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[特別インタビュー前編]MFセスク「C・ロナウドのバロンドール獲得を祝福したい」

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 2011-12シーズンを前に、MFセスク・ファブレガスはアーセナル(イングランド)から幼少時代を過ごしたバルセロナ(スペイン)に移籍した。以降、UEFAスーパーカップ、FIFAクラブW杯、国王杯、リーガと数々のタイトルを手にしてきた。中盤のあらゆるポジション、そしてFWまで、ピッチ内でさまざまなポジションを難なくこなすセスクは、ピッチ外でも柔軟だ。現在のバルセロナ、さらにプレミアリーグでプレーする日本代表MF香川真司についてまで、多岐にわたる話を聞かせてくれた。(インタビューは1月18日に行いました)

―――バルセロナの“ポゼッションサッカー”をやるためにはどういう練習をするといい?
「練習でよくやるのは、10対10のゲームだ。ただし、使うのはPA内だけで、ゴールもオフサイドもない。とにかくボールを取られないようにパスを繋ぐだけ。ボールを失えば、すぐに奪い返しにいく。相手に2、3本パスを繋がせないこと。守備で最も重要なのは、奪われてからの最初の2、3秒間なんだ。そこでどれだけ速くスイッチを入れられるか。そのための練習を多くしているよ。試合にはいろんな局面がある。前に行かなければならないとき、スローダウンしなければならないとき。ときにはゲームを落ち着かせることも必要だからね。それは、監督も言っている。『試合をコントロールしないといけない』ってね。シーズン序盤は勝てていたけど、内容は前に後ろにという、クレイジーなものだった。その点、監督はより賢くプレーするように求めている」

――今シーズンのバルセロナは縦に速く、イングランドのフットボールにも近い?
「昨季より縦に速くプレーしているのは確かだ。でも、3~5年前より速くプレーしているわけじゃないよ。トレブルを達成したシーズンを見ると、前半だけで6点を取ることもあった。つまり少なくとも6回は攻撃しなければならなかったわけだ。6度の攻撃で6点を取ることはまずないから、もっと攻撃しなければならないよね。いま、監督がやろうとしているのは、昔バルサがやっていたことを取り戻すこと。新しいことはない。監督も『何かを変えようとしているわけじゃない』と言っていたけど、僕もそう思う。僕らが失ったことを取り戻そうとしているだけなんだ。彼は『バルサはプレーを攻撃時に繋ぎ過ぎている』と思っていたようだし、実際にチャンスのときは、攻めきることも必要。パスをつないで、ボールを戻して、攻撃をやり直す。それを繰り返していると、その間に相手は戻ってしまうからね」

――今年のバルセロナのスタイルには、批判もある。どう捉えている?
「クラブの全員がグアルディオラ時代のようにプレーするのはほとんど不可能だと分かっていたからね。アビダル、エトー、アンリ、ヤヤ・トゥレらがいないから。彼らはフィジカルが強かった。今の選手たちは、もっと小さく、スピーディーな選手が多い。戦術的にはいいが、フィジカル的にはそれほど強くない。それでも、今は別のスタイルでうまくやっていると思うよ。新監督が就任したということで時間も必要だった。つまり、新しいバージョンのバルサというわけだ。まだ改善できることもある。必要なのはさらに成長し続けることだよ」

――マルティーノ監督の長所は?
「フレキシブルな監督だよね。彼は、単に自分のやりたいことをやるだけの監督ではないよ。選手の意見を聞くし、議論もするタイプの監督だ。素晴らしい人間だし、素晴らしい監督だ。バルサを良い状態に建て直してくれた」

――個人的に感じている彼の重要性は?
「僕を信じてくれたし、自信を与えてくれた。彼は僕がどんな選手かを知っているし、できないことは何も求めない。僕の強みを引き出そうとしてくれる。彼はチームがもっと上手く守れると思っていて、一人一人についても何ができるのかを知っている」

―――ネイマールの負傷はバルセロナ、ブラジル代表にとって悪いニュースだと思うけど。
「もちろん、選手がケガをしたというのは悪いニュースだ。でも、今回の場合は同時に良いニュースと捉えることもできる。もっと酷いケガで、もっと長い時間、ピッチに戻ることができなくなっていたかもしれなかったからね。全治3、4週間で済んだし、良いニュースだと思うよ。W杯には確実に間に合うし、まずは(欧州CLの)シティ戦に間に合うか見てみよう」

――彼は早くもバルセロナにフィットしているけど、彼に似た選手はいる?
「僕は一緒にプレーしていないけど、ビデオで見たヨハン・クライフの加速に似ている。最初の数メートルでのあの加速は信じられないよ。あのスピードはすごい。あの加速ができるのは、ほかにレオ(メッシ)だけだ。ネイマールは素晴らしい選手で、期待に応えているよ。個人、チームとして、あらゆるタイトルを勝ち取れるだけの才能がある。同時に、まだかなり若いから、成長しなければならない面もある。でも、それはどんな選手も同じこと。バルサは特別なプレースタイルを持つクラブで、レオ、アンリなど、いろんな選手がそれを経験してきた。そのチームにもネイマールはすぐに溶け込んだ。重圧も受けているだろうけど、彼はなんともないという風にプレーしている」

