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日本代表新キャプテン・遠藤航単独インタビュー「A代表はW杯優勝を目指しているんだなと日本人全員に思っていてほしい」

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MF遠藤航(シュツットガルト)

 森保ジャパン発足からカタールW杯までの4年半、中心選手として日本代表を支えてきたMF遠藤航(シュツットガルト)は今年6月、キリンチャレンジカップの活動期間中に、第2次森保ジャパンの新キャプテンに就任した。2026年にアメリカ・カナダ・メキシコで開かれる北中米W杯まであと3年間、遠藤はあえて「世界一を目指す」という目標を明確に打ち出し、新たなスタートを切ることを決断した。

 代表活動後の6月下旬、遠藤は自身が主催するオンラインコミュニティ『月刊・遠藤航』のトークイベントで「世界一」発言の真意を説明。日本サッカー協会が「2050年までにW杯を自国開催し、優勝する」と掲げた“JFA2005年宣言”を受け、「それなら今から優勝を目指すべき」だと考えたことを明かした。

 「世界一」という目標は森保一監督もカタールW杯後のメディア出演時にたびたび言及しており、6月シリーズ中の記者会見では遠藤の言葉について「私だけが言うのではなく、プレーしている選手たちがそうやって言ってくれたのは非常に嬉しいなと感じた。みんなで高みを目指して、戦っていける、レベルアップしていける喜びを選手たちに与えてもらった」と前向きに受け止めていた。

 そんな新たなステージに進もうとする日本代表において、遠藤はいかなる形でチームをまとめ上げようとしているのか。『ゲキサカ』では今回、遠藤への単独インタビューを実施。キャプテンとしての歴史、キャプテンとしての信頼にもつながるプレー面のレベルアップ、6月シリーズでの“所信表明”について聞いた。

——シーズン中にカタールW杯が入ってくるという異例で長いシーズンが終わりました。疲労度も違ったのではないでしょうか。
「でもキツイなというのはそれほどなかったですね。ただ長いシーズンではあったし、今回は結構休みを取れていますけど、久しぶりの休みだと思います。そういう意味では(2021年夏の東京)オリンピック、W杯が終わり、ひとつ区切りになるシーズンだったなと思います。あとはしっかり休みたいです(笑)」

——ひとつの区切りの最後には日本代表キャプテン就任という出来事もありました。
「これからもやることは変わらないというのが大前提で、自然体で自分らしさを出そうというところではありますが、実際にキャプテンになったことには感慨深い思いで、すごく楽しみだなという気持ちが大きいです」

——6月シリーズの囲み取材でキャプテンに就任したことを報道陣に明かした際、とても嬉しそうな表情だったのが印象的でした。
「やっぱり嬉しいですよ。代表のキャプテンになれる選手は本当に限られていますし、なった選手も歴代でそれほど多くない。すごく光栄だし、いままでのキャリアを振り返って感慨深いなという感覚です。もちろん、これからいろんなプレッシャーを感じながらやるのかなというイメージもしていますが、基本的にはキャプテンという仕事を楽しみたいなと思います」

——日本代表公式Youtubeの『TeamCam』で、3月の活動の終わりに森保一監督から伝えられたと話していました。どのような形で伝えられたのでしょうか。
「ミーティング前か食事後に呼ばれて『キャプテンにしようと思っている』という話をしていただきました。ただ、その時点では正式発表はまだしない、タイミングは考えるという話で、最終的には6月にジャッジするという感じでしたね」

——それからの3か月間、ブンデスリーガでプレーする感覚は違いましたか。
「特には意識していなかったですね。もし怪我をして6月に行けなかったらどうしようとか、そんなことは考えたりしましたけど(笑)、基本的には代表活動が終わればチームも残留争いをしていたので、そこにフルでフォーカスしている感じでした」

——まずはキャプテンとしての歴史からもう少し話を広げさせてください。まずは過去の話ですが、チームキャプテンの経験はどのカテゴリからですか。
「本当に遡っていったら小学生のチーム(南戸塚SC)からやっていたし、中学校の部活(南戸塚中)でもそうだったし、(湘南ベルマーレの)ユースもそう。育成の代表でもU-19、リオオリンピック(U-23)でやっていたので、昔からキャプテンを任される立場にはいましたね」

——長く所属したチームではほとんどキャプテンをしていた印象もあります。それぞれのカテゴリではどのようなことを考えながら務めていたんでしょう。
「正直、小中学校の時はそこまで考えていなかったですね。単純に『誰がキャプテンやりたい?』『俺がやる』みたいな(笑)。ユースに入ってからも自分がキャプテンになったらああしようこうしようとはそこまで考えていなかったし、単純にキャプテンマークを巻いて先頭でピッチに入るのが好きという感覚でしたね」

