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新キャプテンの最終目標は「日本一の14番」。チームの舵を握る前橋育英MF石井陽に託されたタイガー軍団の未来

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前橋育英高の新キャプテン、MF石井陽(2年=前橋FCジュニアユース出身)

 薄々は気付いていた。おそらくはその役割を担うことになるのだろうと。周囲から期待されるのも、小さくない責任を負うことも、決して嫌いじゃない。全国でも有数の強豪として知られるタイガー軍団は、自分が力強く牽引していく。その先に望んだ結果が付いてくると信じて。

「いざキャプテンになると責任も発生するので、プレー面でもピッチ外でもちゃんとやるべきことはやらないといけないなと思っています。でも、実際は肩書が加わったぐらいで、『ちゃんと自分のやるべきことをやっていければ大丈夫だな』ということは自分でもわかってきました」。

 常に勝利を義務付けられている前橋育英高(群馬)の新キャプテン。MF石井陽(2年=前橋FCジュニアユース出身)はお手本とすべき先輩たちのイメージも重ね合わせながら、高校ラストイヤーとなる新シーズンへと強い想いで漕ぎ出していく。


「たぶん今までサッカーをやってきた中で、一番成長できた年だと思っています」。2年生ながら不動のレギュラーとして、ボランチの位置から前橋育英を支えてきた石井は、2023年シーズンをそう振り返る。

 プレミアリーグでは21試合に出場。年代最高峰のステージで強烈な個を持つ選手たちと肌を合わせてきたことで、「もともと守備は得意だったんですけど、その守備の強度やスピードの部分は一段階レベルアップできましたし、攻撃の面でボールによく関わって縦パスを入れたり、リズムを作ることは、本当にシーズンを通して成長できたところかなと思っています」と攻守両面での成長を実感してきた。

 特にそのパフォーマンスが際立ったのは、高校選手権2回戦の神戸弘陵高(兵庫)戦。チームが劣勢を強いられる中で、7番を背負ったボランチはピッチのさまざまなところに顔を出し、相手の嫌がるプレーを一番に選択していく。

「前半は自分も『どうしようかな?』と悩む部分があった中で、ハーフタイムにコーチ陣からいろいろな指示もありましたし、ベンチメンバーからも『ここが空いてるぞ』というような言葉を聞いてしっかり整理できたので、後半は高めでボールに関わったり、相手を潰すところはできて、前半より前進できるシーンが増えたとは思いました」。試合には敗れたものの、石井の奮闘ぶりがこれからのさらなるのびしろを期待させるものだったことは間違いない。


 新シーズン最初の公式戦となる新人戦。群馬の一冠目を懸けて、県内最大のライバル・桐生一高と向かい合った決勝のピッチに、石井の姿はなかった。ケガのために試合の欠場を余儀なくされ、応援スタンドのど真ん中で大きな声援を送っていたからだ。試合は2点を先行される展開に。1点こそ返したものの、結局最後まで追い付くことはできず、昨年に続いてタイトルを逃す格好となった。

 もちろん悔しさは味わったものの、石井も決してその敗戦をネガティブには捉えていない。「“良い負け”になったんじゃないかなって。育英には去年から出ていた人が多かった中で、『勝って当たり前』みたいな雰囲気がちょっと出てしまっていたので、あの負けで『オレたちももっとちゃんとやらないと』という気付きが出てきて、それが練習の良い雰囲気にも繋がっていると思うので、そこはプラスに捉えて、インターハイでちゃんと桐一をぶっ潰せばいいかなと思っています」。慢心を戒められたという意味では、この時期だからこそできた経験だと割り切って、次へと視線を向けている。

 昨シーズンの終盤戦では既に“腕章”を任される試合もあり、投票で決まったとはいえ、自分がキャプテンをやることになるだろうとは予感していた。このチームで見てきたのはMF徳永涼(筑波大)とGK雨野颯真の2人が発揮していたリーダーシップ。タイプはそれぞれ異なるが、参考になる部分は大いにあった。

「涼さんは結構周りに言うタイプなので、厳しく言う分だけ自分もしっかりやらなきゃというタイプのキャプテンで、雨野さんはポジション的にも後ろからチームを包み込むというか、『オレがいるからな』という安心感を与えてくれるキャプテンで、それを2年間見てきたのは良い経験として自分の中で積み重ねられたので、自信を持って自分なりのやり方も通しつつ、2人から学んだことを生かして、しっかりチームにも影響を与えられたらなと思っています」。“前橋育英のキャプテン”という大役を務め上げる覚悟は、もう定まっている。


 自分の課題はハッキリと自覚している。「結果面で見るとプレミアもインハイも選手権もゴールがなかったので、そこは個人の課題ですね。やっぱりボランチが結果を出せるチームは強いと思うので、今年は特にこだわっていきたいなと思っています。点を獲りたいですね」。帝京長岡高(新潟)と対峙した『プーマカップ群馬2024』の一戦でも、目立ったのは積極的にシュートを打つシーン。ゴールには結びつかなかったものの、意欲の一端は確実に窺えた。

 Jクラブへの練習参加を経験したことも、高いレベルに身を置いた時の強みと弱みを整理するためには、絶好の機会だったようだ。「強度やプレースピードの面では高校の何個も上だったので、そこで自分がプレーしていったら本当に成長できると思いますし、予測の部分は問題なく通用しましたね。あとはラストパスの質だったり、1つ1つの丁寧さにはまだ欠けている部分があったので、そこは突き詰めていければいいのかなと思います」。

 今季の目標を問うと、力強い答えが口を衝く。「プレミアでは1位を獲ってファイナルまで行きたいですし、選手権とインターハイでは自分たちもまだ良い結果が出せていないので、そこは本当にこだわって優勝できるようにチーム一丸となってやっていきたいなと思います」。そして、石井には気になる“行方”がもう1つある。

「監督次第だとは思うんですけど、付けたいとは思っています。今、ボランチで試合に出ているのが自分か(平良)晟也なんですけど、今年は最終学年なので自分が付けて、『日本一の14番』と言われたいので、そこは譲りたくないですね」。前橋育英にとって、絶対的な中心選手に与えられる“14番”。この数字を背負って1年間を戦うことの意味をよく知るからこそ、他の選手には何が何でも譲れない。

 やるべきことは山ほどある。でも、それを1つ1つ丁寧に、正確にこなしていけば、きっと最後には大きな成果が待っているはず。前橋育英の命運と未来を託された、伝統のボランチを受け継ぐ新キャプテン。チームと個人の結果を追求する石井陽の2024年シーズンは、まもなくその幕が上がる。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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