――今季のメッシはケガにも苦しんだけど、復帰後、素晴らしい点を決めた。
「リハビリ中、レオはやるべきことをやり、やる気に満ちて帰ってきた。重圧を避けてリハビリできたのは、良いプレシーズンを過ごしたようなものだ。良い状態で帰ってきたし、昨日は彼らしい2点目だった。あれは彼しかできないこと。あのような重傷のあとにすぐやるのはすごいし、戻ってきて嬉しいよ。彼がいると安心だ」

――欧州CLでは、次にマンチェスター・シティと対戦する。彼らの印象は?
「ベスト16で、一番難しい試合だ。エキサイティングだ。クン(セルヒオ・アグエロ)という素晴らしい選手もいる。彼は、どのチームにとっても『味方でいてほしい』と思われる存在だ。シティ戦は素晴らしい対戦になるはず。誰もがプレーしたいと思うような試合だし、チーム内での競争も激しいからね。でも、僕らはプロだし、現実主義だ。シティ戦にだけ集中するわけにはいかない。その前にも試合があるから、まずはリーガと国王杯に集中したい」

――バイエルンやドルトムントといったドイツ勢は脅威?
「そんなことないよ。誰も恐れてはいない。自分たちのことに集中しているだけ。バルサはすべてのタイトルをとるためにやっている。カップを取れると確信している。チームには個のタレントもあるし、フィジカルコンディションも上がっている。雰囲気だって良い。シーズン最初は難しいスタートになったけど、これからは上がるだけ。このチームはそれができると思う」

――グアルディオラが指揮を執るバイエルンについては?
「将来、どうなっていくかは分からない。ただ、昨季はバイエルンが世界最高のチームだった。誰もがそれを知っている。チームっていうのは毎年、力を証明しないといけない。バルサはそれを6年ずっとやり続けた。バイエルンは3年間、ハインケスとやってきて、昨シーズン結果を残した。でも、ペップ(グアルディオラ)も良い監督だから、今後も勝ち続けると思うよ」

――バルセロナが連覇を目指しているリーガはどう?
「バルサらしさを出してプレーすれば、勝てると思う。世界のベストチームの一つでもある(レアル・)マドリーやアトレティコもいるし、難しいことだ。でも、アウェーでも安定して良い結果を出しているし、バルサは良い状態にある。リーガには過去5年で4回も勝っている。今シーズンも、優勝のために努力しなければいけないね」

――追われる立場でプレッシャーは感じる?
「差が少ないと常にプレッシャーにさらされるもの。バルサはここまで2分1敗、獲得できる57ポイントのうち、50ポイントを取れているのは悪くない。これは優勝するチームの数字だから、これを続けていくだけだ。後半戦も同じリズムで行けば、勝ち点100にたどり着くかもしれない。そうなれば歴史で2度目だ。だから、よくやっていると思うよ。もちろん改善すべきところはあるけれどね。バルサは国王杯、欧州CLも勝ち進んでいる。ここからシーズン終盤の面白い時期がやってくるけど、リズムを落とさないで、終盤までいきたい。そのためには、すべての選手がトップの状態でいなければならない」

――バロンドールは、クリスティアーノ・ロナウドが獲得したが?
「C・ロナウドのバロンドール獲得を祝福したい。僕が嬉しいのは、やっとこの議論が終わったこと。やっとサッカーについて話ができる。欧州CL、リーガ、W杯について話ができる。僕に取って大事なのはそれらのことだ」

――なぜアジア人選手は欧州で苦しんでいると思う?
「分からない。大きな才能も持っている選手もいるけれど、なぜリーガでプレーしていないのかは分からない」

――日本人選手はプレミアリーグで苦しんでいる。キミはプレミアで成功したけど、その秘訣は?
「難しいけど、自信が必要だと思うよ。コンフェデレーションズ杯のイタリア戦で、香川(真司)がプレーしている姿を見たけど、素晴らしいプレーぶりだった。イタリア戦のプレーは圧巻で、彼は左、右、ピッチのどこにでもいた。ユナイテッドが彼に何を求めているのかはわからないけど、ときどきウイングでプレーしていると思う。彼はストライカーの背後でプレーするのが好きな選手だと思うけど、そこにはルーニーがいて、その前にはロビン(・ファンペルシー)もいるからね。でも、香川はタフだから大丈夫だろう。彼はビッグクラブにいるし、一度ビッグクラブに入れば、常にベストを尽くさないといけないし、運も必要。それに、これまでとは違うレベルの自信を持つことも大事だ。彼のような才能を持つ選手は、ビッグクラブでもプレーする機会を与えられるべきだし、これから活躍してくれると思う」

(取材・文 河合拓)
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