beacon

「少しずつでもステップアップできる」のが最大の強み。國學院久我山が修徳との激闘をPK戦で制して全国へ!:東京

このエントリーをはてなブックマークに追加

國學院久我山高はPK戦を制して3大会ぶりの全国へ!

[6.17 インターハイ東京都予選準決勝 修徳高 1-1 PK3-4 國學院久我山高 西が丘]

 決してスーパーな選手がいるわけではないし、相手を圧倒し続けるだけのパワーがあるわけではないけれど、ちょっとずつ、ちょっとずつ、みんなでできることを積み上げてきたからこそ、接戦でも、PK戦でも、みんなで勝ち切れるような力を、確実に身に着けてきたのだ。

「ウチのチームの良いところで言えば、少しずつ良くなるんですよね。3月よりは4月、4月よりは5月、今度は6月もあって、夏を越えたらと、少しずつでもステップアップできるというのは、ウチの1つの特徴のように感じます」(國學院久我山高・李済華監督)

 激闘の末に総力戦で掴んだ全国切符。令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技東京都予選準決勝が17日、味の素フィールド西が丘で開催され、関東大会王者の修徳高と、2019年以来の全国を目指す國學院久我山高が激突した一戦は、後半9分にFW牧村光世(3年)のゴールで修徳が先制したものの、37分にDF馬場翔大(3年)が同点弾を叩き込んだ國學院久我山が、最後はPK戦で競り勝って、3大会ぶり11回目のインターハイ出場を手繰り寄せた。

 オープニングシュートは前半3分の修徳。左サイドでボールを受けた注目FWンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄(3年)がカットインからシュートを打ち切り、軌道は枠を越えたものの好トライ。國學院久我山も9分には高い位置で相手のビルドアップをFW小宮将生(3年)が引っ掛け、FW前島魁人(2年)にボールが届くも、ここは素早く修徳DFも寄せて、飛び出したGK小森獅音(3年)がセーブ。お互いに1つずつチャンスを作り合う。

 ただ、國學院久我山のキャプテンを務めるDF普久原陽平(3年)が「前半はそんなに良いゲームをできたわけじゃなかったですけど、相手もそんなに良いわけではなかったと思います」と話したように、お互いにやや慎重な姿勢は崩さず、試合は膠着状態に。31分は國學院久我山。FW菅井友喜(3年)のパスから、MF山脇舞斗(3年)が枠に収めたシュートは小森がキャッチ。34分は修徳。中央やや左、ゴールまで約25メートルの位置からMF田島慎之佑(3年)が直接狙ったFKは枠の上へ。最初の40分間はスコアレスのまま、後半へと折り返す。

 試合が動いたのは後半10分。中盤でボールを収めたMF高島陸(2年)が左へ振り分け、田島は鋭いクロスを中央へグサリ。國學院久我山GK太田陽彩(2年)は懸命に弾き出したものの、こぼれ球にいち早く反応した牧村がゴールネットへ丁寧にボールを流し込む。1-0。先制点は修徳が奪う。

「もともと自分たちは最初に失点することが多くて、そこからでも巻き返せる力はずっとあったので、そんなに慌てることはなくて、『落ち着いてやろう』とは話していました」と馬場も口にした國學院久我山は1点を追い掛ける展開の中で、「途中から出た子たちが活躍した感じがありましたね」と李済華監督も口にしたように、FW佐々木登羽(3年)、FW保土原海翔(3年)、FW高井琉士(3年)と相次いで送り込まれたアタッカーが積極的に仕掛けるものの、ゴールを陥れるまでには至らない。

 後半の途中からはかなり押し込まれる展開を強いられた修徳も、DF平山俊介(3年)、DF山口春汰(3年)、DF島田侑歩(3年)が並んだディフェンスラインを中心に懸命の守備を続けたが、勝利が見えてきた最終盤に國學院久我山が執念を結実させる。

 37分。中盤から運んだ保土原のパスを、山脇がそのまま左へ繋ぐと、「監督からも『ゴール前で受けたらシュートを狙え』とは言われていた」という馬場がミドルレンジから右足一閃。ボールは低い弾道で左スミのゴールネットへ突き刺さる。「あの子はパンチ力とキックの強さは持っているんですよ」と李監督も評した馬場が起死回生の同点弾。さらにアディショナルタイムにFW下塩入俊祐(3年)が放った決定的なボレーはポストを直撃したものの、國學院久我山が土壇場で追い付いたゲームは、前後半10分ずつの延長戦でも決着は付かず。全国への出場権はPK戦で争われることになる。

