beacon

『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:頂を望む(カターレ富山U-18)

このエントリーをはてなブックマークに追加

プレミアの頂を目指すカターレ富山U-18

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 誰かがノックしなければ、まだ見たことのない景色が広がっている扉の向こう側には辿り着かない。誰かが歩いていかなければ、まだ踏みしめたことのない希望の道は切り拓けない。ならば、自分たちがやってやる。新しい歴史を創り出すのは、オレたちだ。

「みんなのカターレに対する想いもとても強いですし、今年はプリンスリーグを優勝して、プレミア昇格までこのチームで行きたいですね。そう簡単ではないと思うんですけど、去年も良い経験をしてきているので、今年こそはやってやりたいなという想いは強いです」(富山U-18・小田切祐真)。

 北アルプスに抱かれた北陸の地に息衝く、若きサッカー小僧たちの大いなるチャレンジ。望むのは、より高い山の頂。カターレ富山U-18(富山)は高校年代最高峰のプレミアリーグへと挑戦する権利を目指して、今年も真剣勝負の場へと飛び込んでいく。


「もうそろそろプリンスリーグが開幕するので、そこに向けての調整もできますし、ここでは良い相手と試合ができるので、自分たちの力を試せる良い機会だなと思っています」。チームの10番を背負うFW高川諒希(2年)は、穏やかな口調でそう話す。3月中旬。富山U-18の選手たちは、東京都内で行われる『イギョラカップ2024』に参加していた。

 1つのグループが5チームで構成される予選リーグは、4試合を戦うことができる。「ちょっとメンバーも固まってきている中で、あとは誰が出てくるのかなというところを見極めながら、ですね。出場時間にバラつきは出てきていますけど、なるべくみんなを使いたいという話はしているので、その中で意欲的にはやってくれています」。3年ぶりにU-18の指揮官に復帰した明堂和也監督も、この貴重な機会に臨む選手たちのモチベーションの高さを口にする。

 1勝1分け1敗で迎えた予選リーグ最終戦の相手は、昨年度のプリンスリーグ関西1部王者の京都サンガF.C.U-18(京都)。相手にとって不足はない。「チームとしてやるべきこともハッキリしていて、開幕に向けて良い状態になってきていますし、攻撃のバリエーションや、ペナルティエリア内のアイデアは凄く出てきていると思います」(小田切)。富山U-18の選手たちは一定の自信を持って、強豪相手の試合に向かっていく。

 先に作った決定機は前半8分。バイタルで前を向いた高川が鋭いスルーパス。抜け出したFW山出祥矢(1年)がGKとの1対1から放ったシュートは、しかしファインセーブに阻まれる。さらに1分後の9分。今度は高川がミドルレンジから枠内へ収めたシュートは、再び相手GKがセーブ。先制には至らない。

カターレ富山U-18の10番を背負うFW高川諒希(2年)


 以降は京都U-18が攻勢に。それでもスタンスを崩すつもりはない。「しっかり後ろから繋いで攻撃を組み立てながら、主導権を握ってゲームを進めていきたいですし、ジュニアユースの時からそういうスタイルでやっています」と話すキャプテンのDF小田切祐真(2年)とDF朝比奈寛泰(1年)のセンターバックコンビを中心に、中盤のMF野嶋竜斗(2年)とMF長谷川岳久(1年)もパスをピックアップしながら、丁寧にボールを動かしていく。

 20分にはファインゴールで先制を許したものの、富山U-18も右のDF白川紳晴(2年)とMF片原太一(2年)、左のDF前林士雲(1年)とMF折橋蓮(2年)が縦に組んだ両翼を使いながら、整える反撃体制。2失点目を献上した直後の後半5分(35分ハーフ)には、片原と高川で右サイドを崩し、最後は白川が打ち切ったシュートは枠を越えるも好トライ。守護神のGK仙田琥太郎(2年)もこれ以上の失点は許すまいと奮闘する。

