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本気でゴールを狙った“2分間”のJリーグデビュー。熊本の16歳FW道脇豊は「点を獲る星の下に生まれている」ことを証明し続ける

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16歳でJリーグデビューを飾ったロアッソ熊本FW道脇豊

[2.19 J2第1節 栃木 1-1 熊本 カンセキ]

 時間にして、わずか2分あまり。傍から見れば何かを成し遂げるには短すぎる時間のようにも思えるが、初めてJリーグのピッチに解き放たれたその高校1年生は、本気でゴールだけを狙っていた。なぜなら、それが自分に託された唯一無二の仕事だからだ。

「やっと小さい頃からの夢だったJリーグの舞台に立つことができて、非常に嬉しい気持ちでいっぱいです。でも、ベンチに入ったからには、結果を残さないといけないのがストライカーだと思うので、ここからしっかり結果を残していきたいと思います」。

 念願のJリーグデビューを飾ったロアッソ熊本の、そして日本の未来を担い得る16歳のストライカー。FW道脇豊がこれから築き上げていくプロサッカー選手としてのキャリアが、いよいよこの日、幕を開けた。

 熊本が栃木SCのホーム、カンセキスタジアムとちぎに乗り込んだJ2リーグの開幕戦。“試合メンバー表”に記載された登録メンバー18人の一番下に、2006年4月5日生まれの29番が書き込まれる。道脇にとっては昨年3月21日にホームで開催されたV・ファーレン長崎戦以来のメンバー入り。中学3年生ということで注目を集めたあの日と、今回の意味合いはまったく違う。

 高校1年生ながらプロ契約を締結して臨んでいる今シーズン。道脇はキャンプから“先輩”たちと切磋琢磨しながら、この1か月近く重ねてきた日々の中で、確かな結果を残してきた。

「前回はコロナの影響もあって人数も足りずに、ベンチに入れたラッキーな感じもあったんですけど、今年のプレシーズンでは4点獲ることができたので、しっかりアピールできたのかなと思います。今回はメンバー争いの中で、勝ち獲ってベンチに入ることができたので、そこはプラスに捉えています」。厳しい競争を勝ち抜いて、開幕戦でのベンチ入りを自ら手繰り寄せたのだ。

 試合は拮抗した展開に。熊本は惜しいシュートがクロスバーに2度阻まれたものの、後半23分にはFW粟飯原尚平のクロスから、FW石川大地がテクニカルなシュートでボールをゴールネットへ流し込み、先制点を挙げてみせる。

 左ウイングにも挑戦していたという道脇だが、今はセンターフォワード1本でトレーニングしているとのこと。「大地くんは自分の中でもライバル視していて、プレシーズンでも得点を自分より多く決めていて、今回の試合でも得点を決めましたし、まだ大木さんは大地くんの方が試合に使いたいと考える選手だと思うので、そこに負けないようにという想いはあります」と言い切ったように、高校生のそれとは思えないメンタルも頼もしい。

 その後は退場者を出しながら1点リードのままで迎えた後半アディショナルタイム。勝利が見え始めたタイミングで、熊本は同点弾を献上してしまう。1-1。このタイスコアの状況で、大木武監督は決断する。

「同点で終わるつもりはないので、最後まで撃ち合うという意味と、彼は『点を獲る星の下に生まれているかな』という気持ちがあったので、『何とかしてくれ』という気持ちで入れました」。

 リップサービスの類は好まない指揮官の言葉だから、間違いなく本心だ。「大木監督からは『前線から守備で追え』ということと、『得点をして来い』と言われました。短い言葉ですが、それがすべてだと思うので、『やっと自分の出番が来た』ということと、『絶対に点を決めてやるぞ』という想いが強かったですし、しっかり得点を奪えるようにピッチに入りました」という道脇は、『点を獲ること』だけを期待されて最終盤のピッチへと解き放たれる。



 前から追う。GKへのバックパスも追う。限られた時間の中で、自らのゴールを、チームの勝利を目指して、186センチの体躯が、明るいライトに照らされた鮮やかな緑の芝生の上を、全力で駆け回る。

 45+4分。アカデミーの先輩でもある上村周平からパスが届くと、道脇はダイレクトで右前方へ大きくボールを出し、そこに向けて走り出す。

「あの時間帯でセンターバックもキツいと思いますし、自分がスピードだったら勝てると思って、スペースにトラップを長くして走って行ったんですけど、プロの手の使い方にやられてしまったので、そう甘くなかったというのが現実でした」。

 競り合ったマーカーに腕で抑え込まれ、逆にファウルを取られてしまう。それがこのゲームのラストプレー。タイムアップのホイッスルが鳴り響き、試合は両チームに勝ち点1が振り分けられる結果となった。

 この試合の前日。道脇より1歳年上の高校2年生、ジュビロ磐田の後藤啓介がJ2の開幕戦で途中出場から2ゴールを決めている。もちろん“1歳年下”のストライカーも、そのことは意識していたという。

「昨日は自分もその試合を見ていて、後藤選手は3分間ぐらいで2点決めていたので、自分も今日の出場時間でも2点は決められたのかなと思いますし、自分と近い年代の人たちでも、ファジアーノの坂本一彩選手も佐野航大選手も若くても結果を出しているので、自分も早く結果を出したいなと思います」。周囲の想像を遥かに超えてくるような強気なメンタルも、とにかく頼もしい。

 次の試合は今シーズンのホーム開幕戦。その一戦へ向けての意気込みを問われると、躊躇なく16歳は言い切った。「今回は引き分けという結果になってしまったんですけど、ホーム開幕戦では自分のゴールで絶対に勝って、ロアッソ熊本を盛り上げていきたいなと思います」。

 ビッグマウスだとは思わない。本人の口調を聞けば、その発した言葉を自分なら実現できると本気で信じていることが、はっきりとわかるからだ。世界を目指すストライカーならば、そのぐらいの気概はむしろ持ち合わせていてほしいぐらい。あとは結果を出すだけ。『点を獲る星の下に生まれている』ことを、自らの力で証明し続けるだけだ。

(取材・文 土屋雅史)
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