beacon

急逝した仲間に捧げる世界一、史上8ヵ国目の戴冠にイニエスタ「言葉にならない」

このエントリーをはてなブックマークに追加

[7.11 W杯決勝 オランダ0-1(延長)スペイン サッカーシティ]

 80年に及ぶW杯の歴史に新たな1ページが刻まれた。1934年大会の初出場から13回目の挑戦にして、ついにスペインが世界の頂点に立った。

 ウルグアイ、イタリア、西ドイツ、ブラジル、イングランド、アルゼンチン、フランス。歴代の偉大なるチームに続く史上8番目の優勝国が誕生した。

 「言葉にならない。W杯で優勝した気持ちを表現することなんてできない。今でもまだ信じられないんだ」。殊勲のMFアンドレス・イニエスタは試合後も興奮冷めやらぬ様子でまくしたてた。

 最後まで攻めて攻めて、攻め抜いた。スペインがスペインらしく初の栄誉に輝いた。

 延長後半11分、FWフェルナンド・トーレスが左サイドからクロスを送ると、MFファン・デル・ファールトのクリアが弱くなる。こぼれ球を拾ったMFセスク・ファブレガスは右サイドでフリーのイニエスタを見逃さなかった。絶妙かつ丁寧なスルーパス。オフサイドラインをかいくぐったイニエスタは正確なトラップから右足を振り抜いた。

 揺れるゴールネット。116分目にしてようやく生まれた先制点。ユニフォームを脱いで歓喜の雄叫びをあげるイニエスタのアンダーシャツには「ダニ・ハルケ 俺たちはいつも一緒だ」との言葉が書かれていた。

 昨年8月8日、遠征先のイタリアのホテルで急性心筋梗塞により26歳の若さで急逝したエスパニョールの元主将、ダニエル・ハルケへのメッセージだった。U-17、U-19、U-20、U-21スペイン代表でともにプレーし、02年のU-19欧州選手権ではチームメイトとして欧州の頂点に立った。「ダニと一緒にこの舞台に立ちたかった。何かの形でダニへの敬意を表したかった。今日がそのときだと思ったんだ」。ともに若きスペイン代表を引っ張り、悲願のW杯制覇への礎を築いた天国の仲間に捧げる優勝だった。

 序盤からボールポゼッションを高め、中盤を支配した。しかし、オランダのファウル覚悟の厳しいディフェンスに苦しめられた。中盤ではパスを回せても、なかなかゴール前に迫ることができない。それでも、自分たちのやることに迷いはなかった。愚直にボールをつなぎ、チャンスを待つ。カウンターに冷や汗をかく場面もあったが、オランダの守備に穴が開くのを待ち続けた。

 延長戦に入ると、足の止まり出したオランダ相手に立て続けに決定機をつくる。延長前半5分にはイニエスタのスルーパスからセスクが決定的なシュートを放ち、その4分後には今度はセスクのスルーパスを受けたイニエスタが絶好機を迎えた。延長後半5分にはDFハイティンハが2枚目の警告で退場となり、数的優位に立った。あと少し…。スペインの執念が、パスサッカーへのこだわりが、最後の最後に勝利を引き寄せた。世界最高のサッカーを見せるスペインにW杯の女神が微笑んだ。

 「忘れることのできない瞬間だ。ロッカールームは歓喜に包まれている。今の状況をどう言葉で説明していいのか分からない。我々を支えてくれたすべてのサポーターに感謝したい。選手と同じように今、この時間を楽しんでほしい」。ビセンテ・デル・ボスケ監督は感慨深げに語った。

 「とにかくスペインに帰って、みんなと喜びを分かち合いたい」とイニエスタ。この瞬間を待ちわびていたスペイン国民とともに。情熱の国が燃えている。

<写真>「ダニ・ハルケ 俺たちはいつも一緒だ」の文字が書かれたシャツ

(取材・文 西山紘平)

▼関連リンク
W杯南アフリカ大会ページ

TOP