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積み重ねる“22分の1”の先で歓喜を味わうためのリスタート。新グラウンドで戦った川崎F U-18は前橋育英を下して開幕勝利!

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川崎フロンターレU-18は注目の開幕戦で3発快勝!

[4.2 プレミアリーグEAST第1節 川崎F U-18 3-0 前橋育英高 Ankerフロンタウン生田]

 ディフェンディングチャンピオンとしての開幕戦。新練習場としてオープンしたAnkerフロンタウン生田のこけら落とし。ピッチの周囲をぐるりと取り巻いた観衆。決して簡単なシチュエーションではなかったが、きっちり勝利を収めるあたりに、強度の高いトレーニングで確実に纏ってきた地力が滲む。

「自分たちは川崎を代表しているクラブなので、そういう人たちの期待も背負ってプレーできていると思います。去年とまた見られ方が変わって、勝たなくてはいけないというところがあるので、少し緊張する部分はありましたけど、皆さんの拍手がいっぱい聞こえて、それが力になりました」(川崎F U-18・濱崎知康)。

 相手の鬼気迫る守備に苦しみながらも、終わってみれば快勝を手にしているのは王者の証。2日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第1節、昨年のEAST王者・川崎フロンターレU-18(神奈川)と前橋育英高(群馬)が対峙した開幕戦は、後半に生まれたFW岡崎寅太郎(3年)の2発とDF加治佐海(2年)のヘディング弾で、川崎F U-18が3-0とホームで白星スタートを切っている。

「前半はみんな緊張して硬くなったところはあると思います」とセンターバックに入ったDF土屋櫂大(2年)も認めたように、川崎F U-18は思ったような形ではゲームに入れなかった。相手の力を認め、5-4-1のシステムで構えた前橋育英の守備を前に、ボールこそ握る時間は長いものの、シビアなゾーンにはボールを付けきれない。

「相手もフロンターレでああなることはわかっていたので、『まずは守備で連動しながらやろう』とは言われていました」とは、U-17日本代表のアルジェリア遠征から帰国したばかりにもかかわらず、スタメンで登場した前橋育英のGK雨野颯真(3年)。最終ラインにはDF青木蓮人(2年)、DF熊谷康正(3年)、DF山田佳(2年)が強固に並び、右はDF清水大幹(3年)が、左はDF斉藤希明(3年)がスペースを埋めつつ、相手のアタックにも懸命に身体を張り続け、決定機は作らせない。

 18分は川崎F U-18。右CKをMF名賀海月(3年)が蹴り込むと、エリア内の混戦から岡崎が放ったシュートは雨野がファインセーブ。28分にも再び名賀の右CKから、DF山中大輝(2年)が叩いたヘディングも雨野がキャッチ。37分にはMF志村海里(3年)が左サイドで仕掛け、MF尾川丈(3年)のシュートはわずかに枠の右へ。「パスを付けられるところも付けずに、前に蹴ってしまうところもあったので、もっと落ち着いてできればなと思いました」とはキャプテンのGK濱崎知康(3年)。前半はスコアレスで45分間が推移した。

「自分たちがボールを持っている時に、ミスを恐れて受けられない選手がたくさん見られたので、それでは後悔するばかりですし、『やってきたことをとにかくやろう』ということで、『後半はもうミスをしても構わない』と。『そのかわり守備の切り替えの速さのところで、チーム全体として勇気を持ってプレーしよう』という話をしました」(川崎F U-18・長橋康弘監督)。

 嫌な流れを振り払ったのは、やはりこの9番だ。後半6分。MF由井航太(3年)が鋭い出足でボールを奪い、そのまま左へ展開。縦に運んだ志村のクロスに、飛び込んできた岡崎は「『かかとで先にさわれるかな』と思って、さわったら良いところに飛んでくれました」とヒールボレーを敢行すると、ポストとGKに当たったボールはゴールへ吸い込まれる。期待のストライカーが叩き出した貴重な先制点。ホームチームが先にスコアを動かした。

 続いては長橋監督が後半開始からピッチへ解き放った、左サイドバックの“ジョーカー”が躍動する。15分。ここも由井が丁寧に左へパスを付け、受けたDF柴田翔太郎(2年)は「ディフェンスとキーパーの間に流し込むスペースはあるなと」グラウンダークロス。走り込んだ岡崎の“1本目”はクロスバーに当たったものの、諦めなかった岡崎の“2本目”が今度は豪快にゴールネットを揺らす。

