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辛い経験を乗り越え、周囲も驚く進化と横浜FC内定。宮崎日大DF松下衣舞希は初の2冠、特別な存在のために選手権予選優勝を誓う

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宮崎日大高の左SB松下衣舞希(3年=FC中津グラシアス2002 U-15出身)は初の県内2冠、特別な存在のために選手権予選優勝を誓う

[10.9 選手権宮崎県予選3回戦 小林秀峰高 0-4 宮崎日大高 綾町小田爪陸上競技場]

 横浜FC内定のDFが、初の2冠と特別な存在のために優勝することを誓った。宮崎日大高の左SB松下衣舞希(3年=FC中津グラシアス2002 U-15出身)は、同校にとって初となる高校から直接のプロ入り内定。注目DFはこの日、今回の選手権宮崎県予選で初出場し、70分間フルでプレーした。

 相手の圧力がなかったことから、中央でプレーする時間を増加。左右両足のキックを強みとする松下は、素早く左右へボールを動かした。「真ん中に枚数を置きたくて。前からプレスに来なかったので、内に入って自分がゲームメークしてガンガン押し込んでいければ良いかなと思ってボランチ気味に入りました」。ボールに積極的に係わり、鋭い縦パスをつけるシーンも。そして、連動した動きで左サイド深く攻め上がり、クロスを上げた。

 チームトップクラスのスピードや対人守備の強さを見せたが、「今日の試合は全然相手に合わせてしまったところがあって、自分たちの特長が前半からもっと出せれば良かった試合です。個人としては、雑なプレーが目立ったかなと思います。点を決められるチャンスがあったので改善していければ良い」。クロスを引っ掛けてしまうシーンもあったため、改善することを誓っていた。

 松下は宮崎県の高校生にとって、MF山本郁弥(鵬翔高→横浜FM)以来17年ぶりというJ1クラブ加入だ。今年1月の練習試合で横浜FCのスカウトに評価され、4月と8月に2度の練習参加。「(当初は鳥かごをしても)取れないし、すぐ取られるし。心の中でずっと『やべぇ』『大丈夫かな』と思っていたんですけれども、守備の場面では粘り強い守備だったり、攻撃に関してはスピードを活かしてどんどん攻撃参加してみたいに特長を出すことができた。左右のSBができたのも良かった」と振り返る。

 特に2度目の練習参加はプロ入りを懸けた挑戦だったが、Jリーガーたちの中で落ち着いてプレー。「緊張もなくて、自分の良いプレーが出たのかなと思います」。2度の練習参加ではFW小川航基(現NECナイメヘン)やMF井上潮音のプレーから刺激を受け、同ポジションのDF林幸多郎やDF近藤友喜の姿から「一つ一つのトラップやパスの質が上手い。自分もそこを見習って、今後もっと成長していきたい」と学んだ。

 そして、「高卒で入るので、厳しい世界になると思うので一つ一つ、自分の強みをアピールして行ければ良いかなと思います。とても厳しいと思うんですけれども、まず1年目の開幕戦でスタメンを奪えるような選手になって、活躍できるような選手になりたい。(サポーターには)自分の強みの守備の1対1だったり、スピードを活かした攻撃参加、両足から出せるロングパスだったりを見せたい」と力を込めた。

 九州で対戦した高校の名将たちや一部大学の関係者は松下を評価していたようだが、彼のプロ入り、それもJ1クラブへの加入を勝ち取ったことはチーム内外から驚かれているという。南光太監督は「僕らも、選手も、宮崎県の関係者もそんな(J1クラブへ進むという)予想しなかった」と明かす。ただし、指揮官は「あそこで変わりました。1年の頃は試合でもちょっとやんちゃなことをしたり、言葉悪かったり、すぐイジケたり……でも、あれからガラッと変わりました」。本人も非常に辛い経験を成長の原動力に挙げた。

「(入団内定記者会見でも少し話したが、)実は父が去年の6月に亡くなったということがきっかけで。もっとプロになりたい、父のために、という気持ちが大きくなったのがあります」。地元の福岡県から月一度応援に駆けつけてくれていたという父・孝道さんが、48歳の若さで急逝。「もうその時はキツくて、サッカーにも集中できないという時期があったんですけれども……やっぱり父のために、というのを自分の心に刻んで1年半、ここまで頑張ってきた」と振り返る。

「父は厳しい、サッカーをする中では心強い存在でした。(亡くなって)1か月くらい、そのことに対しての気持ちが凄く大きくて、学校生活や、私生活や、サッカーの部分でも色々な乱れがあったんですけれども、ずっとそのままだとプロになれないなと思っていたし、それをどうプラスに変えていくかというところで、一つのスイッチというか、にはなったと思います」

 元々プロになりたいと思っていたが、以前は高卒でのプロ入りは難しいという自己評価。だが、本気でプロになるための日々を過ごしてきた。昨夏頃から飛躍的に成長。宮崎日大入学以来、左SH、右SH、シャドー、アンカー、左右のSBと様々なポジションを経験させてもらえたこと、また「結構連絡も取ったりして、月1で宮崎に来てくれるということに関しては自分のメンタルに落ち着きをもらえたり、安心をもらえたりして、一番大きな存在で生活する中で大切な人だと思います」という母、家族の後押しも大きかった。

 南監督は宮崎県の高校生の勇気になるJ1クラブ加入を喜ぶ一方、「課題もたくさんあります。やらないといけないことはいっぱいあると思う」と指摘する。そして、より前へ潜り込んでのシュートを打つ姿勢や質の部分の向上を求めていた。

 その南監督、本人も認める「超絶な負けず嫌い」。将来の五輪代表、日本代表入りのため成長へ貪欲な松下は、特別な思いを持って選手権予選に臨んでいる。「高校サッカーでは最後の大きな大会になるので、まずは(チームにとって初めて)2冠を取れるチャンスなので、日大の歴史を変えることと、もうひとつは父がとても好きだったサッカーで、(家族や天国の父に)全国を戦っている姿を見せてあげられたら良いと思っています」。今夏はインターハイに出場したが、大目標は選手権。家族、仲間のために走り、戦い、選手権切符を勝ち取る。

(取材・文 吉田太郎)
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吉田太郎
Text by 吉田太郎

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