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「あまり強くない代」が期す逆襲の1年。悔しさを知る前橋育英の“新3年生”が宿す「次こそは、オレが」

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前橋育英高の新キャプテン、GK雨野颯真がチームメイトに指示を送る

[2.4 群馬県新人大会準決勝 前橋育英高 1-2 桐生一高 アースケア敷島サッカー・ラグビー場]

「自分たちはずば抜けている選手がいないので、『あまり強くない代』と言われているんですけど、全員で個人の力も高めて、チーム力も高めていって、今の僕たちを『あまり強くない』と言っている人たちを見返せればいいかなと思っています」。

 14番を背負ったMF山崎勇誠(2年)は、そう言い切った。昨シーズンのインターハイ王者。前橋育英高の新チームでプレーする選手たちの大半、とりわけ最高学年になる“新3年生”は、この想いを間違いなく抱えているはずだ。

 自分たちの実力を証明する大会にするはず、だった。選手権での敗退から2週間も経たずに開幕した、群馬県高校新人大会。上州のタイガー軍団はまさに“新チーム”として始動する。

 何しろ冬の全国の舞台をピッチで経験した選手は、新キャプテンを託された守護神のGK雨野颯真(2年)だけ。30人の登録メンバーに、フィールドプレーヤーの2年生は1人も入ることが叶わなかった。

「自分以外の2年はスタンドで応援しながら、あの景色を見ていたと思うので、そういう試合に出られない悔しさは全員が持っていると思います」と雨野がチームメイトの想いを代弁する。「次こそは、オレが」。誰もがその志を携えて、この大会に向かっていたことは想像に難くない。

 準決勝の相手は県内最大のライバル、桐生一高。新シーズンはプリンスリーグ関東が主戦場となるが、昨シーズンのプレミアリーグでプレーした選手が複数残り、経験値という意味では前橋育英の選手たちを上回っている。試合は立ち上がりから桐生一ペース。前半11分に先制を許すと、以降もなかなか攻撃のテンポが上がらない。

「最初から自分たちのペースを掴めなくて、相手にビルドアップさせてもらえなくて、特に前半は蹴ってばかりになってしまって、何もできなかったのは悔しいですね」と振り返るのはボランチを務めた山崎。右サイドではSB青木蓮人(1年)とSH斎藤陽太(2年)がチャンスメイクするも、決定機には至らないまま、時間が経過していく。

 37分には相手の突破に、たまらずエリア内でファウルを犯し、PKを献上。ここは「選手権の大津戦は忘れられない経験になりましたし、PKは決められてもしょうがないという考え方もあるとは思うんですけど、GKとしては本当に止めないとダメなんです」と口にした雨野が完璧なセーブで失点を阻止するも、最初の40分間は1点のビハインドのまま経過してしまう。

 後半に入ると、13分にセットプレーから2失点目を喫したが、18分には後半開始から1.5列目気味の位置へ投入されたMF松下拓夢(2年)のクロスからPKを獲得。「PKは練習が終わった後に必ず毎日蹴っているので、ちゃんと落ち着いて練習通りに決められました」と話す山崎がきっちり沈めて、1点差に迫る。

 だが、「決めるべき所を決め切れなかったですね」という山崎の言葉通り、チャンス自体は作ったものの、最後の局面では桐生一の身体を張った守備に対して、ゴールを打ち破れず。「攻撃のテンポとリズムがないですよね。サイドからの攻撃が何回かあったぐらいで、そういう意味ではまだまだですし、もちろんメンバーも代わってくるのだと思いますけど、引き締めてやらなきゃいけないという現状はわかったと思います」とは山田耕介監督。Aチームで臨んだ県内の公式戦では、2020年の選手権予選3回戦で、やはり桐生一に敗れて以来となる黒星を突き付けられる結果となった。

 試合後。湯浅英明コーチが選手を集めて、短いミーティングを行っていた。「湯浅さんが言っていたんですけど、逆にここで負けられて良かったというか、もちろん負けてはダメなんですけど、ここで負けて自分たちの弱さに気付いたというのは、この先の自分たちの成長できる糧になるのかなと思います」(雨野)「湯浅さんから『負けて良いこともある』と言われて、負けていい試合はないんですけど、『自分たちはまだ全然足りないんだ』ということがこの試合でわかったので、この負けを自分たちの成長に生かせるように、変に勘違いしないで、これからもっともっと頑張っていかないといけないかなと思いました」(山崎)。もちろん選手たちも湯浅コーチの言葉の真意には、しっかりと気付いているようだ。

 この日の試合ではセンターバックのDF山田佳(1年)、ボランチのMF石井陽(1年)という年代別代表経験者の2人を筆頭に、スタメンの7人は1年生で占められていた。4月になれば有望な新入生も入学してくることになり、ポジション争いは今以上に激化していく。

 山田監督も“新3年生”たちへの期待を、厳しい言葉に忍ばせる。「『今年は頑張りたい』と口では言っているし、サッカーノートにも書いてあるけど、『じゃあ実際はどうなの?』という話ですよね。まだ行動が伴っていないので。本当に心の奥底で『今以上にしっかりやっていかないとダメなんだよ』ということがわからないと、このままズルズル行ってしまうので、日頃のトレーニングから積み重ねをちゃんとやっていくべきだよね、ということになると思います」。

 キャプテンマークを巻いた雨野の言葉が印象深い。「自分たちの学年はここまで本当に全然光も浴びられなかったので、今シーズンは自分たちが主力になると思いますし、しっかりと去年を超えて、最後には『去年のチームより強かった』と言われるようにやっていきたいです」。

 これ以上の悔しい想いは、もうたくさんだ。眩い光の差す方向はわかっている。ここから1年間を掛けた逆襲を期す、前橋育英の『あまり強くない代』の未来は、彼ら自身の手の中に握られている。



(取材・文 土屋雅史)

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