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[MOM3902]関東一FW本間凜(3年)_カンイチの新10番がすべてゴラッソのハットトリック達成!

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関東一高のエース、FW本間凜は圧巻のハットトリック達成!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.11 インターハイ東京都予選準々決勝 国士舘高 0-4 関東一高]

 周囲もその苦悩は察知していたようだ。全国ベスト4の次の世代。託された10番。思うように付いてこない結果。自然と表情は険しくなる。だが、ストライカーはそんなものを一発で吹き飛ばせる“魔法のクスリ”を自分で処方できる。それが何かは、あえて言うまでもないだろう。

「今週はずっと練習で調子が悪くて、親やチームメイトとも話しましたし、『あまり10番を背負い過ぎるな』って(肥田野)蓮治くんにも言われたので、自分が決めなくてもチームが勝てばそれでいいと本当に思っていたんですけど、自分がハットトリックという結果を出して勝てたというのは率直に嬉しいです」。

 3点ともすべてゴラッソでのハットトリック達成。関東一高の新10番。FW本間凜(3年=JSC CHIBA出身)は立ち込めていた暗雲の兆しを、自分の圧倒的な結果でようやく振り払ってみせた。

「今日のアップの時も、みんなは緊張を隠して盛り上げていたんですけど、僕は“緊張しい”なので、あまり人と会話せずに自分の世界に入ろうと思っていました」。国士舘高と対峙するインターハイ予選準々決勝は、チームにとって大会初戦。プリンスリーグ関東2部でも、ここまでわずか1ゴールと結果に恵まれていないストライカーは、緊張を抑え切れない。前半11分にはボールを収めて、左足でフィニッシュまで持ち込むも、軌道は枠の外へ。その一連にゴールの匂いは漂っていなかった。ところが、悩める10番は覚醒する。

 24分。MF鹿岡翔和(3年)がボールを持つと、すぐさまイメージは共有される。「鹿岡とポケットにフワッとしたボールを入れる練習を自主練でずっとしていたので、鹿岡が前を向いた時は『あそこにボールが来るな』という感覚がわかりました。阿吽の呼吸じゃないですけど、『練習通りだな』と」。

 浮き球に反応すると、瞬時に思考を切り替える。「1回胸トラップも考えたんですけど、足元に入ってきたので『振ってみようかな』と」。ダイレクトボレーで叩いたボールは、鮮やかにゴールネットへ吸い込まれる。まずは1点目。

 36分。MF西口昇吾(3年)からパスを引き出すイメージはできていた。「西口はスピードがあるので、あそこで拾ってくれるのがわかって、前に走りました。ペナに入ったか入っていないぐらいだったんですけど、インパクトを重視して膝下振りぐらいでバンッと蹴ったので、練習通りでした」。

 まだゴールまで25メートルはある位置から右足で振り抜いた軌道は、一直線に左スミのゴールネットへ突き刺さる。「あの角度は練習から好きだったので」とは本人だが、「あのサイドネットに突き刺さったシュートは久しぶりに見ました。正直キーパーもノーチャンスだったと思いますし、僕らも『えっ?』って感じだったので、あれはちょっとビックリしましたね」と小野貴裕監督にとっても衝撃的な一撃。続いて2点目。

 後半30分。最初は鹿岡とのワンツーを考えていた。「『鹿岡にシュートを打ってもらおうかな』と思ったんですけど、自分に入った時にあまり相手が来なかったので、反転してシュートを打てるかなという感覚を背中で感じました。本当はファーに打ちたかったんですけど、足が出てくるかなと思って、ニアを狙いました」。

 鋭いターンから右足で打ち切ったシュートは、ゴール左スミへ転がり込む。まさにストライカーらしい決断と実行力で生み出された得点に、思わず相手の選手からも「上手過ぎるだろ……」という声が。見事な3点目。「本当に全部練習通りだなって感じでした」と自ら振り返る素晴らしいゴールばかりを重ねたハットトリックで、本間はチームを快勝に導いてみせた。

 2月にはU-17日本高校選抜選考合宿に参加。小さくない刺激を得るとともに、自らの立ち位置を思い知らされた。「自分より2段階ぐらい上のスキルの人ばかりで、力が及ばなかったので、監督にも『オマエは個人じゃまだまだなんだ』って。『蓮治がいたから活躍できたんだ』とも言われて、それでも自分がやらなきゃいけないと思っていたので、自分1人で行けるパワーを持ちたかったんですけど、この数か月ではまだその力は付いていないと思います」。

 その気負いや重圧を察知した肥田野蓮治(桐蔭横浜大)は、冒頭のように10番の後継者へメッセージを送ったという。良い意味でプレッシャーを掛け続けている指揮官や、優しく見守ってくれる先輩が周囲にいることは、本間にとっていくつもの成長のきっかけを、これからも与えてくれることだろう。

 夏の徳島まではあと1勝。全国大会には、置き忘れてきたものがある。「この夏で全国に行けたら、まずは先輩たちと同じラインに行けるなという感覚です。だから、別に自分たちがどう見られようがカンイチのスタイルで次も勝って、また全国で結果を残して、先輩たちに恩返しができればいいなと思います」。

 先輩たちへの恩返しと、自らの実力の証明と。類稀なる得点感覚を備えた本間がさらなる爆発を重ねれば、それが関東一を約束のステージへと再び連れていくはずだ。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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