 昨年度の國學院久我山は苦い黒星を経験していた。高校選手権3回戦。岡山学芸館高との一戦は終始押し気味に試合を進めながら、得点は奪えずに0-0で終了。もつれ込んだPK戦では全員が決めた岡山学芸館に対し、國學院久我山は1人目がGKに止められたことで無念の敗退。この一戦を制した勝者は、結果的に日本一へと駆け上がる。

「岡山学芸館の方が練習してきた蹴り方をしていて、自分たちはそんなに準備できずに、向こうはちゃんと準備してきたことでの負けだったので、『そこで負けるのはもったいないんじゃないか』とみんなで話したんです」(普久原)。

 先攻の修徳も、後攻の國學院久我山も1人目は成功。2人目は修徳が枠外で、國學院久我山のキックは小森がビッグセーブで仁王立ち。3人目は再び双方がゴールに沈めたものの、修徳4人目のキックはゴール左に外れ、國學院久我山4人目は冷静にGKの逆を突いて成功させる。

 運命の5人目。外せば負けというキックを、修徳のMF大畑響道(3年)は確実に成功。小森に想いを託す。國學院久我山5人目は山脇。今シーズンの10番が蹴り込んだボールは、ゴールネットを揺らして勝負あり。

「タイトルを獲るのはやっぱりハードですよ。だから、そういう意味ではハードなゲームを良く勝ったなと思います。私は主義として『オマエ、PKなんてやってるんじゃないよ。勝つためにやっているんだろ。PKなんていらないよ』と言うんだけど、アイツらはせっせとPKの練習をしていましたから(笑)」と李監督が笑えば、「李さんは練習するなとは言いますし(笑)、『試合で決めろ』とは言いますけど、今日みたいなことはあるので、練習してきて良かったなと思います」とやはり笑顔で語ったのは普久原。練習の成果も確実に生かした國學院久我山が粘り勝ち。北海道へと乗り込むための、東京の代表権を獲得した。



「メンバーが毎年変わるというのが高校サッカーの良さなんですけど、私たちの頭の中では、『もう去年の選手と比べるのはやめよう』と今年の最初にスタッフで話しました。そういう気持ちは言葉の1つ1つで絶対に子どもたちに伝わってしまうんですよ。去年と比べてもダメだし、今年は今年の個性がある子たちなんだから、それを生かしてやろうと。マジメにやる子たちなので」と李監督はスタッフ陣の想いを明かしている。

 選手たちも“今年のチーム”ということには自覚的だ。「去年は前線も凄い選手ばかりでしたけど、今年は1人で行けるような選手たちばかりではないので、繋いで、繋いでということが最近は形になってきて、結構ゴールも獲れるようになってきたんですよね」と普久原が話せば、「去年は凄く良い選手たちが揃っていましたけど、今年は平均してみんな同じぐらいの能力で、しかもそれが結構高いレベルなので、交代した選手も同じようにプレーできるところは強みなのかなと思います」と馬場。確かにこの日も交代出場したアタッカーたちの“ボディブロー”が、ジワジワと修徳ディフェンスに疲労感を刻み込んでいったことも、終盤の同点ゴールと無関係ではないだろう。

 チームの確かな成長を実感しているというキャプテンの普久原が「このチームは最初の頃は勝ち切る力がなくて、練習試合でもなかなか勝てなかったんです。攻撃も全然噛み合わなくて、かと言って守備のチームではないので、攻撃のチームなんだけど、攻撃しきれないみたいな試合が続いてしまっていました。でも、今日みたいにしっかり押し込むことができるようになってきましたし、後ろが安定してきたことで、跳ね返されてもすぐにマイボールにできるようなチームになってきたのかなと思います」と語った言葉も、指揮官が口にした『少しずつでもステップアップできるというウチの1つの特徴』というフレーズと、はっきりとした線を結ぶ。

「選手権で全国を経験した選手は何人もいますし、全国の舞台を知っているということはアドバンテージになると思うので、そういう利点を生かして、1個1個しっかり勝っていきたいと思います」(普久原)。ちょっとずつでも、確実に成長し続ける2023年の國學院久我山が、夏の全国までにどのくらいその力を積み上げていくのか、今からとにかく楽しみだ。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

TOP