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昨季のリーグ戦では一度もなかった逆転勝利で証明した「ひっくり返す力」。川崎F U-18は大宮U18から4ゴールを奪って開幕白星発進!

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川崎フロンターレU-18は逆転で開幕戦を制して白星発進!

[4.7 プレミアリーグEAST第1節 川崎F U-18 4-1 大宮U18 Ankerフロンタウン生田]

 タイトル奪還という使命を掲げた2024年シーズン。そのために必要な要素は明確だった。昨季のリーグ戦では一度も成し遂げることができなかった、逆転で勝利を手繰り寄せられる勝負強さを身に付けること。すなわちゲームを『ひっくりかえす力』の証明だ。

「今年は本当に『ひっくり返す力』というのがJ-VILLAGE CUPも含めて出せていて、その経験から自分たちに自信がありましたし、1人1人が『自分たちにはひっくり返す力があるんだ』という想いは持っていると思うので、それがこういう結果に繋がったのかなと思っています」(川崎F U-18・土屋櫂大)。

 いきなりの失点にも慌てず、騒がず、きっちり4発やり返しての逆転勝利。7日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 EAST第1節で、2年ぶりの戴冠を目指す川崎フロンターレU-18(神奈川)と大宮アルディージャU18 (埼玉)が対戦した一戦は、前半14分にMF登丸楓吾(3年)のシュートで大宮U18が先制したものの、そこから4ゴールを奪った川崎F U-18が力強く逆転勝利を収め、開幕勝利を飾っている。


「開幕戦の硬さは毎年変わらずというところで、今年も引き続いて硬い選手たちが多かったなと思います」と川崎F U-18を率いる長橋康弘監督も言及した中、序盤はともに慎重に立ち上がりながら、「前半は入りも良くて、自分たちのやりたいこともハッキリしていました」と登丸も話した大宮U18の出足が鋭く、MF山中大智(3年)とMF斎藤滉生(2年)のドイスボランチもセカンド回収で強さを発揮し、前向きな矢印をピッチ上に展開していく。

 すると、先にスコアを動かしたのはアウェイチーム。14分、左サイドでFW堀内陸大(3年)からパスを受けた登丸は、「カットインシュートはできないかなと思って、縦に行ってクロスを上げました」と左足でクロス。ニアサイドを襲ったボールはGKも弾き切れず、そのままゴールネットへ滑り込む。ソン・フンミンに憧れるサイドアタッカーが開幕戦で一仕事。大宮U18が1点のリードを奪う。



 いきなりビハインドを負ったホームチームは、それでも冷静だった。「失点してから、自分たちで1回集まって話し合ったんですけど、そこでマイナスの声は一切なくて、『相手どうこうじゃなくて、まず自分たちのプレーをやろう』と」(土屋)。むしろ、その失点がなかなか踏み込めなかったアクセルへのトリガーになる。

 32分の主役はフォワードにトライしているナンバー7。右サイドをMF知久陽輝(3年)との連携で崩したMF八田秀斗(3年)が正確なクロスを送り届けると、飛び込んだMF加治佐海(3年)のヘディングがゴールに吸い込まれる。「去年の開幕戦もヘディングでゴールを決めていて、ヘディングは自分でも得意としているので、決められて良かったです」と笑った加治佐の同点弾。川崎F U-18が力強く追い付いて、最初の45分間は終了した。


 後半のキーマンは「彼の良さはチームメイトがみんなわかっているので、非常に素晴らしいスイッチをチームに入れてくれたのかなと思います」と指揮官も言及した、献身的な2年生ストライカーだった。後半15分。次の1点を巡る展開の中で、硬さもほぐれて本来の攻撃のリズムが出てきたチームを見た長橋監督は、中盤で奮闘した知久に代えて、FW恩田裕太郎(2年)をピッチへ解き放つ。

 21分。大宮U18のビルドアップに対して、「その前のプレスで、自分が行った時に相手がちょっと“あわあわ”していた感じがあったので、2回目の時は行けるなと思いました」と恩田が果敢にプレスを掛けると、こぼれたボールを抜群の反応で拾ったFW香取武(3年)はGKも外して、無人のゴールへとボールを流し込む。「今日は正直得点しか欲しくなかった」という新9番の逆転弾。2-1。スコアがひっくり返る。

 2分後にも光った2トップの連携。23分。今度は香取が送ったラストパスに、抜け出した恩田はGKに倒され、PKを獲得してみせる。「決めるか決めないかで試合が大きく変わってくる場面だったので、とても緊張しましたけど、J-VILLAGE CUPの決勝でも自分がPKを最後に蹴って決めていますし、それなりに自信はありました」。恩田は冷静にGKの逆を突いたキックを突き刺し、3-1。点差が開く。

