[1.22 練習試合 日本高校選抜候補 1-0 日本体育大 時之栖G]

　日本高校選抜候補に誰よりもエネルギーを加えていた。ゲーム主将のCB三橋春希(青森山田高3年)は「それが担当なので。この中でも、チーム(青森山田)でも。自分の仕事を全うするだけなので」と常に声で発信。DFラインから大声で指示を送り、味方がセットプレーを獲得すると青森山田同様に一際盛り上げて“1本”を獲りに行く空気感を作り出していた。

「この中で自分が一番下手なのは自覚しているので、声とリーダーシップみたいなのは一番やろうとやる前から考えていました。それがまだできていない部分もあると思うんですけれども、人よりはやろうと思っています」。三橋が意識しているのは技術とは異なる部分でチームを引っ張ることだ。

　日本代表DF長友佑都のように、チームに好影響を与えること。「それができるかと考えて、この遠征に臨んだので。今のところは少しやれています」。雰囲気作りに加え、光っている守備。本人は「そんなに身体能力は高くないし、気持ちで身体が動いている感じです。みんなに助けられながらやれていると思う」と苦笑するが、“さすが青森山田のDF”と言えるような責任感のある動きでゴールを守り続けている。

　クロスボールを必ず相手よりも先に触り、シュートコースを絶対に空けない。ゴール前にボールがこぼれれば、つま先だけでも触れてクリアしようとする。「それが山田イズムというか、監督が教えてくれたことなので。そこは身になっている。考えなくてもできるようになっていると思います」。日体大戦の1本目の30分間は0-0で終了。だが、青森山田のサブから「なにくそ根性」で高校選抜候補のゲーム主将まで這い上がってきた三橋は、最後まで味方を鼓舞して1点を、勝利を求め続けていた。

　三橋は青森山田高での最終学年を先発CBとしてスタート。CB多久島良紀主将(3年)が大怪我でリハビリ中だったこともあり、DFリーダーを担っていた。だが、チームはプレミアリーグEASTで開幕3連勝から5連敗。5試合目の黒星となった桐生一高戦で退場した三橋は怪我もあってその後サブに回り、インターハイの公式記録上の出場時間はわずか1分だった。

　多久島が8月の和倉ユース大会で負傷離脱したこともあり、再び先発へ。リーグ戦での巻き返しや選手権予選26連覇に貢献したが、選手権前の怪我で再びポジションを失ってしまう。復帰後も多久島とDF小泉佳絃(2年)がCBの先発を務め、「このままサブなんだろうな」という思いも抱いていたという。だが、大会直前の合宿で好プレー。小泉から先発の座を取り戻し、選手権では全3試合で先発フル出場した。逆転負けした神村学園高戦の同点ゴールは「自分のせい」と口にするが、初戦から2試合連続先制ゴールを決めるなど活躍し、日本高校選抜候補に食い込んだ。

　三橋は青森山田での3年間について、「山あり谷ありな3年間」と説明する。「そこで自分が成長できたのかなと。(這い上がる)その力が無かったらBチームとかに下がっていたと思うけれど、『なにくそ根性』でやっていたので。(先発落ちした時期も)戻ったら本当に自分が一番やってやろうとセカンド(チーム)の時から練習していたので、それがスタメンになってチームに貢献できたのは良かったです」。当初進学を考えていた関東の大学の評価を得られなかったが、地方の大学から再び這い上がる意気込みだ。

　山西尊裕監督の情熱に心を動かされたこともあって、東海学生リーグの強豪・常葉大へ進学する。常葉大に練習参加した際には先輩FW小松慧主将(4年=青森山田高)から「『オレ、今年で卒業するけれど、オマエがオレの後を引き継いでくれ』みたいに言われました」。小松は18年度の選手権優勝メンバー。スーパーサブとして熱いプレーを見せ、準決勝、決勝でゴールを決めて『炎のストライカー』の名を全国に轟かせた選手だ。

　情熱的な先輩から後継者に指名された『炎のディフェンダー』。「凄く良い先輩」という小松は選手権期間中も「めちゃくちゃたくさん」メッセージを送ってくれたのだという。先輩の意志を受け継ぐ意欲。小松のようにサッカーを通して見る人を感動させるような戦いを表現し、先輩が常葉大で成し遂げられなかった、また自身が高校3年生で獲得できなかった日本一を勝ち取る。

　まずは日本高校選抜候補に必ず生き残り、少しでも成長して大学サッカーの舞台へ。三橋は「(日本高校選抜の海外遠征で)ドイツ行ってデカい相手や、速い相手とやりたいというのは本当に思いますね」。ピッチでの身体を張った攻守に加え、たとえ出番が少なくなっても腐らずにチームを盛り上げることのできるCBは貴重な存在。タレントたちとの競争を「なにくそ根性」で勝ち抜き、日本高校選抜に勝利をもたらす。

(取材・文　吉田太郎)

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