beacon

アルテタの姿勢を胸に刻む冨安健洋、一発勝負の決勝Tは「相手に希望を与えないことが大事」

このエントリーをはてなブックマークに追加

日本代表DF冨安健洋(アーセナル)

 日本代表DF冨安健洋(アーセナル)がアジアカップ決勝トーナメント1回戦を翌日に控えた30日、報道陣の取材に応じ、一発勝負のバーレーン戦に向けて「相手に希望を与えないことが大事。アウェーサポーターもたくさん来るだろうし、試合会場の雰囲気を殺すというか、相手に希望を与えずにスタートからエンジン全開でやる必要がある」と強い言葉で意気込みを語った。

 足首の負傷で今大会に出遅れた冨安は第2戦イラク戦(●1-2)の後半から途中出場し、第3戦のインドネシア戦(○3-1)で今大会初先発。イラク戦の前半に2失点を喫し、混乱状態にあったチームを見事に立て直した。インドネシア戦の前日会見では「僕たちから仕掛けて叩きのめす気持ちでやりたい」という強い姿勢で決意を表明。チーム全体の指針を示すという面でも大きな役目を果たしている。

 この日もまずは言葉で強いメンタリティーを示し、決勝トーナメントに向けての姿勢を表現した形となったが、「相手に希望を与えない」という考え方は冨安自身が絶大な信頼を置いているアーセナルミケル・アルテタ監督の言葉に端を発しているようだ。

「アーセナルも挑むより挑まれる側の立場の試合が多い。そういった中で監督からも試合前に『相手に希望を与えるなよ。最初から行くぞ』と言われるので、その感覚を代表でもやるべきだなと思っている」。世界最高峰のプレミアリーグで若き選手たちを率い、名門復権に導いた指揮官の姿勢を森保ジャパンにももたらしていく構えだ。

 またそうした“冨安基準”は日本代表にも浸透している。インドネシア戦に右サイドバックで先発したDF毎熊晟矢(C大阪)は「彼は声を出さなくてもラインの上げ方が一人だけ早い」と冨安の凄みを表現。「(周りが)同じタイミングで上げないといけない。周りの選手がもっとやらないといけない」と冨安の基準に合わせていく必要性を強調していた。

 一方、冨安自身はインドネシア戦の戦い方について「(今大会の)1試合目、2試合目ではあるべきベースのラインに達していなかったのは間違いない。例えばドイツ戦でできていたようなことができていなかっただけ」と振り返りつつ、「僕基準というよりは代表基準だと思っている」と説明。「そこを統率していく責任はあると思っている」という気概は見せつつも、謙虚な姿勢を崩さなかった。

 それでも昨年夏以降、日本代表はドイツやトルコ、チュニジアといった強豪国を相手に連勝を続けてきたが、好調の鍵となったコンパクトな布陣は守備陣の安定感ありきで成り立っているもの。特に冨安のラインコントロールと対人での守備力は欠かせない存在感を放っている。

 そうした基準の高さは、冨安自身が自らに突きつけてきたものでもある。

「『彼がいると何か分からないけど勝つよね』とか、シンプルに勝率のデータも出ると思う。あとはDFなので『彼がプレーしている時は失点しないよね』とか、そう言われる選手になるのが目指しているところではある。なのでそういった選手になっていけるようにやっていきたいと思います」

 実際に冨安の重要性はデータにも表れており、昨年9月のドイツ戦(○4-1)で代表復帰を果たして以降、冨安がピッチに立った7試合の出場時に失点したのはドイツ戦の1失点のみ。アジアの相手と対峙する今大会でも喫した5失点はいずれも冨安不在時に決められたものだ。「シンプルに毎試合クリーンシートを達成しようとトライしているところ。明日もそこは変わらずにトライできれば」。ここからは負けたら終わりの一発勝負。アジア王座奪還のためには、その最終ラインに冨安の存在が欠かせない。

(取材・文 竹内達也)

●AFCアジアカップ2023特集
竹内達也
Text by 竹内達也

TOP