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内側で揺らめく静かな炎。京都U-18MF中野瑠馬がドリブルの先に見据える未来

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京都サンガF.C.U-18の超絶スラローマー、中野瑠馬

[2020シーズンへ向けて](※京都サンガF.C.の協力により、オンライン取材をさせて頂いています)

 悔しい気持ちがなかったと言ったら嘘になる。それでも、自分の中で折り合いを付けつつ、もっと活躍する未来をイメージしながら、謙虚に前を向いた。「あの時はちょっと自分を上に見過ぎていたというか、『代表に入らなあかん』みたいな感じで思っていたんです。でも、ワールドカップも学ぼうとテレビで見ていましたし、やっぱりもっと学ぶものがあったなと思っています」。内側で揺らめく静かな炎の温度は決して低くない。京都サンガF.C.U-18の超絶スラローマー。中野瑠馬(3年)は自らのドリブルの先に、確かな未来を見据えている。

 大阪の賢明学院中学サッカー部で技術を磨いていた15歳は、ある試合をきっかけに古都の名門へと進路を取ることになる。「プーマカップという大会でサンガと試合をして、その時に声を掛けてもらって、練習会に行ったんですけど、実際に寮も見させてもらって、学校にも行かせてもらって、『サッカーに集中できる環境が整っているな』と思ったのでサンガを選びました」。

 1年時から既に高円宮杯プレミアリーグWESTで2得点を挙げるなど、上々の高校生活を滑り出したものの、一転して昨年は想定外の事態からスタートした。「2月にケガして、プレミア開幕のちょっと前ぐらいに治ったんですけど、全然試合に絡めないうちにまたケガしてしまって、『2年ではもっと活躍しよう』と思っていたので、結構焦りが出てきていました」。最初の中断に入る6節までのリーグ戦出場は通算で20分程度。なかなか思うような流れを作り出せない。

 ようやく才能が輝いたのは、第8節のガンバ大阪ユース戦。2点リードで迎えた後半6分。左サイドでボールを受けた中野は、エリア内でマーカーを切り返しながらちぎると、飛び出したキーパーまでかわして中央にラストパス。完璧なアシストを決めてみせる。「アレ、ホンマはオウンゴールなんですよ。味方が触っていないんです」と本人は笑うが、そのドリブルの切れ味は驚異的。さらにカウンターから自らもゴールを奪い、結果という形でチームの勝利に貢献。ここを境に再び自信を纏(まと)い始める。

 その陰にあった“先輩たちのアシスト”も語り落とせないという。「去年は特にチームでプレーしやすかったですね。『ミスしてもどんどん仕掛けろ』みたいにずっと言われていて、日常でも学年とか良い意味であまり関係なく、メッチャ周りの人たちがやりやすかったので、それも調子が良くなってきた要因かなと思います。クラブユースもそういうのが出たから楽しかったですね」。

 本人も言及した真夏のクラブユース選手権でも、全6試合でスタメンに指名され、3得点を記録。ベスト4進出の一翼を担う活躍を披露する。だが、大きな目標に置いていた10月のFIFA U-17ワールドカップメンバーからは落選。世界の扉を叩く機会はお預けとなった。

「アジア予選が終わってから、去年はワールドカップを目標にやっていたんですけど、7月の新潟国際でのプレーが全然ダメ過ぎたので、逆に『そらそやろな』みたいな感じでしたね。結構落ち込みましたけど、切り替えようと思っていました」。悔しい気持ちがなかったと言ったら嘘になる。それでも、自分の中で折り合いを付けつつ、もっと活躍する未来をイメージしながら、謙虚に前を向いた。

「あの時はちょっと自分を上に見過ぎていたというか、『代表に入らなあかん』みたいな感じで思っていたんです。でも、ワールドカップも学ぼうとテレビで見ていましたし、やっぱりもっと学ぶものがあったなと思っています」。何を学ぶかは明確だった。ドリブルには自信がある。あとは試合の流れを感じて、どう動いていくか。とりわけ同い年で、タイプも近い三戸舜介(JFAアカデミー福島U-18)のプレーが参考になったという。

 今年からサンガの指揮官を務める前嶋聰志監督は、「表には出さないけど、かなり自分の中でメラメラしているものは抱えていたのかなと思います」と心情を推し量りながら、中野に対する期待を隠さない。「彼と言ったら『スピード、ドリブル突破、カットインからシュート』じゃないですか。でも、インサイドハーフとかやったら上手いんですよ。そういう前線のちょっと気を配ることが必要なポジションへトライさせた時に『こんな能力があるんだ』って一番思わされたのは瑠馬なんですよね。だからこそ、これからがものすごく楽しみです」。

 この自粛期間で、サッカーへ対する想いもより深まったようだ。「最初はこんなにサッカーできひんようになると思っていなかったですし、2か月ぐらいずっと寮から家に帰る期間があって、『サッカーをやりたいな』とずっと思っていて、やっぱりみんなでやるのは楽しいので、仲間の良さを感じました」。その上で、残された時間でやるべきことも明確に捉えている。

「1対1のドリブルは負けない自信があって、そういう所はまだまだ上でも戦えると思っていますけど、試合の中で相手のことを観察したりする部分が自分はまだ足りていないと思うので、そういう所をもっと伸ばしていかないといけないと感じています。U-17ではワールドカップに出られなかったので、大人になってA代表でワールドカップに出たいですね」。

「もともとはプレミアで得点王を目指していたんですけど、残っている試合でもチームの中心になって活躍したろと考えていますし、今年はトップに上がれるか決まる年なので、そのためにも最高学年として、チームの中心になって引っ張っていければいいと思っています」。

 内側で揺らめく青い炎の温度は決して低くない。次に世界と対峙するチャンスが来たら、自分が主役になってみせる。京都サンガF.C.U-18の超絶スラローマー。中野瑠馬は自らのドリブルの先に、確かな未来を見据えている。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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