「後半は自分たちのやることをしっかりできない中で、失点してしまいました」とキャプテンのDF大西海瑠(3年)も振り返った大宮U18は、右のMF丹野豊芽(3年)、左の登丸と両サイドのアタッカーに加え、途中出場のMF神田泰斗(1年)やFW中島大翔(1年)もチャンスの芽は作るものの、ゴールの予感までは生み出せない。

 とどめの一撃はセットプレーから。37分。DF柴田翔太郎(3年)が蹴り込んだ右CKから、MF楠田遥希(2年)のフィニッシュの跳ね返りを、左サイドバックに入ったDF関德晴(2年)が叩いたシュートがゴールを撃ち抜く。ファイナルスコアは4-1。「このスコアを想像してはいなかったので、選手たちは想像以上に良くやってくれたなと思います」と長橋監督も評価を口にした川崎F U-18が、3年連続となる開幕戦の白星を手にする結果となった。

 なお、川崎F、大宮の両チームでもプレーした経験を持ち、昨シーズンの途中から大宮U18のコーチを務めていた横山知伸さんが今年の1月4日に逝去されたことを受け、その横山さんを偲ぶ意味で、この試合に臨む大宮U18の選手たちは喪章を付けて戦った。横山さんの日本サッカー界に残された功績へ敬意を表するとともに、改めてご冥福をお祈りしたい。

大宮U18の選手たちは左腕に喪章を巻いて戦った


 昨シーズンはリーグ連覇に一歩届かなかった川崎F U-18が、今シーズンを立ち上げる時に共有したことについて、長橋監督はこう明かす。「去年の反省を今年は徹底してやりました。すべての得点、すべての失点を選手たちと洗いざらい振り返りながら、『どこがいけなかったのか』『どういう時間帯に自分たちの脆さが出るのか』『どんな相手には弱みが出て、逆にどんな相手には強みが出たのか』ということを選手たちと話した中で、『じゃあこういうふうに進めていこう』と。悔しい想いをしただけで終わらせずに、しっかり数字に出した上で、自分たちの良さは引き続き継続して磨きを掛けるというところは、立ち上げから共有したところではあります」。

 そこから導き出した2024年のキーワードは、2つある。1つは『後半に足が止まらない』。昨シーズンのリーグ戦では80分以降に喫した失点で引き分けた試合が3試合、負けた試合が2試合あった。とりわけリーグ序盤にいわゆる“取りこぼし”が目立った経緯を受け、今季は最後まで走り負けないトレーニングを重ねてきたという。

「昨日涼しかったところで、今日は一気に気温が上がった中でも、足が止まらなかったので、明らかにこの時期で去年と比べると、後半は足が動いていたかなと思います」(長橋監督)「後半は大宮の選手よりも走れていたと思いますし、相手が怖いようなプレーができたと思います」(加治佐)。2人の言葉を聞くと、この日の90分間からは一定の手応えを掴んだようだ。

 もう1つは『ひっくり返す力』。やはり昨シーズンのリーグ戦を振り返ると、先制された4試合の結果は1分け3敗。逆転勝利は1試合もなく、リバウンドメンタリティを発揮しきれなかった流れがあった。だが、今季のプレシーズンでは強豪が集ったJ-VILLAGE CUPを含めて、逆転で競り勝つ試合も経験済み。タイトル獲得には欠かせない勝負強さへの自信を培ってきた。

「今年は立ち上げから選手たちを見ていて、去年と明らかに違うのが点を獲られてからも下を向かずに、『ここを耐えれば絶対にチャンスがある』と凄く感じる試合が多くて、『自分たちから崩れない』というところは、もう信頼しているところがありました」(長橋監督)。その指揮官からの信頼に、いきなりオープニングマッチから結果で応えた選手たち。この勝ち点3が数字以上に大きな価値を持ってくることは、あえて言うまでもないだろう。

 それでも、長橋監督が安堵の表情とともに吐き出した言葉も印象深い。「昨シーズンは何が足りなくてこういう数字になっていたのかは、選手たちもわかっていると思うので、今年はメチャメチャしんどいトレーニングをしています。これで負けたら説明が付かないので、私が一番ホッとしています(笑)。勝てて良かったです」。

 過去の経験を真摯に受け止め、プレミアリーグ完全制覇へと上り詰めるべく、後半まで足が止まらず、ひっくりかえす力を持ち始めつつある川崎F U-18。飽くなき勝利への希求を携えた2024年の彼らは、今まで以上にどのチームにとっても厄介極まりない存在になりそうだ。



(取材・文 土屋雅史)

土屋雅史
Text by 土屋雅史

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