beacon

タレント軍団・F東京がJ2降格。長年の課題、精神面の弱さを大一番で露呈

このエントリーをはてなブックマークに追加

[12.4 J1第34節 京都2-0F東京 西京極]

 茫然と立ち尽くすしかなかった。夢なら覚めてほしい……。FC東京は勝てば自力でのJ1残留が決まる状況だったが、17位の京都にまさかの0-2完敗。試合終了の笛が鳴ってしばらくして、神戸が浦和に勝ったことが告げられると、多くの選手がピッチ中央で頭を抱え、膝をついた。スタンドでは石川直宏ら欠場した選手も駆けつけ声援を送ったが、みな言葉を失っていた。思いもしなかった初のJ2降格-。F東京イレブンは現実を受け入れらせず、頭が真っ白になっていた。

 「今は何も考えられないです。何が何でも点を取って勝ちたかった。泥臭くてもいいから点が欲しかった。僕らには引き分けでは意味がなかったから…」

 日本代表DF今野泰幸は悲痛の表情で振り返った。目は少しうつろで現実を受け止められない、何が起きたのか整理できていない雰囲気だった。勝ち点36の15位で迎えた最終戦。16位の神戸とは勝ち点差1というプレッシャーのかかるシチュエーションだった。とはいえ、勝てばOKと神戸よりは優位な状況のはずが、FC東京にとっては「勝たなければいけない」という重圧でしかなかった。こんな大一番で、長年のチームの課題であるメンタルの弱さがもろに出た。

 立ち上がりから動きが硬かった。ゴール前までボールを運んでも、最後の部分で思い切ったプレーができなかった。元気なプレーが持ち味のMF石川直宏は怪我で欠場。同じく積極性が売りで経験豊富なFW大黒将志はベンチスタートだった。

 前半34分、集中力を欠いて失点した。左サイドのスローインからディエゴ、中村太亮とつながり、ドゥトラにヘディングシュートを食らったが、ドゥトラはその直前に、痛んで右サイドで倒れていた。起き上がって攻撃に加わったわけだが、FC東京DF陣は、緊張からか周りの状況がきちんと把握しきれていなかった。

 戦術面の意思統一も、焦りからかピッチとベンチで崩れた。0-1のまま後半に入ると、早い時間から本来のサイド攻撃、中盤を作るサッカーではなく、ロングボール主体へと変わった。ベンチは同14分に大黒、同21分にはMF大竹洋平とスピードがあり、DFの裏にしかけられる選手を送り出したが、長身のFW平山相太を目掛けた単調な仕掛けが目立った。

 大熊清監督は「最後のところは指示です。でも後半の25分くらいのところは、指示ではないです。焦りですね。そこは未熟さが出た。自分たちのリズムを失った。予想以上に焦りが出た。特に若い選手は……」と、右SBの椋原健太ら選手たちがゴールを焦るあまり、予定より早い時間からロングボールを多用したことを指摘した。

 一度、そういう流れになると、なかなか変えられない。「先制点を取られて、どうしても点を取りに行かなければいけなくなって焦っていた。ロングボールを入れたけど、全部、跳ね返させれた」とGK権田修一。京都のCBは水本裕貴はスピードがあるが、郭泰輝は難がある。大熊監督は大黒と大竹でまずはそこを突こうとしたが……。F東京は長年『真のチームリーダー』が不在だと言われてきたが、これが大事な試合で影響したかもしれない。

 昨季は2度目のナビスコ杯を制し、リーグ戦も5位と飛躍の年を迎えた。そして今季は途中解任された城福浩監督が「真の意味で優勝争いをする。最終節まで優勝争いをする」と宣言。初のリーグ優勝を目標に掲げていたが、まったく逆の結果になってしまった。シーズン序盤から下位に低迷し、南アフリカW杯後はDF長友佑都がセリエAに移籍した。シーズン途中に大黒を獲得したが、風向きはあまり変わらず、城福監督は9月途中で解任された。かつての指揮官だった大熊清監督を呼び戻したが、負のスパイラルに陥ったチームを変革させるには、あまりにも時間が短すぎた。

 戦力を見れば、この日のスタメンにA代表経験者が6人いたほか、ベンチにも大黒やMF羽生直剛とA代表経験者が控えていた。他クラブと比べるとタレントは豊富だ。でもなぜ、低迷したのか。その理由は何なのか-。大半の選手は「今は何も考えられない」と話したが、MF米本拓司は「自分たちは大丈夫だろうと思っていた部分だと思う。そうは思っていなかったとは思うけど、僕を含めみんなの心のどこかにあった」とわずかな隙があったのではないかと分析した。

 来季は1999年以来となるJ2での戦いが待ち受ける。村林裕社長は「1年でJ1に上がることが最大の目標」としつつも、補強費など資金面に関しては「非常に厳しい。大きく減少します。すでに収入面のシュミレーションはしているが、かなり厳しい」と話しており、今野や梶山、石川や徳永悠平など年俸の高い選手をどこまで維持できるか不透明だ。また外国人補強なども厳しい模様。去就についても多くの選手が「今は何も考えていない」と明かし、残留を明言した中心選手は権田と平山くらいだ。

 この日、サポーターは敵地の京都までバスツアーや個人で約4000人が集結した。悲しい結末が待ち受けていたが、試合終了後はブーイングはせず、応援歌を歌い続けて選手たちを励ました。このサポーターたちのためにも、1年でJ1復帰を果たさなければいけない。何より、首都・東京にJ1クラブが1つもないのは異例の事態だ。平山は「必ず1年でJ1に戻ってきたい」と話した。前途は多難だが、この悔しさをバネにさらに強く、魅力あるクラブに生まれ変わらなければならない。

[写真]敗戦に打ちひしがれるF東京の選手たち

(取材・文 近藤安弘)

TOP