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“緑の若武者”が誓う、東京V入り中央大MF渋谷「緑のバンディエラに」

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 古巣への思いを問われると思わず顔がほころんだ。ジュニア時代から過ごした東京ヴェルディへの復帰を果たした中央大MF渋谷亮(4年=東京Vユース)は「本当に愛情を語り始めたら止まらないんですけど……」と口を開いた。

「自分はずっとファンだったチームの選手になるという不思議な感覚を持っている。そのなかで目指すは、『緑のバンディエラになる』。ローマでいうトッティのような。ヴェルディのトッティになれるように。チームへの愛情をピッチの上で表現できる選手になりたい」

 実父が読売クラブ時代からのサポーターだったこともあり、渋谷は幼少期から東京Vを応援してきた。過去を振り返ると「小学生のときから、一人でヴェルディの練習場にいっていた。変な奴でしたよ」と笑う。小学生の頃は、雨の中で練習見学をした帰りに、MF富澤清太郎(現・横浜FM)の車で駅まで送ってもらったこともあったという。

 熱きサポーターだった渋谷だが、中学生になると東京Vジュニアユースの一員として、緑のユニフォームへ袖を通した。東京Vジュニアユースでは、MF高木善朗(現・清水)やMF小林祐希(現・磐田)と切磋琢磨。高校生となり、ユースに昇格してからも主力選手の一人として中盤からチームを支えた。

 そんな渋谷が高校3年生だった2010年夏。東京Vは経営難からクラブの存続危機に瀕していた。非常事態に大人たちが慌てふためくなか、東京Vユースは快進撃をみせる。クラブユース選手権を制して日本一に輝くと、続いて行われた東京都トーナメントでも優勝。大学生や社会人チームを連続で撃破し、天皇杯東京都代表の座を勝ち取ったのだ。強豪ひしめく東京で高校生年代のクラブが天皇杯本戦出場を果たしたのは史上初。クラブが苦境に立たされる中でユースチームがみせた快進撃は、多くの人の支えとなった。

 そして、トップのホームゲームで行われたクラブユース優勝の報告会。選手代表として挨拶した渋谷は「ヴェルディは、僕たちの未来です!」という名スピーチを残す。その後、輝かしい高校3年生の夏を過ごした渋谷は、中央大へ進学した。

 大学4年間は順風満帆だったわけではない。中央大入学当時は「1年生からバリバリ試合にでて、新人王も取って」と夢を描いていた。しかし、なかなか出場機会を得ることはできず。関東大学リーグで初出場を果たしたのは、大学3年生で迎えた2013年4月8日の慶應義塾大戦。「どれだけユースの仲間に支えられていたのか。仲間の力が強かったのか。もっと一人の選手として高めないといけないな」と感じたという。

 4年生となってからは、名門・中央大の主将も務めた。しかし故障の影響もあり、出場機会は多くなかった。それでも主将としてチームを支え続けると、最終節で劇的な1部残留を果たした。大学4年間を振り返った渋谷は「自分が育った以外のところで得られるものや価値観は全然違った。理不尽な状況でも頑張れることは大切。そういうのをサッカーに転換できれば」と学んだことを話した。

 現在、東京Vを率いるのは冨樫剛一氏だ。中学、高校時代から良く知る恩師の元で再びプレーすることになる。渋谷は冨樫氏から『将来のヴェルディを優勝させるのはお前たちの代だ!』と言われたことを忘れていない。

「そう話した冨樫さんが今トップチームを率いているというのは、相当な覚悟があるんだなということ。冨樫さんはそういう意味では、(東京Vを優勝させるという)同じ夢を抱いている仲間だと思っている。それを叶えさせてあげたい」。

 もちろんチーム愛だけで、やっていけるほど甘い世界ではないことは十二分に承知している。同期で先にトップ昇格していたMF高野光司(現・鹿児島ユナイテッドFC)やGKキローラン菜入(現・松本)はクラブを去った。だからこそ「愛だけじゃだめ。それをピッチで体現できるように」と力は入る。

「ヴェルデイは、僕たちの未来です!」。その未来に自らが立つときが来た。会見で「夢」について問われた渋谷はまっすぐな眼差しで口を開くと「J1でもう一度、東京ヴェルディが優勝するところを自分の父親にみせたい」。緑の血が流れる若武者。その決意は固い。

(取材・文 片岡涼)

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