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3年生の悔し涙に現れた成長の証。川崎F U-18の新たな挑戦はこの国立からスタートする

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川崎フロンターレU-18の挑戦はまだまだ続いていく

[12.11 高円宮杯プレミアリーグファイナル 川崎F U-18 2-3 鳥栖U-18 国立競技場]

 力負けだった、と言っていいだろう。

 国立競技場で開催された、プレミアリーグ王者を決めるファイナル。EASTを席巻してきた川崎フロンターレU-18(神奈川)の、とりわけ攻撃における持ち味はWESTチャンピオンのしたたかさに封じられた。

「私たちが想定していた戦いとは少し違いました。ワールドカップでもそうですけど、対戦相手の良さを消しながら、自分たちの強みを出していくというところで、ああいう戦い方も鳥栖さんはできるんだなと感じました」。川崎F U-18を率いる長橋康弘監督は素直な感想を口にする。端的に言うと、サガン鳥栖U-18は出てこなかった。

「相手が前からガツガツ来るかなと思っていたんですけど、ミドルゾーンで構えることが多かったですし、相手の矢印を剥がしてから攻めるというよりは、意外と持ててしまって、攻撃がやりにくかったです」。攻撃の心臓部を担うMF大関友翔(3年)も前半の印象を振り返る。後方でビルドアップする時間こそ長いものの、効果的なポイントに縦パスは打ち込めない。

 大関が最終ライン近くまで下りてボールを引き出しても、この日の彼のポジションはボランチではなく、1トップ下。そこから攻撃のテンポアップを図ると、今度は前に枚数を掛け切れない状況が生まれる。実際に前半の45分間で、流れの中から放ったシュートは公式記録上でも1本のみ。ポゼッションでの優位性は、必ずしもゲームの主導権には直結していなかったように見えた。

 それでも、チームは少ないチャンスをモノにする。44分。DF江原叡志(2年)のクロスから、相手のミスを見逃さなかったFW五木田季晋(3年)がPKを獲得。DF松長根悠仁(3年)は抜群の度胸でど真ん中にキックを突き刺す。良い流れを掴めない中で生まれた先制弾。この1点で川崎F U-18は勢いに乗るはず、だった。

 得点から2分後の45+1分。一瞬の隙を突かれて同点ゴールを奪われ、前半を1-1で折り返すと、後半13分には右サイドを完璧に崩され、逆転を許す。さらに15分にはビルドアップを狙われて、痛恨の3失点目。24分には途中出場のFW岡崎寅太郎(2年)がさすがの決定力で1点を返したが、終盤のパワープレーも実らず、そのまま2-3でタイムアップ。プレミアの頂点には、あと一歩で届かなかった。



「前半にああやって私たちが先制点を獲りながらも、あの時間帯で追い付く逞しさもそうですし、ゲームを進めていく上で『ここが肝になる』というところを選手たちが感じながらやっているところが凄く伝わりました。素晴らしいチームだな、素晴らしい選手だなと感じました」と長橋監督は優勝チームを称える。鳥栖U-18の選手たちは、U-15時代に日本一を懸けて全国大会の決勝を戦ったことのある選手ばかり。あるいはその経験値の差が、この大一番で勝敗を分けたのかもしれない。

 試合後。大関が泣いていた。「いろいろな感情があって、試合に負けたこともそうですし、3年間が終わってしまったこともそうですし、もっとやれたんじゃないかと自分にイラついた部分もありました。そんな中で松長根が『よくやったよ』って声を掛けて起こしてくれたんです。3年生はみんなそうですけど、松長根とは特にチームを引っ張っていこうと頑張ってきたので、声を掛けられた時にちょっと感情が抑えられないぐらい感極まってしまいました」。



 MF由井航太(2年)も涙が止まらない。3失点目に絡んでしまった自分の不甲斐なさを責めていることは、容易に想像できる。だが、シーズンを通じて攻撃的なチームのバランスを第一に考え、中盤を支え続けてきた貢献度は計り知れない。まだ2年生。この経験を生かす未来は十分過ぎるほどにある。

