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「戦えない選手は出られない」神戸に生まれた“当たり前の競争”、掴んだ「確かな手ごたえ」から初優勝へ

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[11.25 J1第33節 神戸2-1名古屋 ノエスタ]

 吉田孝行監督は達成感を噛み締めた。「スポーツを通して勇気や希望を与えられる存在になりたいと思っていた。震災のことも忘れてほしくないし、先輩たちが築き上げてきたことがあって、(今の選手が)なし遂げてくれたと思います」。

 ヴィッセル神戸が初優勝を飾った。神戸は川崎製鉄水島サッカー部の流れを汲む形で、1994年に創設。97年よりJリーグへの加盟を果たし、2000年代に入るとFW三浦知良らも所属。そして2004年から楽天の三木谷浩史氏が代表を務めるクリムゾンフットボールクラブに経営権が譲渡され、強化が進められることになった。

 大きな話題を集めたのは、何と言っても2018年だ。バルセロナを退団したスペイン代表MFアンドレス・イニエスタを獲得。バルセロナのようなパスサッカーを志向する“バルサ化”をスローガンに、FWルーカス・ポドルスキやFWダビド・ビジャ、DFトーマス・フェルマーレンといった世界的プレーヤーを次々と獲得して、Jリーグに一大旋風を巻き起こすと、19年の天皇杯を制して、初タイトルを獲得した。

 それでも“お家芸”は毎年のように繰り返された。残留争いをしていた昨年は、夏に吉田監督が通算3度目となる就任を果たしたように、相変わらず監督交代は頻繁に行われていた。「何かを変えないといけない」。危機感が生まれるのは当然だった。

 そこで打ち出したのが、“バルサ化”からの脱却とも言える、縦に早くつけるサッカーへの転換だった。するとその戦術変更が奏功。終盤には5連勝を記録して、「確かな手ごたえ」を掴んでいった。そして新シーズン、開幕を3連勝でスタートさせたチームはほとんど首位の座を明け渡すことなく、最後まで走り切った。

 チームの調子が上向く過程で、“バルサ化”の象徴だったイニエスタは、怪我の影響もあったが出場機会を減らしていった。そして夏に5年間の神戸での生活に終止符を打った。

「プロとしてお互い決断した。勝つために自分が選手を選ぶことは当然。競争に勝ち抜いた選手たちが、役割を果たしてくれた」(吉田監督)

「本当にいいチームになった。戦えない選手は出られない。今シーズン最後まで継続できたと思います」(FW武藤嘉紀)

 たとえイニエスタであっても、競争に勝たないと試合に出られない。その当たり前の競争が当たり前にできたという事実が、ヴィッセル神戸というチームをひとつ上のステージへと引き上げた。

 ただ一つ大きな節目を迎えた神戸だが、あくまでも通過点にしなければいけない。吉田監督も「指導者は満足してはいけないと思う」を自らに言い聞かせるように話す。そしてシーズンMVPの呼び声高い活躍をみせたFW大迫勇也も、「いいコンディションでいいシーズンを送れた。みんなでこうやって喜べるのは素晴らしいことだと感じたので、また頑張れる気がします」とさらなるレベルアップとともに、“連覇”への思いを口にした。

(取材・文 児玉幸洋)
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児玉幸洋
Text by 児玉幸洋

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