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[MOM4012]関東一FW杉山諄(3年)_「自分のため」より「チームのため」にやり切る。Bチームから這い上がってきたアタッカーが貫く信念

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関東一高に新たなパワーをもたらしているFW杉山諄

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[10.1 高円宮杯プリンスリーグ関東2部第11節 関東一高 1-0 桐蔭学園 駒沢補助]

 遅れてきた3年生が、チームの中で着実に存在感を高めている。ようやく掴んだチャンス。出し惜しみなんて、していられるはずもない。攻撃も、守備も、自分にできることを全力で、真摯にやり切るだけだ。

「自分は守備を頑張ったり、相手の背後に走ったり、ちょこまかしながら相手の嫌なところに入っていくのが持ち味なので、そこはもう1ミリでも力を抜いてはいけないですし、全力で試合の入りからやっています。90分を効率良くやろうと思うと自分はダメなタイプなので、『やり切る』『走り切る』ということを意識しています」。

 シーズンも終盤戦に差し掛かってきた、このタイミングでスタメンを手にしつつある全力系アタッカー。FW杉山諄(3年=FCトリプレッタジュニアユース出身)は関東一高(東京)のラストピースになり得る可能性を十分に秘めている。

 試合開始からエネルギッシュなプレーが一際目を引いていた。3連敗で迎えたプリンスリーグの桐蔭学園高(神奈川)戦。ピッチで一番大きな40番を背負った小柄なフォワードは、攻撃でチームが前進する基点を作ったかと思えば、守備でも果敢に前線から相手へプレッシャーを掛け続ける。

「これまで自分たちは流れが悪かったので、リーグ戦が1週空いたその時期に、全員で『もう1回元気よく、明るくやろう』ということを話したんです、なので、今日のゲームの入りは、パワフルに力を持って入れたと思います」と明かした杉山が、そのパワフルさの急先鋒。勢いを掴んだ関東一は、エースのFW本間凜(3年)が前半のうちに先制ゴールをゲット。以降は相手の猛攻にさらされる時間も長い中で、全員が集中力高く、サボらずに、時間を経過させていく。

 終わってみれば、相手を無失点に抑えての見事な完封勝利。「最後まで全員の集中が本当に切れていなかったので、そこが勝てた要因かなと思っています」と笑った杉山は、タイムアップの瞬間に精魂尽き果て、ピッチに座り込む。リーグ戦では5試合ぶり、公式戦でも3か月ぶりの勝利に、チームの歓喜が爆発した。

 昨シーズンの1年は悔しさを突き付けられる時間だった。夏過ぎまではトップチームでプレーしていたものの、なかなか思うようなパフォーマンスを発揮できず、少しずつ序列が下がっていく。その一方で同級生の本間が頭角を現し、一気にチームのエースストライカーに。「凛がパーッと行っちゃったので、凄いなとは思っていましたし、良いヤツなので応援したい想いもありましたけど、メチャクチャ悔しかったですね」と杉山はその頃の想いを正直に明かす。

 新チームになっても主戦場はBチーム。インターハイでもメンバーに入ることはできず、焦りばかりが募っていったものの、あるコーチからのアドバイスが心にスッと入ってくる。「鈴木隼平コーチに『チャンスは絶対に来るから、今は我慢だ。そのためにちゃんと自分の実力も今付けていこう』と言ってもらえたので、落ち込むことは全然なくて、夏を過ぎてからは『オレがやるんだ』と思いながらBチームでの練習を前向きにやれたので、それは本当に大きかったかなと思います」。

 9月に入ってプリンスの山梨学院高戦でスタメンに抜擢されると、この日も2試合続けての先発起用。小野貴裕監督も「サッカー観のある子なので、落とすボールも良いですし、アクセントを加えてくれていますね」と高評価を与えており、一気にチームの主力候補へと名乗りを上げている。

 桐蔭学園戦でも2トップを組んだ本間も、“パートナー”についてこう語っている。「前まではライバルという感じで、スタメンを奪われないように意識していたんですけど、今はアツシと組んだら2トップで行ける感じもあって、ヘディングをそらしたらアツシがいてくれますし、アツシがサイドに起点を作ってくれることで、自分が中にいられるようなところもあるので、正直頼っている部分はありますね」。

 その感覚はもちろん杉山も共有している。「今はこうして凛と2トップで出れていて、近くで感じる凄さもありますし、『絶対にアイツには負けないぞ』と思ってやれてもいるので、凄く良い関係だと思います」。少し先を行かれていた“ライバル”との共闘にも、手応えを掴みつつあるようだ。

 実はチーム屈指のムードメーカー。「普段はイジられることが多いですね(笑)。プリンスで初めてスタメンになった時もみんなが前向きな声を掛けてくれたので、自分もやりやすかったです」。チームメイトも杉山が苦しみながら、それでも前向きに練習へ取り組んできたことを知っているからこそ、その活躍を素直に喜んでいるようだ。

 モヤモヤした想いを抱えながら、それでも上を目指し続けたBチームでの時間から、杉山は大事なことを学んだという。「『チームのために』ということを一番の優先順位に持ってくることの大切さです。Bチームでも最初はT2(東京都2部)リーグにも2年生が出ていて、自分たちは公式戦に出られないことが多かったので、モチベーション的には凄く難しかったんですけど、自分のためというより、チームのために頑張れる選手になれば、自分の結果も付いてくるはずだと前向きに捉えたのが大きかったかなと思います」。

『自分のため』より、『チームのため』。その気持ちを携えている限り、そのステージがプリンスリーグであっても、T2リーグであっても、これからやってくる選手権であっても、サッカーと向き合う姿勢は微塵も変わることはない。攻撃も、守備も、自分にできることを全力で、真摯にやり切るだけ。周囲を巻き込むエネルギーを発散しながら、ここまで這い上がってきた杉山の躍動が、チームの進むべき方向を明るく照らし始めている。

(取材・文 土屋雅史)
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