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「9割」を抑え切った上で「10割」を引き寄せた3戦連続の完封劇!堀越は駒澤大高をウノゼロで振り切って準決勝へ!

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堀越高は駒澤大高とのビッグマッチを制して準決勝へ!

[10.29 選手権東京Bブロック準々決勝 駒澤大高 0-1 堀越高 堀越学園総合G]

「やっぱり試合で練習以上にやってきたことは出ないと思いますし、逆に試合以上の気持ちを込めて練習をすれば、それは試合でも必ず出せるとは監督にも言われているので、そこは徹底してやってきました」(堀越高・中村健太)。

 不安を抱えていた守備面で相手を上回っての3戦連続完封勝利。第102回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック準々決勝が29日、堀越学園総合グラウンドで行われ、5年ぶり4度目の全国を目指す駒澤大高と2年ぶり5度目の東京制覇を狙う堀越高が激突した好カードは、後半13分にセットプレーからMF渡辺隼大(3年)が挙げた1点を守り切った堀越が勝利を収め、準決勝へと駒を進めている。


「あそこまで割り切って守って、蹴り返すというのは、ここ直近の駒大さんの試合だとそこまではないかなという感じでした」と堀越の佐藤実監督も話したように、駒澤大高は最終ラインにDF菊池遥人(3年)、キャプテンのDF中澤聡太(3年)、DF若田澪(3年)の3枚を並べつつ、右にDF臼井要(3年)、左にDF渋谷唯人(3年)を配した5バック気味でスタート。守備時は5-4-1、攻撃時は5-3-2という可変気味の布陣で、まずは守備重心の姿勢を打ち出す。

 対する堀越は「自分たちは後ろから繋いで前進していくのが攻撃の形なのに、前半は相手が蹴ってくるのに対して、自分たちも蹴り返しちゃって、その形がそこまで増やせなかったです」とボランチの渡辺が言及した通り、本来の持ち味でもあるパスワークが鳴りを潜め、流れの中からはなかなかチャンスを生み出せない。

 前半最大のチャンスは38分の駒澤大高。右サイドからMF秋元心太(3年)が蹴ったCKはいったん相手DFに跳ね返されたものの、再び秋元が放り込んだクロスにMF平井涼真(3年)が合わせたヘディングは枠を捉えるも、堀越のGK吉富柊人(3年)が懸命に指先で触ったボールは左ポストに弾かれる。

「吉富が止めてくれて、アレで前半をゼロで抑えられたのがチームの雰囲気に相当良い形で響きました」(中村)「あの吉富のセーブがこの試合のターニングポイントだったのかもしれないですね。アレで入れられたら駒大さんの守ってカウンターというベクトルがもっとハッキリするので、状況はまったく変わっていたと思います」(佐藤監督)。188センチの体躯を誇る守護神がビッグセーブを繰り出し、堀越の危機を鮮やかに救う。


 試合が動いたのは後半13分だ。堀越は左サイドからDF佐藤優真(3年)が完璧なクロスを送り込み、FW高谷遼太(3年)がニアで完璧なヘディングを繰り出すも、駒澤大高GK堀尊成(3年)もこれまたパーフェクトなファインセーブ。見応えのある攻防を経て、手にした左CK。キッカーのMF仲谷俊(2年)が丁寧に入れたキックに、密集の中で合わせた渡辺のヘディングはゴールネットへ突き刺さる。





「自分はフリーになって当てるだけで、仲谷くんのボールの質が凄く良かったので、ドンピシャで自分のところに来た感じでした」と振り返った渡辺は、一目散に応援席へ猛ダッシュ。相手の絶対的な武器でもあるセットプレーから、堀越が先制点を奪い取る。

 1点を追い掛ける展開となった駒澤大高も、交代カードを切りながら重心を前へと傾ける中で、やはり攻め手の中心はセットプレー。相手陣内でのロングスローも、プレースキックも中澤が担当しつつ、若田やMF森山真人(3年)、FW岸本空(2年)といった長身選手が必死に飛び込むも、決定的なシーンは作り切れない。

