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ボランチ起用で韓国王者に挑んだ甲府MF木村卓斗「このチームを勝たせたいという思いで…」横浜FMから武者修行、転機はJ3愛媛での経験

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ヴァンフォーレ甲府MF木村卓斗

[2.21 ACL決勝T1回戦 甲府 1-2 蔚山現代 国立]

 横浜F・マリノスからの期限付き移籍でヴァンフォーレ甲府に加わったMF木村卓斗が、加入早々のACL決勝トーナメントで2試合続けて先発を託された。ボランチのポジションで推進力を見せ、積極的な攻撃参加でシュートチャンスを次々に創出。最後は決め切るまでには至らなかったが、Kリーグ王者を相手に爪痕を残す原動力となった。

 ACL初出場で決勝トーナメント進出を果たした甲府だったが、ラウンド16ではKリーグ2連覇の蔚山現代に対し、第1戦に0-3で完敗。第2戦は重すぎるビハインドを跳ね除けるべく、立ち上がりから猛烈なプレッシングを仕掛け、何度もゴールに迫っていった。

 その中でも際立ったのがボランチ起用の木村だった。前半38分、相手のプレッシャーを中盤でかいくぐると、エリア内まで潜り込んで左足シュート。韓国代表GKチョ・ヒョヌのスーパーセーブに阻まれたが、後半3分にも持ち運びからの縦パスでFWピーター・ウタカの決定機を演出した。また同21分には豪快なミドルシュートで右ポスト際を強襲。同23分に交代するまでの間、アジア最高水準の相手に通用する力を見せた。

 そうした積極的な姿勢の背景にあったのは、第1戦の戦い方への反省だった。

「第1戦で試合をしている時もそうだったし、見返していてもそうだったけど、全く歯が立たないとは思わなかった。自分たちがJ2で相手が韓国王者だからという勝手な頭の決めつけというか、自分たちがビビっていないと思っていても、どうしても相手のプレスに必要以上にビビったところがあった。ビビらず、絶対に勝つために自分がどうにかしてやるんだという気持ちを持って全員が入っていたし、俺たちはできるんだぞという思いで準備して今日を迎えていた」

 また今季の甲府で託されたポジションは、明治大時代に才能を開花させたボランチ。横浜FMで序盤を過ごした1年目の昨季は右サイドバックでデビューを果たし、夏から過ごした愛媛FCでも右サイドバックを主戦場としていたが、プロ基準を目指して鍛錬していた学生時代の持ち場になったことも堂々としたパフォーマンスに影響しているように思われた。

 しかし木村にとってこの日の姿勢は、自身のポジションに変化があったからではなく、心境の変化があったことによるものだと捉えているようだ。いわく転機となったのは昨季後半戦を過ごし、J3リーグ戦18試合の出場でJ2昇格の立役者となった愛媛での経験。濃密な半年間を過ごした23歳は現在の心持ちを次のように話した。

「去年の愛媛の経験もそうだけど、自分が自分がとなるとうまくいかない。本当にこのチームのために勝利したいんだ、このチームを勝たせたいんだという思いでやることが一番自分のパフォーマンスを上げられる要因だと気付いた。自分が上手く見せたいとか、エゴが先に行ってしまうと、チームとしても個人としてもうまくいかない。チームプレーを大事にして、自分がいるんだぞという思いと、チームを勝たせるという思いが逆にならないようにしたい」

 愛媛加入前には横浜FMでルヴァン杯3試合、天皇杯2試合に出場していたが、J1リーグ戦の出番はなかった。そうした環境で信頼を掴むためには、まず個人の能力を示すことが必須条件。それがビッグクラブで過ごす者の宿命だ。

 ところがその一方、個人の能力にフォーカスすればすなわち高いパフォーマンスに直結するというわけでもないのがチームスポーツの難しいところ。横浜FMで突きつけられた高い基準を持ちつつ、愛媛の環境で出場機会を重ねたことで、良いバランスにたどり着けたようだ。

「愛媛は本当に仲が良くて、森脇(良太)さんだったりすごいベテランの方がいて、若い選手もたくさんいて、本当にチームが一体となって練習をしていた。マリノスにいた時は完成されたサッカー、質の高いサッカーに良い選手が合わさっていくという感じだったけど、愛媛は自分たちがイチから作っていくというか、決められたサッカーはなく、毎試合課題といいところがありながら、チームとして全員で練習から試行錯誤していくというところがあった。そういうところで身を置かせていただいて、チームプレーというか、チーム全体で試合に出ている人だけでなく、全員がお客さんにならず、ベンチも一体となってチームを作り上げていくことが大事だと気づけた。実際にそこで優勝という経験ができたからこそ、そういうことを気づかせていただいた」

 だからこそ、この日見せたパフォーマンスもチームプレーを心掛けていたがゆえのものだったという。

「このACLを迎えるにあたっては、天皇杯で優勝して(出場権を獲得して)、昨年のメンバーがACLを勝ち上がって、ヴァンフォーレに携わってきた人の努力があってこそ、僕の今の立場があって、チャンスが与えられたということを理解している。その思いをつなぐというか、そういった努力を無視して『自分がこうしたいから』というだけにはならないように、ここまで上がってきた方の思いを背負ってプレーした。それが周りの方にも『このチームを勝たせたい』というふうに少しでも見せられたのなら本当に良かったと思う」

 ただそうした覚悟を背負っていただけに、この日の結果には真摯に向き合っていた。「自分たちがボールをある程度握れて、決定機もいくつか作った中で、ゴール前の質が相手のほうが高かった。自分たちも最初からチャンスを作ったけど、結局先に決めたのは向こうだった。ゴール前の質をもっと上げていく作業を本気で向き合ってやっていかないといけないと感じた」。目前にJ2リーグ開幕を控える中、これからも高い基準を追求していく構えだ。

 甲府は昨季のACLグループリーグ突破、J1昇格争いを演じた主力選手が大量流出し、新加入選手に大きな期待が寄せられる新シーズン。木村は「昨季のスタメンのほとんどが抜けたということで、その選手たちにもリスペクトがあるし、素晴らしい人たちなのは理解しているけど、あれだけのメンバーが抜けて弱くなったよねと言われるのは新しく入った選手にとってこれ以上に悔しいことはない。あのメンバーが抜けたけど、木村とか新しい選手が入ってきたから大丈夫と言われるように試合をしていきたい」と力を込め、プロ2年目のシーズンに挑む。

(取材・文 竹内達也)

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竹内達也
Text by 竹内達也

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