 それだけでは終わらない。24分。「自分も柴田の特徴は理解しているので、どれだけ前線に送り出せるかと、アシストに繋げさせられるかというのは考えていました」という土屋が左へ浮き球でパスを送ると、「海から『ファー!』という声が聞こえた」という柴田は正確なクロスをファーサイドへ。待っていた加治佐のヘディングは、ゴール左スミヘ弾み込む。途中出場の17番が2ゴールに絡む鮮やかな活躍。点差は3点に開く。

「後半は徐々に自分たちがやろうとしているサッカーを意欲的に、ミスを恐れずにやってくれたのかなというところで、しっかりと選手たちが自分たちで改善していけたので良かったと思います」(長橋監督)。ファイナルスコアは3-0。指揮官がハーフタイムでもたらした変化に対し、その意図を敏感に察知した選手たちもきっちり結果という形につなげた川崎F U-18が、逞しく勝ち点3を手繰り寄せた。

「アルジェリアから帰ってきて、雨野や櫂大はスタメンで出ていたので、自分はベンチで悔しい想いはありましたし、『結果を残してやろう』と思っていました」と試合後に話したのは柴田。U-17日本代表のチームメイトがスタメン起用される中で、自分だけベンチスタートだった鬱憤をピッチにぶつけた好パフォーマンスには、長橋監督も「前半を見た中で、柴田のああいう特徴が後半は生きるのかなといった交代で、本人はよくやってくれたと思います」と確かな評価を口にする。

 ただ、前半だけで交代したDF元木湊大(3年)のパフォーマンスが、著しく悪かったかと言われれば、決してそんなことはない。内側も外側も取れ、ビルドアップ時は可変のキーマンにもなる彼がチームを救ったことは、昨シーズンも何度もあった。この日の悔しい45分間の経験が、元木にとってさらなる成長欲を心に宿すきっかけになることは間違いない。

 昨年から右サイドバックのレギュラーを務めているDF江原叡志(3年)も、この日は全体のバランスを見ることに腐心していた印象だ。山中と土屋で組んだセンターバックコンビに加え、右サイドハーフに入った加治佐と、スタメン経験の浅い2年生をフォローする意識は随所に見て取れた。だが、後半から入った逆サイドの柴田が躍動する姿に、感じるところがなかったはずはない。そもそもこのチームでの“攻撃的サイドバック”は江原の代名詞。必ずや次戦では、開幕戦以上に右サイドを駆け上がっていくことだろう。

 それはおそらく尾川も同様だ。前後半で放った4本のシュートはいずれも枠を捉え切れず、結果的にはノーゴール。対照的に8本のシュートを記録した岡崎は、きっちり2点を奪い、開幕勝利の立役者となった。今シーズンのプレミアでの目標に二桁ゴールを掲げている新10番は、この日の出来に絶対に納得していない。チーム内のライバルの活躍を横目に、次の主役の座を虎視眈々と狙っているはずだ。

「昨年のファイナルで悔しい想いをしている選手が今年もいますので、『もっとチャレンジしなきゃいけないよね』ということで、今年は『再チャレンジ』という目標を立てました。それはトレーニングのところから意識しています」と語ったのは長橋監督。その舞台がAnkerフロンタウン生田に変わっても、限られたスタメンの座を巡って、トレーニングから厳しく切磋琢磨する日常は、何ひとつ変わることはない。

「開幕戦をたくさんの人が見に来てくれて、本当に感謝の気持ちでいっぱいなんですけれども、これが当たり前にならないように、そういう感謝の気持ちを常に持ちながら、私たちは成長して、結果と内容で応えられるように、引き続き頑張っていきたいと思います」(長橋監督)。

 日常に蒔かれた成長の種を大事に育てていきながら、ひたすら22分の1を積み重ねた先にある約束の舞台で、今度こそは歓喜を味わうためのリスタート。2023年の川崎F U-18が期す『再チャレンジ』は、多くのサポーターに見守られながら、力強くその幕が切って落とされた。



(取材・文 土屋雅史)

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