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細谷真大を気にかける上田綺世のFW論「バチバチみたいなのは僕にはない」

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FW上田綺世(フェイエノールト)

 日本代表はアジアカップ第2戦イラク戦(●1-2)から一夜明けた20日、カタール・ドーハの練習施設で再始動した。イラク戦の先発メンバーと後半45分間出場したDF冨安健洋(アーセナル)はホテルでリカバリー調整。それ以外の14選手とトレーニングパートナー5選手がピッチに姿を見せ、約1時間にわたって活気あふれるトレーニングを繰り広げた。

 イラク戦のサブメンバー主体の練習となったが、雰囲気は普段どおり。前日の敗戦を引きずって暗くなるわけでもなく、24日のグループリーグ最終節インドネシア戦に向けて気負う様子もなかった。終了後、報道陣の取材に応じたFW上田綺世(フェイエノールト)は「大会は終わりじゃない」と述べた上で、独自の“切り替え論”を展開した。

「僕らもプロでやっているので、1試合1試合、国を背負ってやっている以上、泣き崩れるわけでもなく次に向かわないといけないし、次も代表として戦わないといけない。切り替えるとか、切り替えないというところでもない」

「次の試合、次の試合と常にやらないといけない。負けたことはもう認めないといけないし、切り替えるも切り替えないも特にないと僕は思っていて、続いていくものだと思っている。もちろん悔しいとか気持ちの浮き沈みがある選手はいると思うけど、僕はそんなネガティブなタイプじゃないので、切り替えるという感覚は特にない」

 第2次森保ジャパン最多の8ゴールを記録してきた上田だが、コンディション不良で合宿に出遅れた今大会は2試合連続で途中出場。初戦のベトナム戦(○4-2)では途中出場から試合を決めるダメ押しゴールを奪った一方、イラク戦では引いて守る相手にスペースを消される中、シュートチャンスは訪れなかった。それでもなお、普段と変わらない様子でシュート練習に励む姿は頼もしく映る。

 初戦のベトナム戦後には、前半45分間で無念の途中交代となったFW細谷真大(柏)に対し、積極的に声をかけながら互いに笑顔を見せ合う姿も見られた。

 細谷は上田からの声かけについて「ポジションも同じなので、すごくコミュニケーションが取りやすい」と語った上で「同じポジションで年下が来たときに仲良くしてくれる選手は少ないんじゃないかと思う。そういった意味でもすごくやりやすくやらせてもらっています」と感謝していたが、上田はこの日、自身にとっての意義を明かした。

「(ベトナム戦では細谷に代わって)僕が途中から出ているわけなので、声をかけづらい部分はもちろんある。ただ別にポジション間でのバチバチみたいなのは僕にはないので。そんなつもりもないし、励ますつもりで喋っているわけでもない。ただ、同じポジションでしか共有できない部分、意見はあると思っている」

 細谷は21年夏のEAFF E-1選手権で初招集されたが、フルメンバーのA代表で迎えた国際大会は今大会が初めて。19年夏のコパ・アメリカ、一昨年末のカタールW杯を経験した上田にもある種のシンパシーがあったようだ。上田はカタールW杯グループリーグ第2戦でハーフタイムに途中交代したことに触れつつ、次のように語った。

「僕もああいう形でW杯で交代したし、代表では45分で交代することもある。個人的にプレーが悪くなくても、そう見えることもある。FWって活かされるポジションなので、不可抗力ということも気持ち的にはある。実際は(不可抗力は)ないんですけど。そういうところを共感できるのはFW同士だと思う。真大の感覚も僕の刺激になる部分が多くあると思っている。真大が試合中にどういうことを感じていたかとか、練習もそうだし、普段どういうふうにゴールとか動き、FWとしての向き合い方を話していければと思っている」(上田)

 FWとしての細谷については「強さもそうだし、あとは準備のところにも特徴があるのかなと思っている」という上田。「単純に速いのはあるけど、常にその準備ができている。Jリーグのプレーはそんなに知らないけど、こうしてやっていても常にゴールを意識している。また足腰が強いというのは一番の武器じゃないかと思っている」と日々の練習でも刺激を受けているようだが、そうした周囲のFWとの交流法は学生時代から続けてきたものだという。

「FWってみんな同じ目的を持ってプレーしているわけじゃないですか。それがポジションの特徴だと思う。GKもそうかもしれないけど。点を取るためにずっとこの立場まで来たと思うので、どういう感覚でプレーしているのかとか、パス1本に対してどうボールに接するのかもFW一人ひとりによって違うし、その得点感も違う。そういうのが面白いし、僕は勉強になる部分だと思っている」(上田)

 サッカーにおける最大の専門職であるゴールキーパー陣は“GKチーム”と称され、仲間意識を持ちながらトレーニングに励み、日々支え合うことが大切にされている。その一方、FWもゴールを奪うことを目的とする専門職と言えるポジションだが、FW同士の関係性はまた異なるものがあるという。

「個人的にいろんなFWの感覚ってどういうのがあるんだろうという好奇心があるだけで、真大とチームを組んでいるつもりはないし、FWとして一体になる必要もないと思っている。ただ、そういうところを共有できたらいいのかなという場面はある」(上田)

 今回の合宿では上田が細谷にアドバイスを送っているように捉えられがちだが、上下関係があるわけではない。「僕らもプロでやっているので、どちらが上でも下でもない。ただ歳が違うだけ。俺が教えることもないし、彼に教えてもらうこともない。彼のいいと思ったところは勝手に盗めばいいし、そうやって自分でアップデートしていくものだと思う」(上田)。アジア王座奪還をかけて過ごす長いアジアカップ期間。引き続き厳しい戦いが繰り広げられていく中でも、日本を代表するストライカーたちの切磋琢磨は日々こうして繰り広げられているようだ。

(取材・文 竹内達也)

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竹内達也
Text by 竹内達也

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