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“原点回帰”のVAR改革進める佐藤隆治元主審、今季のエラー24件には「来年以降いかに下げていくか」

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 日本サッカー協会(JFA)審判委員会は8日、都内のJFAハウスでレフェリーブリーフィングを行い、2023年のビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)に関する統計データを公開した。VARが採用されたJ1リーグ戦全305試合(1試合はアクシデントで不採用)では、VARオンリーレビューが39回、オンフィールドレビューが67回行われた。

 VARレビューの介入頻度は2.9試合に1回。昨年は4.4試合に1回のペースだったが、より判定精度が高まる3Dオフサイドラインテクノロジーの導入の影響もあって頻度が上がった。JFA審判委員会では今季から、昨季限りで主審を引退した佐藤隆治氏がJFA審判マネジャーのVAR部門を担当。「原点回帰」をテーマに改革にあたってきたという。

 佐藤氏は「これまでは慣れとか自己流とかでいろんなものがあったのは事実。もう1回、基本に戻る」とテーマを掲げ、「(主審を)サポートするという言葉を使わない」という方針を強調していた様子。審判へのサポート可否が判断基準となった場合、審判同士の序列関係が露呈しやすいという課題もあるという中、あくまでも「コンファーム(認証)するか、レビュー(介入)するかの2択」で判断するよう求めていたという。

「VARがサポートという言葉でどうなるかというと、同じ審判仲間で先輩・後輩というのもあるし、キャリアもある。仲間がピッチ上でジャッジしているものをフォローしてあげたいというマインドになる。W杯では同じ国のレフェリー同士が組んで失敗する例を生で見てきた。同じ国のレフェリーが吹いていると先輩、後輩があるし、頭の中では介入しなきゃと思いながらも、サポートできるというマインドになって正しいジャッジができなかったケースがあった」

 そこで重要なのはコンファームか、レビューかというVARプロトコルの遵守だ。「的確な手順で、正しいカメラを選択し、必要最小限の交信をすることが大事。喋ってはダメだとは言わないが、話をすればするほどサポートしてあげたいとなってしまう」。そうした基準の徹底はVARレビューにかかった時間の短縮にもつながった。

 JFA審判委員会によると、今季のJリーグでVARオンリーレビューにかかった時間は1回あたり118.2秒(昨年比3.4秒増)。3Dライン導入による大きな影響を受けなかった。またオンフィールドレビューにかかった時間はVARが作業をするビデオオペレーションルーム内が81.6秒、主審が画面を見るレフェリーレビューエリアが43.6秒。それぞれ昨年比36秒減、同2.2秒減だった。

 佐藤氏はこうした変化について、VARの正確性には配慮しつつも、サッカー競技の魅力を保つためには「スピードは大事だと思っている」と強調。「毎節クリップを見直して、審判員にはこのチェックが遅い、ここが間違っている、このカメラアングルがおかしい、この交信はいらないと伝えてきた。たぶん僕は嫌われていると思いますが、とんでもない緊張感でやってくれた。いっぱい喋って決めることをやめて、モニターを見て決断するのをやってくれた」と審判員の努力を称えた。

 もっともVARオンリーレビューの時間は「120秒が目安だと思っている」とさらなる短縮に意欲を見せた。この根拠は現状、オンフィールドレビューに約124秒かかっていることにあるといい、「3Dラインを引かないといけないシーンがあればサポーターの皆さんに待ってほしい」としながらも、「数字だけで勝負するわけではないが、トータル2分くらいで確認ができれば」と迅速化を進めていく構えだ。

 その一方、VARレビューに伴うエラーも24回あった。内訳はVARオンリーレビューすべきだった事象が2回(得点1回、オフサイド1回)、VARオンリーレビューすべきではなかった事象が1回(オフサイド1回)、オンフィールドレビューすべきだった事象が16回(PK10回、オフサイド1回、乱暴な行為1回、決定的な得点機会の阻止1回、著しく不正なプレー3回)、オンフィールドレビューすべきではなかった事象が5回(著しく不正なプレー3回、決定的な得点機会の阻止1回、APP1回)。そのうち4回はオンフィールドレビューの結果、主審が判定を覆さないという形で誤審を防いだ。

 佐藤氏はこうしたデータについて「はっきりとした明白な間違いという基準を強調していたが、決断をするときに強く意識しすぎることがあり、介入すべき時にできなかったケースがあったのは反省点。最後に決断するときにブレることがあった一因は僕がこれを言い過ぎたからなのかなと思う」と反省しつつ、「来年以降、この(エラーの)数字をいかに下げていくか。VARとしてのクオリティーを上げていこうと思っている」と精度向上を誓った。

(取材・文 竹内達也)
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竹内達也
Text by 竹内達也

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