——どのあたりでキャプテンという役目の意識、責任感が出てきましたか。
「やっぱりU-19のアジア選手権でU-20W杯を逃したり(※)とか、そういう経験ですね。あの時はキャプテンとしての責任を感じましたし、リオ五輪もグループリーグ敗退を経験したので。キャプテンをやり続けることによって芽生えた気持ちはU-19から五輪までの間に間違いなくありましたね」
※2012年11月、吉田靖監督のもと、遠藤の他に植田直通、久保裕也、大島僚太らを擁した“93ジャパン”はW杯決定戦の準々決勝でイラクに敗れて敗退。

——「もっとこうしなきゃいけない」と感じたのはどのようなことでしょうか。
「チームを同じ方向に向かわせるのが難しかったですね。そこは年代特有のものでもあると思うんですが、高校年代から20代前半の選手たちはすごく難しい年代ですよね。プレーの波があったりするし、メンバーを外されてふて腐れる選手もいるし、メンタル的に成熟していない選手も多い。そういった選手たちをどうまとめるか、どうやって同じチームのためにプレーしてもらうか働きかけることの難しさは感じました」

——12年には湘南のトップチームでも19歳にしてキャプテンに就任していました。世代別代表の経験にも活きていたのでしょうか。
「大きかったですね。そこでキャプテンというイメージがついていたのもあります。ただ、その当時はベテラン選手がいたので助けられながらやっていた感覚ですね。湘南ではどちらかというと、僕が良い経験をさせてもらっていたという立場でした」

——16年に湘南を離れて浦和に入って以降、キャプテンという立場からしばらく離れました。その際に意識していたことはありますか。
「まずは常にチームの中心にいて、チームのためにどうプレーできるかということですね。『キャプテンはどんなことを考えてプレーしているのか』というのはキャプテンじゃない時でも常に考えながらやっていましたし、『キャプテンをどうサポートできるか』という点でもですね。今回のカタールW杯でも(吉田)麻也さんがキャプテンで、うまく自分がサポートできるようにするためには何が必要なのかということを考えながら過ごしていました」

——ロシアW杯後の18年に欧州に渡り、21-22シーズンからは加入3年目のシュツットガルトでキャプテンの役割を任されました。キャプテンではない時期を過ごした経験も活かされていたのでしょうか。
「それはどうでしょうね。ただ大事なのはプレーが良くなっているということだと思います。そこで存在感を出せるようになったことは、キャプテンに必要な要素の一つだと思うので。シュツットガルトに行って最初のほうは試合に出られなかったけど、試合に出始めてからはそれまで自分が積み上げた立場をしっかり確立できて、そのことがキャプテンになるのに必要な成長過程だったと思いますし、そんなに喋るほうの選手じゃない自分にキャプテンを任せるという判断に至ったのではないかなと。日本人の良さであるフォア・ザ・チーム、チームのために何ができるかというのをシュツットガルトでもやれていたと思います」

——昨季は3度の監督交代がありましたが、異なる監督のもとでもキャプテンとして信頼され続けているのはすごいことですよね。監督によって振る舞いを意識的に変えていたりしますか。
「そんなに変えたみたいなのはなくて、自分の自然体、ありのままでいっていた感じです。正直、監督が代わった時はキャプテンを代えられるかなと思ったりもしたけど、同じで行くと言ってくれた。理由はちょっと分からないですけどね(笑)。ただ自分の振る舞いを外から見たり、他の選手やスタッフから聞いていたのかもしれないですね」

——監督が代わるとシステムや起用法も変わり、出番を失う選手もいるという中で、キャプテンの立場からどのようなマネジメントをしていたんでしょう。さきほど育成年代の選手のメンタリティーの話もありましたが、シュツットガルトは若い選手も多かったと思います。
「たしかにシュツットガルトはそのあたりでまだ未熟な選手は多いですよね。でもガーっと言ったりはしないです。どちらかというと気づいてほしいというか、気づかせるべきだと思っているので。ただ、これまでチャンスがなくて急にチャンスが来たという選手は、意外とちゃんとやっています。そこの姿勢は自分が見せているからこそ、伝播していっているのかなというのはありますね」

——近年のシュツットガルトは残留争いの中でも負けを引きずらなかったり、パフォーマンスがきちんと下げ止まる印象があります。キャプテンとして良いメンタリティーを持っているチームに導けているという手応えはありますか。
「ありますね。ちょっとずつですが。自分はそんなに結果に左右されないので、勝っても負けてもやっていることは一緒というか、それが良いことだと思っています。若い選手は波があったりもする中で、自分は安定的にパフォーマンスを出せているというところで、それを若い選手が見て学んでくれているという手応えはありますね」

