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古巣のJ1昇格ストップに「複雑」な涙も…大分MF野村直輝が復活ミドル弾「三ツ沢が乗せてくれた」

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大分トリニータMF野村直輝

[10.9 J2第40節 横浜FC 2-3 大分 ニッパツ]

 2-2で迎えた後半27分、大熱戦に決着をつける一撃を沈めたのは横浜FCでプロ生活をスタートさせた大分トリニータMF野村直輝だった。豪快なミドルシュートを叩き込み、プレーオフ出場権を手繰り寄せた31歳は「三ツ沢が乗せてくれた」と感謝を語った。

 3試合連続ベンチスタートの野村は後半22分、今夏加入のFW金崎夢生とともにタッチライン際に立った。勝利すればJ1参入プレーオフ進出が決まる大一番。しかし、頭の中にあったのは目の前の勝利だけだった。

「プレーオフが決まるということは考えていなくて、この試合に勝つこと。夢生くんも『俺たちが決めるぞ』と声をかけてくれていた」。今季は4月中旬に2試合連続ゴールを決めて以降、出場18試合ノーゴール。7月中旬から9月中旬にかけてはメンバー外の時期も経験し、「先のことを考える余裕がない。今日結果を出せなかったら次はないと思ってやっていた」と自身の存在価値を証明するためピッチに入った。

 そんな野村に5分後、歓喜の瞬間が訪れた。相手のポストプレーにDFペレイラが高い位置で制限をかけ、ボールがこぼれると、これを野村が回収。そのまま勢いよく前に持ち出し、周いの味方を使わずに力強く左足を振り抜いた。

「ネットに入ったのは覚えていない」。なぜなら、打った瞬間にゴールを確信したから。「もう走り出していたので記憶があいまい」とホームランバッターさながらの“確信走り”を見せた野村は真っ先にアウェーゴール裏に向かい、雨の中集まったサポーターのもとに飛び込んだ。

「背負っていたものが全部下りた感じがする。本当に数字が欲しかった。あの強烈なシュートとともに全てなくなった感じ」。チームのJ1昇格の可能性を広げるミドルシュートは、野村のこれまでの苦悩をも一気に振り払う一撃となった。

 このゴールが決勝点となった大分はJ1参入プレーオフ出場の権利を勝ち取り、一方で横浜FCは今節の昇格決定を逃す形となった。

 試合後、ヒーローインタビューで「三ツ沢は僕にとってすごく特別で、横浜FCは大卒で5年間お世話になった特別なクラブなので非常に心苦しいところもあるんですけど……」と涙ながらに思いを明かした野村。そんな古巣への感謝の思いは、ミックスゾーンでもあふれ出した。

「(横浜FC)は勝てば昇格ということが決まっていた中、大卒で行き先がなかった僕を取ってくれたクラブだから、『おめでとう』という気持ちと『そうはさせないぞ』という気持ちとが入り混じっていた」

 古巣相手の得点は“恩返し弾”と称されることもあるが、「今日のゴールは非常に複雑。恩返し弾と言ったらカッコいいかもしれないけど、本当は恩返ししたくないというのが正直ある」と切実な心境を吐露した。

 涙の裏には、日本経済大卒業後の2014年からの5年間にわたり、自身を支えてくれた人々の存在もよぎっていたという。「顔見知りのサポーターもたくさんいるので。バーベキューをしたりとか、サポーターとのイベントもすごく密度があった。お世話になったスポンサーさんとも挨拶をさせてもらったけど、そういう方々の顔が思い浮かんできた」。敗れた横浜FC関係者を最後まで気遣っていた。

 もっとも横浜FCは残り2試合で勝ち点2を挙げれば昇格決定。この試合に敗れはしたが、その優位は揺るがない。また大分が今後、J1参入プレーオフを突破すれば、横浜FCとともに昇格できる可能性もある。その結果の行方は、こうした大舞台で試合を決定づける能力を持つ野村にも委ねられる。

 J1参入プレーオフはJ2同士でトーナメント戦2試合を行い、その先にJ1リーグの16位が待ち構えているというレギュレーション。横浜FC時代の2018年にはJ2代表を決める戦いで東京Vの劇的アディショナルタイム弾に屈し、徳島時代の19年にはJ1の湘南に引き分けながら規定により敗退となった苦い経験を持つ野村は、厳しい戦いを見据えながら気を引き締めた。

「僕はプレーオフを2回経験しているけど、めちゃくちゃ厳しい戦いなので、そう簡単に行くものではないというのは分かっている。徳島の時もそうだし、ここ三ツ沢でヴェルディに最後にやられた経験もある。そういうのも含めて良い影響を与えられるよう、笛が鳴るまでわからないということをチームとして理解してもらえるよう良い空気感を出せれば」。J1参入への戦いは残り5試合。慣れ親しんだ場所で復活を遂げた野村の役割はさらに大きくなりそうだ。

(取材・文 竹内達也)
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