけだという話もしてきた」(森山監督)

 こうした点について、指揮官は準々決勝のオーストラリア戦でも手応えを感じていたと言う。

「バテバテになっている中で2-0から2-1にされて危ないと思われたかもしれないが、選手たちから『大丈夫。勝っているのは俺たちなんだから』といった声が自然と出ていて、『だいぶ浸透してきたな』と感じた」(森山監督)

 このイラン戦でも2点のリードを心の安全装置として自然に使いながら、「ゲームを落ち着かせる時間を作った」(MF山本丈偉=東京Vユース)と冷静に対応。極端な豪雨が来ていた時間帯では無駄なリスクを避けて時計を進めることを意識するなど、合理的な判断をチーム内で共有しながら戦うこともできていた。

 3点目の佐藤龍之介(FC東京U-18)のゴールはFKからだったが、これは分析を担当する片桐央視テクニカルスタッフから託された秘策を実践したもの。トレーニングでは軽く確認した程度だったが、「相手の壁はジャンプするので、雨でピッチがスリッピーになっていたら転がして壁下を通せ」という教え通りで、ネガティブな要素になりがちな雨やピッチ状態などの環境面を味方につけた形だった。

「みんなで優勝したい」

 準決勝終了後、監督・選手・スタッフからそれぞれ聞こえてきた同じフレーズだ。韓国との決勝(7月2日21時〜)は特別な試合になるだろうが、「想定外のことにみんなで対応していけるチーム」(MF望月耕平=横浜FMユース)で、アジア連覇を勝ち取りにいく。

(取材・文 川端暁彦)
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