 忘れてしまいそうになるが、今シーズンのプレミアは川崎F U-18にとって初めて挑むステージだった。開幕前の2月。大関は「ヤスさん(長橋監督)もずっと口にしているんですけど、残留ではなくて優勝することはチームとして目標としていて、そのための準備はできているので、練習から質を高くやって、優勝を掲げてやっていきたいと思います」と明言こそしていたが、楽しみ半分、不安半分が、実際の心境だったはずだ。

 だが、チームは快進撃を続ける。開幕戦で大宮アルディージャU18にMF川口達也(3年)の決勝ゴールで1-0と競り勝ち、プレミア初勝利を挙げると、そこからは8連勝を含む怒涛の12戦無敗を記録。高校最高峰の舞台で、ヤンフロたちはとにかく躍動した。

 それは9月のこと。アウェイの流通経済大柏高戦に敗れ、13試合目にしてリーグ初黒星を喫した試合後、選手たちは心から悔しそうな表情を全員が全員浮かべていた。「私も悔しいですけど、『ああ、彼らなら必ず這い上がってくるな』というところが見られたので、この姿を見て少し安心しました。第1節の大宮戦で負けた時に、この光景は見られなかったと思います。私たちのチームの価値を選手たちが頑張ってここまで築いたからあれだけ悔しがるのであって、この彼らの姿は実は成長した姿なのかなと」。長橋監督の言葉が印象深い。プレミアで彼らが纏ってきた自信は、1つの負けにここまで悔しがれる集団への成長に、間違いなく繋がっていたのだ、

 ファイナルの試合後。ミックスゾーンに現れたDF高井幸大(3年)は、「最後の方は気持ちだけでしたね。もう死に物狂いで点を獲ってやろうと思っていましたけど、3年生が最後にいっぱい試合に出て、一緒にプレーできて楽しかったです。自分もウルウル来ましたけど、ユースでの最後の試合ということで、みんなの気持ちの入った試合ができたと思います」と少し笑顔を交えて語ってくれた。

 トップチームでの活動で高井が不在の時には、DF信澤孝亮(3年)が常に好パフォーマンスを続け、松長根とのCBコンビで堅陣を築いた。この日もスタメン起用されたMF大瀧螢(3年)はポジションが確約されていない中で、試合に出れば必ず全力を出し尽くした。シーズンの途中でFWへとコンバートされたDF浅岡飛夢(3年)が醸し出すエネルギーは、いつもチームに大きな力を与えていた。日常を見れば、そのチームの空気感はよくわかる。川崎F U-18の練習は、いつだって楽しそうな活気にあふれている。その雰囲気を今年の3年生たちが作っていたことに疑いの余地はない。

 長橋監督はファイナルの試合後も、3か月前と同じような言葉を残している。

「私にとって3年生は中学生から見ていた子たちなんですけど、この日本一を懸けた試合で敗れて、ああいうふうに涙を流すということは、私はものすごく成長したなというふうに思います。今年の3年生はなかなかこれまで結果を出せないようなところもあって、とにかく成長して、自分たちの代で何かを成し遂げたいという想いでやってきました。プレミア初参戦で優勝できたというのは、間違いなく3年生の努力の成果だと思いますし、『本当に1年間よくやった』と、『本当に成長した』と言いたいです。ただ、日本一にはなれていないので、この悔しさは絶対に忘れずに、それぞれの道で成長に繋げていってほしいなと思います」。

 ようやく少しだけ笑顔の戻った大関は、後輩たちにこうエールを送る。

「去年先輩たちがプレミアに上げてくれて、今年は昇格初年度でしたけど、優勝という結果を掲げてやってきた中で、実際に優勝できたことは凄く良かったです。でも、やっぱり日本一を獲るためにはまだまだ足りなかったなということは、今日で凄く感じました。優勝したことで来年以降はいろいろな見方をされると思いますけど、そういった難しさも後輩たちなら跳ねのけてくれるはずですし、いろいろなものを繋げていってくれるんじゃないかなと思っています」。

 新たな歴史を築いた2022年の川崎フロンターレU-18に、そのチームを支え続けたすべての3年生に、大きな拍手を。

プレミアEAST優勝を喜ぶ川崎フロンターレU-18の3年生。チームを献身的に支え続けた


(取材・文 土屋雅史)
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