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「東京五輪への推薦状」第22回:長友佑都か森山佳郎か。無駄走りの達人にして向上心の塊。FC東京の鉄人SB岡庭愁人

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 2020年東京五輪まであと4年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ

 日本クラブユース選手権(U-18)を制したFC東京U-18の右サイドには「走れる鉄人」岡庭愁人がいた。フィールドプレーヤーで唯一の全7試合フル出場。しかもプレースタイルは省エネの対極に位置する走るサイドバック(SB)なのだから、単純に驚きである。

「岡庭には何度も聞いたんですよ。『大丈夫か?』と。でも『行けます』と言うのでね」

 そう言って笑顔を浮かべたのは佐藤一樹監督である。「気持ちが強い、気持ちのいいやつ」である岡庭を昨年の秋からレギュラーに大抜擢。出場機会を得始めた当初は「感情豊かな分、感情任せになってしまうところもあった」(佐藤監督)が、そこを単純に否定するのではなく、時に温かく、時に厳しく接して導いてきた。

 今季は右SBの主軸選手としてプレー。今大会については「一人だけずっと出させてもらっていて監督の信頼を感じていたのに、形として結果を出せなかった」と得点やアシストなどの分かりやすい数字を残せなかったことを悔やむが、試合を観ていた側の感想は少し違うものだろう。「本当に献身的によく戦ってくれた」と指揮官が賞賛したように、連戦を感じさせないアップダウンを継続するタフネスを見せ付け、守備でも奮闘。「それで味方のFWが助かるなら」と無駄走りになることを気にしないオーバーラップの連続は、十分に相手の脅威となっていた。

 佐藤監督は「まるで森山佳郎(現・U-16日本代表監督)のよう」と現役時代に無駄走りの達人と言われた元日本代表右SBになぞらえてその成長に目を細めているが、本人は世代的に当然知らないため、意識しているのは日本代表の長友佑都である。「同じくらいの身長のSBだけれど世界で通用していて、インテルでもすごく信頼されている。あこがれますし、いつか超えたいと思っている」と、こぼれ出るように熱い言葉を紡ぐ。

「あまり目立つ選手じゃなかったと思う」という小学生時代、セレクションに臨んだJクラブの中には、岡庭に落選の通知を告げるところもあった。だが、「気持ちのあるサッカーをする中で冷静さも求められるFC東京のサッカーが自分には合っていたんだと思う」と、青赤軍団に入った自分の選択の正しさを今は確信している。

 継続疾走型のSBというベースは維持しつつ、「少しバランス感覚が付いてきて、ウチに欠かせない選手になった」(佐藤監督)現状を思えば、いつ日本代表のユニフォームを着ることになっても違和感はないだろう。「努力がまだまだ足りない。もっと努力しないとプロでは難しい」とさらなるレベルアップを誓える向上心の塊である点にブレがない限り、まだまだ伸びていく選手と観て間違いない。

執筆者紹介:川端暁彦
 サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。
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