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W杯、懸念される南アフリカの治安

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[ヨハネスブルク 9日 ロイター]
 日本代表が世界で最も早く本大会出場を決めたサッカーの10年ワールドカップ(W杯)だが、開催地の南アフリカは強盗や殺人、婦女暴行といった犯罪も多く、世界中から集まるサッカーファンの安全が懸念されている。

 南アフリカは世界で最も凶悪犯罪率が高い国の1つ。人口約5000万人の同国では、人口が6倍の米国よりも多い1日当たり約50件の殺人事件が発生している。公式の統計では、07─08年にレイプ事件3万6190件、自動車乗っ取り事件1万4201件が報告されているが、実際には報告されない犯罪も多いという。

 W杯の主催者側は、南アフリカが増加する外国人旅行者の安全確保で実績を挙げているとし、大会期間中の治安に対する懸念を一蹴する。

 警察当局はW杯の安全対策について、02年に同国で開催された地球サミットで蓄えたノウハウを基にするとみられる。来年のW杯で安全対策を率いる警察幹部のビシュ・ナイドー氏は「(万全の)態勢を敷いているが、最悪のシナリオや不測の事態に備えている」と語る。

 また南アフリカ政府は、新型ヘリコプターや無人偵察機などの配備を含め、W杯の安全対策に総額13億ランド(約160億円)を投じている。スタジアム周辺には多くの民間警備員に加え、700人前後の警察官が配備される見通し。

 しかし、来場者が警備地域から迷い出てしまった場合など、W杯会場の外で何が起こるかは分からない。匿名の治安問題の専門家は、W杯開催に便乗しようとする現地の犯罪者は、厳重に警備された場所をターゲットにする可能性は低いが、警戒の薄くなる地域を狙うと指摘している。

<裕福な外国人がターゲットに>

 現地のW杯組織委員会のスポークスマン、リッチ・マコンド氏は「あらゆることに警戒するよう呼びかけている。われわれは車や部屋の中にいる人まで守れないが、警察官の助けがあるはずだ」と述べる。

 一方、南アフリカの多くの人々は、犯罪急増に対する警察の動きが鈍いとし、当局によるW杯の安全対策には懐疑的だ。犯罪の多い都市部では、警察よりも民間警備会社の存在感の方が目立っている。

 犯罪対策は南アフリカにとって最も緊急を要する課題であり、ズマ新大統領は警察および司法の体制強化を明言している。

 しかし、比較的裕福な外国からのサッカーファンは現地犯罪組織の格好のターゲットになりかねず、10年のW杯開催中に南アフリカが国際的評価を失墜させないためには、明らかに特別な取り組みが必要になる。

 あるタクシー運転手は「貧しく仕事も失い、子どもを食べさせる余裕もないときに、観光客が派手な車に乗り、サッカーチームを祝福するためだけに散在しているのを目の当たりにしたら、頭に来ても不思議はない」と語っている。



 一方、過去20年で初めての景気後退(リセッション)を経験している南アフリカにとって、W杯開催に伴う巨額なインフラ整備は景気押し上げにつながり、犯罪の温床になる貧富格差も解決できると期待する声も聞かれる。

 W杯組織委員会は、海外からの試合観戦者を誘致するマーケティングキャンペーンを開始しており、これまでのところ、サッカーファンが南アフリカへの渡航を思いとどまるような傾向は見られないという。

 今年に入って販売されたチケット75万3000枚には、180万件前後の申し込みがあった。マコンド氏は「決勝戦は3000%の申し込み超過状態。64試合中の26試合が完売だ」としている。

 また、W杯組織委員会のダニー・ジョーダン最高経営責任者(CEO)は、南アフリカが94年のアパルトヘイト(人種隔離)撤廃以降、クリケットやラグビーのW杯を含む140以上の大規模イベントを開催してきた実績を強調し、同国の治安に対する懸念を否定している。

<写真>6月9日、10年サッカーW杯では南アフリカの治安問題が懸念されている。写真は警察が行った治安対策訓練の様子。プレトリアで昨年10月撮影(2009年 ロイター/Siphiwe Sibeko)

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