——欧州トップレベルでプレーする選手はオーラであったり、プレーのところでリーダーをシビアに品定めしている印象があります。その中で気をつけていることはありますか。
「そこはないですね。もし悪く見られるようだったらキャプテンをしないほうがいいし、そもそも選ばれていないと思っているので。たぶん大事なのはどういう状況でもピッチ上でのパフォーマンスが落ちないことで、それを言わせないくらいのパフォーマンスを維持するということ。自分はそれができていると思っているし、だからこそそういったことを言う選手がいないんじゃないかなと思っています」

——ここからはキャプテンとしての信頼にもつながるピッチ上のパフォーマンスについて聞かせてください。シュツットガルトに加入した当初は日本代表と同様、6番(守備的MF)の位置で相手を潰す役割を担っていたのが、いまは8番(セントラルMF)の位置を担うことが多くなり、試合中には10番(トップ下)の位置にまで出ていくなど本当に幅広い働きをしています。何か意識を変えた部分があったのでしょうか。
「相方の選手の特徴であったり、チームのバランスを考えた上でそういうプレースタイルになっていった感じですね。アンカーではなくツーボランチとしてプレーするならゴールに関わるようなプレーが必要になっていくし、特に8番のポジションだったらなおさらそうなりますよね。守備というより攻撃でどう違いを作れるかということは今季トライしてきた部分でもあるし、意識してきた部分ですね」

——STATSBOMBというデータツールで遠藤選手を見ると、スタッツが似ている選手の検索でバルセロナのガビがトップに出てきます。彼は攻撃的な役割で評価されてきた選手ですが、遠藤選手自身はキャリアを通じて攻撃的な役割が徐々にできるようになってきたという実感があるのか、それとも『もともと攻撃もできたけど、今までそういった役割ではなかった』という感覚なのでしょうか。
「もともとできたという“できた”のレベルはあるでしょうけど、ポジションがちょっと変わってもできるとは思っていましたね。もちろん意識の変化もあると思いますが、チームのバランスとか相方の特徴によってプレースタイルを変えられるのは自分の一番の良さだと思っています。ただ自分が活きるより周りの選手を活かしながら、最後は自分がどう結果を残すか、いまはそういった感じでプレーしています」

——まずは与えられた役割をこなしながら自分の強みを乗せていくという点では、CBやSBで起用されながらも「ボランチで勝負したい」と口にし始めていた時期を思い出します。ある種、長い目線でパフォーマンスに余白を作りながらやってきた部分があるのかなと想像するのですが、どのように気持ちを向けてきたんでしょうか。
「いろんなポジションをできるようにしようと思ってやっていたわけではないんですよね。いろんな監督とやっていく中で、結果的に3バックの真ん中をやったり右をやったり、4枚のCBをやったりSBをやったり、ボランチをやったりみたいな。監督が自分をどう評価しているか、どう使っていくかということで、昔はいろんなポジションをやっていた感じですね。ただ、海外に出ていって日本代表でスタメンを勝ち取るためにはボランチだよなということで、あの時は自分がボランチで勝負しにいったという感じでした。それがうまくいって、ロシアW杯後から成長できて、カタールまで行ったという形です。いまはもうちょっと攻撃的なボランチ像でもありますし、同じポジションでも相方やチームのやり方によってプレースタイルを変えていっている感じですね。だからロシアW杯が終わった後が一番ポジションにこだわっていた時期かもしれないです。ボランチで出るんだ、と。いまはまたポジションへのこだわりはそこまでなく、後ろでも真ん中でもできると思っていますし、ロシアまでの間も同じようにいろんなポジションはできるだろうと思っていました」

——もともと守備的なポジションのイメージが強かったぶん、攻撃的なポジションでプレーしているのが意外だというイメージがついているのかもしれないですね。たとえば日本代表でも遠藤選手が3ボランチの前をやっていると「守備的なシステムなんじゃないか」と見られたりと。そのあたりの見られ方のギャップを感じることはありますか。
「多少はあるんじゃないですかね。ただそれは僕だけじゃなく、守備的MFイコールビルドアップができないとか、テクニックがないみたいなイメージがなんとなくあると思うんですよ。上手い選手で言えば走れないとか球際弱いとか(笑)。でも、いまはそういうイメージは持たないほうがいいと思っていて、いまの世界的トップの選手は両方できる選手が多いし、その中で守備が秀でているとかいうレベルの話なので。その意味で言うと自分は、どこでもバランスの良いプレーができて、どのポジションでも高いレベルでこなせるというのが良さだと思っています。

