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「BUNANフットボールフィールド」が完成。新たな環境に感謝の武南が順応力、理解力も発揮し、まず埼玉1冠

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武南高は埼玉県新人戦で優勝。「BUNANフットボールフィールド」でより力を磨く

 名門校が感謝の1冠だ。武南高(埼玉)は2月に開催された令和4年度埼玉県民総合体育大会兼埼玉県高校サッカー新人大会で12年ぶり10度目の優勝。内野慎一郎監督が「順応力が凄く身に付いた。彼ら、理解力と順応力は凄くあると思います」という世代が、準決勝で昌平高、決勝で武蔵越生高を破り、埼玉県タイトルを獲得した。

 試合中でも3バック、4バックと柔軟なシステム変更。前からどのようにプレッシングをかけるのか、どこに守備のフィルターをかけるのか、また攻撃面でもくさびのパスからのレイオフ、ビハインド、またサイドからの崩しと練習したことを理解し、ゲームの状況に応じて戦い方を変えられる力がある。

「相手によって、『システム変えよう』と言った瞬間、選手たちが収まるから賢いなと思います」と内野監督。その指揮官が、「真ん中のところは相当時間を掛けている」というように、攻撃の作りの部分とトランジションは、時間を掛けて構築してきた。取材時の練習試合でも3人、4人が瞬時に連動。選手が湧き出るように前へ飛び出して2次攻撃、3次攻撃を繰り出していた。

 武南は名将・大山照人監督の指導で台頭し、1981年度の全国高校選手権で初優勝。1988年度から1992年度の同大会で5年連続8強以上へ勝ち上がり、インターハイでも2012年に準優勝、2度の3位も記録している。OBでU-17日本代表歴を持つ内野監督は、コーチを経て2018年から監督。就任2年目で関東大会予選を制している。

 当初は「(積み上げてきた戦い方で)やれると思っていた。でも、相手が変わったらやり方は変わるのに、自分たちは同じ手法しかなかった」。その反省から4年間かけて選択肢を増加。止める・蹴るの技術、「個人の判断にはこだわっている」という武南らしさをより表現できるように、なってきている。

 今年はU-16日本代表候補歴を持つ注目エースMF松原史季(2年)を筆頭に、昌平戦でPK2本を止めたGK前島拓実主将(2年)、左足キックの質の高さが光るMF高橋秀太(2年)、練習試合で巧みなファーストタッチ、ターンを連発していたMF川上旺祐(2年)、相手をなぎ倒すようなヘディングを見せるCB小金井遙斗(2年)、ドリブラーのMF戸上和貴(2年)ら個性のある選手が多い。昨年はタレントを擁し、関東大会予選で準優勝したものの、夏冬の全国大会予選で早期敗退。やや固定メンバーになってしまっていた昨年から、今年は競争もテーマの一つとしてチームを強化している。その成果も出た新人戦では、怪我の松原が準決勝で途中交代、決勝は欠場する中でタイトルを獲得した。



 今回の新人戦制覇は感謝の優勝でもある。武南は約1年間かけて土の越谷第二グラウンドを全面人工芝へ回収。以前はフルコートの広さがなく、公式戦を実施することができなかったが、105×68mのサイズが取れるようになり、片側のゴール裏には20mのウォームアップエリアも増築された。約20基の照明、武南カラーの藤色に色づけられたクラブハウス、約60台の駐車場……。「BUNANフットボールフィールド」は早くも新人戦地区大会で活用され、人工芝化の噂を聞きつけた県外の強豪校などから練習試合の申込みが増えているという。

 武南は学校内にも半面の人工芝ピッチを保有。狭いスペースの攻略を特長とするチームはその環境を有効活用したチームづくりを行ってきた。今回、「BUNANフットボールフィールド」が完成したことによって、より公式戦に近い環境で、質の高いトレーニングをすることができている。


 前島主将は、「GKとしては縦の距離感とか、実戦を意識してできるし、GK練習で跳んでも痛くない(微笑)。良い練習環境をもらえたと思います。紅白戦とかもできるようになったのでデカい」。そして、「初めて来た時は『ウォー』となりましたし、こんな良いグラウンドを作ってもらったからには負けられない。みんな、このグラウンドでできることを凄く喜んでいるし、モチベーションになっている。土の2グラを知っていると、(心にこみ上げて)くるものがあったし、頑張らないといけない」と力を込めた。


 また、育成組織の武南ジュニアユース出身のMF高橋秀は、「自分は中学生の頃からずっと(越谷第二グラウンドの)土でやっていて、練習の最初はライン引きをやっていた。それが今はグラウンドに出て、すぐにサッカーができるので、そういうところは感謝の気持ちがあります」と語り、よりサッカーに集中できる環境を喜んだ。新グラウンドでの活動はまだわずか。それでも、1回1回のトレーニングにモチベーション高く臨んで成長。選手たちは新グラウンド効果の優勝でもあることを強調していた。

 投票で主将に選ばれた前島を中心に今年は揃えた靴の向き、脱いだものをキチンとたたむなどピッチ外の部分から徹底。サッカーに対する姿勢も変わってきた。トレーナーから学び、グラウンドに到着した選手から自発的に身体をほぐす姿。わずかな時間を大事にするようになった。

 また、仲村浩信コーチとマネージャーの協力で「BUNANフットボールフィールド」でのトレーニングが始まった2月から練習後の捕食をスタート。炊き込みご飯やうどん・そばを食べるなど体作りへの意識も変わった。

 内野監督は「色々な人の手を借りて。フィジカルトレーナー、コーチの良いものを取り入れていてどんどん良くしていきたい」という考え。学校内のグラウンドと「BUNANフットボールフィールド」で3つのチームが均等にトレーニングし、選手・スタッフ含めたチーム全体で強い武南を作り上げる。


 内野監督は素晴らしい環境を作ってくれた学校関係者、また恩師に感謝する。「(サッカー部の環境向上は)大山先生の功績だと思います。学校の関係者、理事長をはじめ参事、校長・事務長といった方々がこのような環境を与えてくれたので、感謝しつつ頑張りたい」。選手たちも意欲を燃やしている。

 前島は「(GKの)自分がやられなければ負けることはない。骨が折れても顔面に当たってもゴールを防げれば良い。自分は痛くてもチームが救われるならば身体に当てて勝利に貢献したい」と決意を口にする。そして、「グラウンドを作ってくれた学校、監督、コーチ、父母会、そして自分たちが知らない人たちが武南高校に関わってくれている。結果で良い報告をしたい。去年は結果をなかなか出せずに1年終わってしまった。去年の先輩やOBの方に良い報告ができるようにしたい」。人工芝のフルコートに憧れながらもプレーできなかった先輩たちがいる。輝かしい時代のOB、また苦しい時期にバトンを繋いでくれたOB、そして学校、チーム関係者のためにも新たな環境で成長を続け、インターハイ、選手権の全国大会で躍動する。




(取材・文 吉田太郎)

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