 堀越は、準備万端だった。「この試合のために守備はずっと準備してきて、相手の得意なセットプレーもセットプレーコーチの方を中心に動画で分析して、対応もいっぱい練習してきました。前の試合を見たら相手のロングスローも結構飛んでいたので、キーパーが対応するとか、キーパーが出たらみんなでゴールを隠すこととか、基本的なことですけど、そこを徹底してやってきました」とディフェンスリーダーを務めるDF森奏(2年)が語れば、「いろいろな場所からのスローインに対しての対応の仕方は練習していて、絶対ファーストのボールを落とさないということと、セカンドボールに対応して二次攻撃を防ぐというところで、チームとして粘り強くできたんじゃないかなと思います」と渡辺もきっぱり。練習の成果をワンプレーごとに発揮し、丁寧に相手のセットプレーを凌いでいく。

 40+2分は駒澤大高。中澤のフィードに渋谷が競り勝ち、若田が執念で残したボールを、途中出場のFW岩井優太(1年)がシュートまで持ち込むも、軌道はクロスバーの上へ。どうしても1点が奪えない。「準備してきたものが全部出せたのかなと思います。手応えは結構ありました」(中村)。ファイナルスコアは1-0。相手のストロングポイントでもある攻守のセットプレーで上回った堀越が逞しく勝ち切って、セミファイナルへと勝ち上がった。



 8月27日。T1(東京都1部)リーグ第10節。この日と同じ“ホームグラウンド”で、堀越は駒澤大高に0-3で完敗を喫している。

「T1で駒澤に負けた時の3失点も、全部セットプレーからだったんです。相手は長いボールを使って押し込んでくることはわかっていて、そういう時の対応も全部練習してきたので、あの0-3の負けが今日に生かされた部分はあったと思います」(森奏)。堀越の選手たちは2か月前の経験を悔しさで終わらせず、万全の準備を施すモチベーションに変えていた。

 キャプテンを務める中村の言葉が興味深い。「もう駒澤とはTリーグで2回やっていたので、相手のやってきたいことは『セットプレーで3割、フォワードに当てて落として下で攻めるのが3割、ロングスローが3割だ』と。『この9割を抑えられれば、あとの残り1割に当たる偶然の事故はしょうがない』ということを、みんなに徹底して言い聞かせてやってきました。それもあって全員が良い形で準備できたので、失点ゼロで抑えられたのかなと思います」。つまりは相手の“9割”を完全に抑え切ったことで、残りの“1割”も自分たちが引き寄せ、合わせた“10割”で無失点を達成したというイメージだろうか。

 佐藤監督はこの大会を通じて成長を遂げている守備面について、こう言及している。「攻めたいとしても、まずは相手からボールを奪うことと、ゴールを守らないと、自分たちがやりたいことはできないわけで、『やるべきことはまずどこなの?』というベクトルは特にこの選手権では与えているつもりなので、だんだん相手のやってくることと僕らがやらなくてはいけないことがマッチングしてきた時に、守れたというところなのかなと思います。堀越には良い先輩たちがいっぱいいるので、『アイツらならこれぐらいやってたよ』という話をしながら、彼らが置いていってくれた練習を毎日繰り返しながら、真面目にコツコツとやっているだけですね」。T1リーグではリーグ最多失点を喫しながら、この選手権予選では3試合続けての完封勝利。『真面目にコツコツやってきたこと』は間違いなく彼らの力になっている。

 それでも選手たちからは、同じような感想が聞こえてくる。「今日の試合では自分たちのやりたいことの2割ぐらいしか出せなかったので、自分たちのサッカーをもっとできるように練習から取り組んでいきたいです」(森奏)「選手権は一発勝負なので、勝ったことは凄く良いんですけど、内容を見ると攻撃の面では全然物足りなくて、ゴールの形もセットプレーでしたし、流れの中から獲れていないので、そこはもう1回チームとしてやらなきゃいけないかなと思います」(渡辺)。

 ならば、西が丘のピッチで思う存分見せてもらおう。本来披露したいアタッキングフットボールを。「ここを勝って、みんな自信も付いたと思いますし、少し優勝というところが見えてきたと思うんですけど、もう1回地に足を付けて、高望みせずに、1試合1試合勝つということを意識して準備できたらいいなと思います」(中村)。

 2年ぶりとなる全国へ。『万全の9割』を徹底することで、『盤石の10割』を手繰り寄せてきた堀越が、いよいよ晴れ舞台に向けて最後のアクセルを踏み込んでいく。



(取材・文 土屋雅史)
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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