——近年はブンデスリーガで勝利数トップが続いていた“デュエル”を前面に出し、日本人MFのイメージを覆してきたと思いますが、これからはさらにいまのイメージを覆そうといった思いはありますか。
「わざわざ覆しにいこうとは思わないですね。もし今後もシュツットガルトでプレーし続けるのであれば、シュツットガルトの試合を見てくれる人たちはちょっとずつ遠藤航のイメージが変わってくると思うし、代表を中心に見ている人はいまの遠藤航のイメージのままになると思います。そこはどう見られてもいいかなと。大事なのは代表チームの中でアンカーでプレーするのであれば、その良さを出すこと、自分に何が必要なのかを考えること。それはシュツットガルトでもそう。守備的な選手が相方にいるなら、前目のポジションを取ったり、よりゴールに絡もうとする。自分の中で両方とも高いレベルですることが大事で、その結果いろんな見られ方になるというだけかなと思います」

——遠藤選手の強みの一方で、最近の世代別日本代表はボランチにボールを奪う能力が足りないという課題がありました。今後に向けての危機感は感じていますか。
「守備的MFのイメージで『日本人は球際に弱い』というイメージがずっとあったからこそ、自分はデュエルを前面に押し出してやっていたんですが、いまは自分みたいなプレーヤーを目指す選手も増えていると思うので、あまり心配はしていないですね。これからはもっともっと自分みたいなプレーヤーが出てくるんじゃないかと思っています」

——他国を見ると遠藤選手のようにボランチの選手が他のポジションを兼ねていた例も多いですが、日本はボランチ専門の選手が多いです。A代表に新たに選ばれる選手も含め、そのあたりに感じることはありますか。
「A代表に来ると自分を出すのが難しい選手も多いので、そこは(答えるのが)難しいところですね。ただ個人的にはこだわりを持ちすぎないほうがいいんじゃないかとは思っています。『俺はここで勝負したい』というのはもちろん大事だとは思うけど、結果的に自分の選択肢を狭めてしまうこともあるので。監督も『いまのポジションじゃなくてもいいんじゃないか』といろんな可能性を見出そうとしているのに、その選手が否定してしまうと、試合にも使いづらくなる。まずは監督の決断をシンプルに受け入れて、チャレンジしてみる気持ちが持てるかどうかがすごく大事な気がします」

——最後に今後のキャプテン像の話を聞かせてください。実際にキャプテンに就任し、これからこう振る舞いを変えようと思っていることはありますか。
「それがないんですよね。変えようというのは全くないです。いままでの自分をとにかく出すというだけ。変に背伸びしてやんなきゃとなると、うまくいかないと思っているので、ありのままの自分を出していく感じですね」

——キャプテン就任時には3年後の北中米W杯に向けて「これからW杯で世界一を目指していくチームになったけど、選手は次のW杯に出られることが誰も決まっていない」と前置きした上で、年齢や経験に関係なく「代表チームの一員としてプレーするのであればW杯で優勝するために何をしなければいけないのかを一人ひとり考えながら行動してほしい」という所信表明をしていました。あの言葉に込めた思いを教えてください。
「キャプテン就任にあたって、自分のことだけを話すこともできたと思うんですが、それはちょっと違うなと。カタールW杯を終えたタイミングでキャプテンに就任して、いまの若い選手たちは本気でW杯優勝を目指しているので、そういう段階に持っていくためにキャプテンの最初の一言が大事なんじゃないかと考えていました。W杯が終わってからはキャプテンになるかもしれないというイメージはしていたし、3月シリーズが終わってからそういうことも考えながら過ごしてはいたので、ああいう発言になりました」

——毎回メンバーが変わりながら作り上げていく「日本代表」というものを端的に表現した素晴らしいメッセージだと思いました。ここから3年後に向けて、あの言葉どおりの志で集った選手たちによって、どのようなチームにしていきたいですか。
「誰もW杯のメンバーは保証されていないし、代表のチームづくりも当たり前だけど難しい。でも自分が言ったことが本当に全てで、代表に呼ばれたらW杯優勝を目指す集団の一員になり、W杯優勝を目指すんだという自覚をみんな持ってほしいなと思います。もちろんその上で戦術やシステムというチームづくりはあるけど、常に同じメンバーでやるわけではないので、そこは一人一人の適応力がすごく大事になる。その中でも何のためにやっているかはブレないようにすべきだと思うし、そういった芯があるチームは絶対に強い。だからとにかくいま言えることは、『代表に選ばれたらW杯優勝を目指すためにやりましょうよ』ということですね。それだけです。いま代表に入っていない選手でも『A代表はW杯優勝を目指しているんだな』と思っていてほしいし、これから入ってくる若い選手も、サッカーをやっている日本人全員もそう思っていてほしい。メディアのみなさんも日本のファン・サポーターのみなさんもみんながそういう意識でこれからのチームを見守っていてほしいなと思います」

(インタビュー・文 竹内達也)

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