beacon

U-23代表落選に「落ち込む暇もなかった」横浜FM植中朝日、ACL準決勝で鮮烈2ゴール「アジア中に自分の名前を広めたい」

このエントリーをはてなブックマークに追加

FWアンデルソン・ロペスに祝福されるMF植中朝日(写真左)

[4.24 ACL準決勝第2戦 横浜FM 3-2(PK5-4) 蔚山現代 日産ス]

 歴史的で壮絶なACL決勝進出劇を演じた横浜F・マリノスだったが、全てのドラマはこの男から始まった。MF植中朝日は前半13分、果敢な動き直しから相手ボールを刈り取って先制点を奪うと、同30分には鮮やかなミドルシュートで追加点を獲得。0-1で敗れた第1戦のビハインドを爽快に跳ね返す大活躍で、前半の猛攻を牽引した。

 まずは前半13分、味方のパス交換が相手DFに阻まれたが、その混戦に抜け目なく飛び込んでいった。「相手DFのもたつきがあって、自分的には常にそういうところを狙っているのでラッキーだなと」。ボールを奪った勢いのままGKの脇下にシュート。インサイドハーフ起用が続く中、本職FWとして「2列目からの飛び出しは狙っている」という個性も活きた先制点だった。

 植中にとっては、ACL10試合目で待望の初ゴールとなった。「ずっとACLでもゴールを取りたいと思っていた中、本当にいいチーム相手で、GKも韓国代表の選手(チョ・ヒョヌ)だし、そこでしっかりゴール決めたのは自信につながった」。するとこの勢いに乗ったメンタリティーのまま、前半のうちにもう一度結果を出した。

 今度は2-0で迎えた前半30分、MFナム・テヒからのワンタッチパスを中盤で受けると、相手を豪快なターンでかわし、ペナルティアークから右足を振り抜いた。「自分の後ろに相手がいるのもわかった上でターンできると思って、ターンした時にはもう打とうと思った」。鋭く回転したシュートはゴール右上隅にズドン。完璧なコースには「できすぎました」と笑ったが、イメージはしっかり描かれていた。

 普段はあの場面でシュート選択はしていないが、「今日の俺なら行けるんじゃないかという自信があった」という植中。「置き位置も完璧ではなかったけど、置き位置的にニアで巻けるかなと思った。あんまりああいうシュートは打ったことないけど、とりあえず入ってよかった」。最後は「僕のあんなゴールもう見られないかもしれない」と苦笑いを浮かべつつも、「でも、ああやって決まったのでまた自信を持って打っていこうと思う」と再現にも意欲を示した。

 そのまま終わればクラブ史上初の決勝進出に導く立役者となるはずだったが、チームはここからまさかの窮地に陥った。前半35分にセットプレーから1点を返されると、同39分にDF上島拓巳が一発退場となり、そこで与えたPKで失点。2戦合計スコア3-3と追いつかれた。

 その後は再び守備の強度を取り戻したが、植中は後半17分に途中交代。数的不利のPK戦で奇跡的な勝利を得たが、植中が輝くはずだった主役はGKポープ・ウィリアムら守備陣に譲る形となった。

 それでも試合後、植中は「120分間とPKを頑張ってくれたチームメートに感謝」と気丈に振る舞いつつ、5月に迫る決勝に向けて「自分の価値を高められるチャンス。また決勝もゴールを決めて、アジア中にまずは自分の名前を広めたい」と明るく意気込んでいた。

 さらにアジア王者に与えられるクラブW杯出場権にも視野を向けつつ、「ずっとテレビで見ていたような舞台だし、ヨーロッパのチームが出たり大陸のチャンピオンが集まるので、出たい気持ちはより高まった。何が何でも決勝は勝ちたい」と闘志をアピール。アジアトップレベルの舞台に立つ経験に充実感をにじませていた。

 もっともこうした植中の存在は、別の場所で戦っている同世代にも大きな刺激になりそうだ。植中も招集された経験のあるU-23日本代表は現在、パリ五輪最終予選を兼ねるAFC U23アジア杯で奮闘中。グループリーグを2位で終え、カタールとの準々決勝、そしてその先のパリ五輪出場決定戦にあたる準決勝を控える状況だ。

 この日、植中は「代表チームの選手とも何人か連絡を取ったりしていて、向こうの情報も入ってくる」と笑みを見せつつ、「(0-1で敗れた)韓国戦も見たりはしていて、日本のチームが韓国に2回負けるわけにはいかないと思っていた。代表チームとクラブチームの違いはあるけど、自分も代表選手たちに負けてはいられない。こういう結果が出せてよかった」と彼らと刺激を与え合っていることを明かした。

 そんな植中自身は3月の代表活動には参加しており、今回は当落線上で選ばれなかった立場。それでも「代表もマリノスも本当に大事な試合が待っていたし、落ち込む暇もなかった」ときっぱり。巡ってきたACLのチャンスを活かしたことで「気持ちを晴らすゴールが取れたことで感覚的なものも楽になった。リーグ戦にもいい影響を出せれば」と良い循環を生み出すことができているようだ。

 もっとも、大舞台への夢はまだまだ諦めていない。「こっちのチームで示していくことで、五輪に通過してくれれば代表に入れるチャンスはあるんじゃないかと思っている。そういうことも見越してこっちのチームで活躍していきたい」。ACL決勝は五輪選考レース中の5月11日・25日。アジアの頂点に導く活躍ができれば、世界への道筋はいくつも開けるはずだ。

(取材・文 竹内達也)

●ACL2023-24特集
竹内達也
Text by 竹内達也

TOP