 ファイナルスコアは0-2。勝利には届かなかったが、「チームの完成度が高くなってきていて、こういう良い相手と、この良い環境でできる中で、どれだけ自分が成長できるか、どれだけ質の高いプレーを出せるかに挑んでいる感じで、自分の中ではまだまだできるという想いがありますね」とMF吉崎裕大(2年)も口にしたように、ハイレベルな相手と70分間を戦ったことで、収穫と課題を同時に手にしたことは間違いない。


「話し合ってはいないんですけど、自分たちの代は基本的にユースへ上がれる人は上がろうという感じになっていました。そういう代は結構珍しくて、相当仲が良いですし、仲間への思い入れもありますね」。小田切は少し笑顔を浮かべながら、そう明かす。11人が名前を連ねる今年の新3年生は、実に10人がU-15からの“持ち上がり”だ。

富山U-18のキャプテンを託されているDF小田切祐真(2年)


「期待はされてきた代だと思います」と吉崎が話すのにも理由がある。彼らが中学3年生だった2021年には、わずか1敗で北信越リーグ優勝を堂々達成。冬の全国大会は初戦で名古屋グランパスU-15に苦杯を嘗めたが、その試合に出場したスタメンの大半は次のカテゴリーでのリベンジを誓って、U-18へと昇格してきた。

 富山U-18は2018年にプリンスリーグ北信越に初昇格を果たしてから、一度も降格することなく、この舞台で6シーズンを送ってきた。「僕たちにとっても良い経験になりますし、1個上がればプレミアという舞台も見えるので、目標も立てやすくて、プリンス1部に残っているのは本当にありがたいですね」(高川)。選手たちもプリンスリーグで戦い続ける意味は十分に理解している。

 ここからはさらなるステップアップを狙うフェーズ。「去年のプリンスでも2年生主体で戦うことが多くて、それで鍛えられた部分もあったので、今年は結構楽しみです」(高川)「成績的にはやっぱりずっと下位の方にいるので、それを継続的に中位や上位に入るまで持っていきたいなと。そこからプレミア参入まで意識させたいなと思っていますね」(明堂監督)。もちろん目指すのは年代最高峰のステージだ。

「もともと今の新高3は、中3の時に僕が見ていた学年なので、持っていた時のイメージ通りですし、見ていない間に成長したことも感じていますね」。3年間に渡ってU-15を率いていた明堂監督にとってみれば、今のU-18に在籍する“昇格組”は全員が指導に当たっていた選手たち。とりわけ新3年生に対しては、「勝負しに行かないといけない代なのかなとは感じていますし、自分が持たせてもらっているからには結果を残したいなとは思っています」と指揮官も自身にプレッシャーを掛けている。

富山U-18を率いる明堂和也監督が選手たちと戦術を確認する


 カターレのアカデミー自体も着々と進化を遂げている。2020年度にはU-12のカテゴリーも発足。現役引退直後から指導者の道に足を踏み入れ、12年目を迎える明堂監督はつぶさにアカデミーの成長を間近で見つめ続けてきた。

「昔に比べるとジュニアユースは自分たちで足を運んでスカウティングすることで、来てくれる子も増えていますし、ジュニアができてからの積み重ねも少しずつ出てきているので、そこで上がれる選手を少しずつ増やしながら、良くなっていけばいいんじゃないかなと。やっぱりベースとしてはジュニアからの積み重ねがある分、ジュニアユースに上がった時にはメリットがあるなと思っています。あとは、今後どう伸びていくかも含めて、選手の成長を見極められるかどうかですね」(明堂監督)。

 スタッフの顔ぶれにも、クラブのこだわりが透けて見える。U-12の監督にはクラブOBの苔口卓也が、U-15では自らも6年間をアカデミーで過ごした徳田弥武が監督を、水井龍也がGKコーチを務めており、同様にカターレでのプレー経験を持つ明堂監督は「もともとアカデミーから育った選手やウチのトップチームで長くプレーした選手がいるのは、結構大きなことじゃないかなと思っています」とその意味を語っている。

