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横浜FC・カズが語る山口監督の目指す「大人のサッカー」

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 Jリーグ入りした01年以降、横浜FCの連勝記録は4が最高だった。ところが今シーズン、序盤こそ勝利に見放されて最下位に沈んだが、そこから6連勝を飾るなど復調し、前半戦を終えて10位まで浮上した。その好調の要因は、どこにあるのか。

 おそらく、答えは一つではない。それでも、今季途中に就任した山口素弘監督が、大きな影響を与えていることは、間違いない。

 05年から08年まで、選手としてのキャリアの最後を横浜FCで過ごした山口監督は、どのようなサッカーを志向しているのか。そこに連勝できている秘密があるはずだ。
監督が目指すサッカーは、どんなサッカーなのか。百戦錬磨のFW三浦知良は「大人のサッカー」と表現した。状況に応じて、適切な判断を下してプレーに表現していく。そういうサッカーだ。

「現役時代も一緒にプレーしていましたが、当時からそういうサッカーでしたからね。監督に指導を受ける中でも、ボランチだった頃のイメージをやっぱり僕なんかは受けますね」と話す三浦に、同じく現役時代を知るキャプテンのFW難波宏明も同調する。
「現役時代からですが、素さんの要求は高いですね。1本のパスにしても、パスを受ける選手のどっちの足に出すのかまで求められます。それは現役の頃から言っていましたね」(難波)

 味方がフリーであれば、利き足にパスを出してあげなさい。味方の左から相手が来ているのであれば、右側にパスを出してあげなさい。一つひとつのプレーに、「大人らしい」細やかな気遣いがあるかどうか。何気ないパスでも、本数が重なっていくことで、ゴール前では大きな違いが生まれていく。

 とはいえ、それは一朝一夕で身に付くものでもない。

「連勝していますけど、まだまだ監督の思い描いている勝ち方ではない試合の方が多いと思う」と三浦も認める。だが、そんな時もチームは割り切って戦えているという。
「なかなかボールがつながらない、自分たちのリズムじゃないときもバラバラにならずに、シュナイダー(潤之介)を中心に無失点、最少失点に抑えている。それが良い方向に向かっているのが、6連勝できた要因の一つかな」(三浦)

 耐える時間帯は、割り切って守る。前線の三浦だけでなく、最終ラインのDFペ・スンジンも、苦しい時間帯でもチームが一体になっていることを、強く感じていた。
「今は、選手たちが試合の流れを読めていますね。苦しい時間帯になっても『ここはみんなで耐えて守り切ろう。そうすれば絶対にゴールが生まれる』。そういう信頼感がチームにはあります」(ペ・スンジン)

 象徴的な出来事が、ある。第15節の松本山雅戦のことだ。今季JFLから昇格したばかりの相手に、前半は多くのチャンスをつくられた。それでも、無失点でハーフタイムを迎えると、ロッカールームに引き上げてきたFW大久保哲哉は「後ろの選手たちは本当に良く抑えてくれた!」と、叫んだという。

 ボールが前線に来ない状況は、FWにとってストレスが溜まる展開だ。それでも大久保は前線にボールが来ない状況に対する不満を口にしなかった。それはチームが一体になれている証であり、同時に守備陣への感謝、そして攻撃陣への檄も込められていたのだろう。後半、横浜FCは2点を挙げ、2-0と勝利した。

 前半戦を終えて、他ならぬ山口監督が大きな手応えを感じている。27日の練習号には、J2を首位で終えJ1に昇格しようと具体的な目標を選手たちに伝えた。
成功体験を積み重ねながら、チームは大人の、そしてJ1への階段を一歩一歩、上っている。

(取材・文 河合 拓)

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