 ただ、常に優秀な人材が次のカテゴリーへの昇格を希望するわけではないという。「ウチのユースはジュニアユースからの選手が多いんですけど、あまり上がらない年が3年に一度ぐらい来ていて、アカデミーとしてはそれを常に上がってくれるようにというところに取り組んでいる段階です。ウチのクラブがどういうクラブで、アカデミーからしっかりプロを目指していて、ということをジュニアやジュニアユースから選手や親御さんに話しながら、アカデミーのトップでもあるユースに入りたいという選手を増やしていくところと、あとは目に見える成績を頑張って残すことは意識してやっています」(明堂監督)。

 加えてクラブが大切にしているのは、人間的な成長への働きかけだ。ここでも明堂監督の言葉に耳を傾けよう。

「彼らはサッカー選手ではありますけど、同時に『人として』というところは強く言っています。単純にルールを守れなかったり、挨拶が適当だったりしないように、そういうごくごく当たり前にやっていることをもっと徹底して、人から見られているということを意識しながら、ちゃんとやろうと。それは練習の時もそうですし、学校に行っている時もそうですし、練習に来る時もそうですし、そういうことは口酸っぱく言うようにしていますね。そこは選手と指導者の中で信頼関係ができていれば問題ないですし、僕らもコミュニケーションを取るようにしていれば、ちゃんと話すと、ちゃんと理解してくれますよ」。

 U-15時代にはキャプテンを任されていた吉崎も、そのことはしっかり意識しているようだ。「カターレのアカデミーは人としても選手としても成長するということをテーマにやってきているので、実際に人間性の部分もプレーも成長できているのかなと思います」。エンブレムを纏うからには、クラブの一員であるという自覚は絶対に必要なもの。その徹底を外していないあたりも、彼らが地道にステップアップしている要因ではないだろうか。

富山U-18の中盤を支えるMF吉崎裕大(2年)


 とはいえ、やはり求められるのは明確な成績。久々にU-18へ帰ってきた明堂監督は、2024年シーズンへの意気込みを改めてこう話してくれた。「目標で言うとプリンスで上位に入ることと、そこから狙える位置にいるのであれば、プレミアまで行くことになります。あとはトップチームも掲げているハードワークはアカデミーも意識しながらやっているので、自主性や判断を選手たちに磨かせながら、ちゃんと自分で見て判断して、相手の変化に合わせて、自分たちのやりたいことをやり通せるチームになってほしいですね」。

 チームの中盤を支える今季のキーマンとして期待が懸かる吉崎が、あることをそっと教えてくれた。「ちょっと言いにくいんですけど……、ジュニアユースの時にキャプテンだった自分はずっと試合に出られなくて、『県外の違うチームに行こうかな』と思ったこともあったんです。でも、チームメイトに『一緒にやろう』と言われたので、結果的にユースに残ることにしました。やっぱりみんなとサッカーをするのは楽しいですし、僕は楽しければ十分だなとも感じています」。かけがえのない仲間とともに、明日もボールを追い掛ける。

 小田切が明かすのは、自身の父の存在だ。「トップチームの(小田切道治)監督は僕の父ですね。そういうプレッシャーはちょっとありますけど、家ではサッカーの話もちょくちょくはしますし、試合を見に来てくれたらその話は結構してくれます」。続けて今季への意気込みが力強く響く。「中3の時は良い結果が出せていたんですけど、ユースに上がってからはそこまでうまくは行っていない状態が続いていますし、自分たちが3年生になった今年こそは、良いところまで行きたいなと思います」。父と子が目指すのは、どちらも周囲の人々を笑顔にするための確かな成果。小田切家の2024年は今まで以上に忙しくなることだろう。

 語れ、このチームで戦うことの意味を。語れ、この仲間とともに同じ目標へ向かうことの意義を。富山の地から彼らが望むのは、より高い山の頂。カターレ富山の未来は、クラブへの愛着と大きな志を携えた若き才能たちに託されている。



■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に『蹴球ヒストリア: 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』『高校サッカー 新時代を戦う監督たち』

▼関連リンク
SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史
土屋雅史
Text by 土屋雅史

TOP