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「自分の中で線を引いている」HSV主将の酒井高徳がハリルJで“自我”を解き放つとき

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強い決意でW杯イヤーに臨む日本代表DF酒井高徳

 ロシアを見据え、勝負に出る。16年11月、最下位にあえぐチームの危機にハンブルガーSVのキャプテンに任命された日本代表DF酒井高徳。ブンデスリーガで唯一、降格経験のない名門クラブで大役を任された日本人DFは見事にチームを1部残留に導き、今季も引き続きチームキャプテンを務めている。両サイドバックにボランチもこなすユーティリティープレイヤーは2018年を迎え、あらためてサイドバックで勝負する決意を固めた。その視線の先にあるのはロシアW杯。過去2度のW杯を“経験”しながら、いまだ踏めずにいるピッチで日本の勝利に貢献するため、酒井高徳は新たな挑戦に踏み切った。

―今季のブンデスリーガ前半戦を振り返っていかがでしょうか。
「出だしでちょっとつまずいたところがあって、しばらくはベンチスタートでした。コンディションがすごく悪いという感覚はなかったし、自分の中で何が原因かよく分からない部分もあったのですが、もしかしたらキャプテンをやるということで気負いすぎたところもあったのかもしれません。周りからもいろんな話を聞く中で、事実として試合に出られていない自分がいることを受け止めて、ピッチに立つためにまずはトレーニングからしっかりやろうという形でスタートしました。その後、(第5節で初先発し)ピッチに戻ることはできましたが、(第9節からは)ポジションがボランチになって、チームに必要とされているポジションということは分かっていながらも、やはり自分の本職ではないという思いもありました。個人のこと、日本代表のことを考えると、自分が成長するにはサイドバックでやりたい。もちろん、そこには競争があるし、出番が減るかもしれないことは覚悟の上で、それでも『サイドバックで勝負したい』というのはチームと少し話す必要があるのかなと思いました」

―監督に求められたポジションで最善を尽くすというスタンスでこれまでもプレーしてきたと思いますが、心境の変化があったのでしょうか。
「チームに必要とされることがまず一番大事なことですし、それがボランチでもサイドバックでも、必要とされるポジションでしっかり自分の仕事をするというのが自分のモットーであり、今までのサッカー人生で心がけてきたでもあります。ただ、試合のたびにポジションが変わったり、この選手が調子悪いからその代わりに入ったりということを繰り返していると、パフォーマンスに安定感が出ないのは必然になってしまうのかなと。その中でも毎試合、少しでも良いプレーをしようとやってきましたが、ブンデスリーガというレベルの高いリーグではそういう微妙な感覚も大事なのかなと思っています」

―半年後にロシアW杯が控えているというのも関係ありますか。
「そういう気持ちがないわけではありません。ボランチもやっていて面白いポジションだと思いますが、ずっとサイドバックをやってきて、サイドバックとして活躍したいという気持ちはもともと強く持っています。自分がW杯に出場するとなったとき、(酒井)宏樹、(長友)佑都くんからどうやってポジションを取るのか。監督に代表に呼んでもらったとき、チームでサイドバックをやっていない選手がサイドバックとしての信頼度が低くなるのは否めないと思います。常に公式戦でサイドバックをやっていないというのは監督として不安要素になるだろうと。サイドバックはずっと自分が争ってきたポジションでもありますし、そこでもう一度試合に出たいという気持ちは強くあります。W杯にフォーカスしても、所属クラブでサイドバックをやることが今は一番意味のあることなのかなと思っています」

―先ほど「キャプテンをやることで気負いすぎたところもあったのかもしれない」という話がありましたが、昨シーズン途中で急きょキャプテンに任命されたときと、シーズン初めからキャプテンを任されたときでは違いがありましたか。
「そうですね。昨シーズン途中でキャプテンになったときは余計なことを考える余裕もなかったというか、任命されて、『よし、分かった』と突っ走った半年でした。新しいシーズンになって、もう一度キャプテンを任されることになって、チームのいろんなことに目が行きすぎたというか、自分のプレーに集中し切れていないというのはあったかもしれません。それも『自分にとって良い経験になる』『そういう経験をして強くならないと』と思いながらやっていましたが、やはり時間がかかったのかなと。またピッチに戻ってこれたということは、苦しい経験から得るものがあって、自分にプラスアルファが付いたからだと思います。簡単ではないですけど、キャプテンとしての役目と自分のパフォーマンスを高めるところの比率はうまくバランスを取りながらやっていきたいと思っています」

―あらためてキャプテンは大変だなと実感しているということでしょうか。
「ドイツ語でコミュニケーシを取るのは問題ないですが、深く突っ込んだ話をしたり、自分の考えをしっかり伝えたりというときにはやはり知らない単語もありますし、うまく伝え切れない自分がいます。それがなければ、問題なくできるのかなという思いもありますが、チームにはいろんな国の選手がそろっているので、それをまとめるのはなかなか難しいですね。海外の選手は一人が右を向いたら、もう一人は絶対に左を向いてしまうという変な集団なので(笑)。みんなが同じ方向を向けるように一人ひとりとコミュニケーシを取っていますし、小さなことも含めて、自分にできることは日々意識して努力しているつもりです」

―ブンデスリーガで、しかも伝統あるハンブルガーSVというチームで日本人がキャプテンを任されているということについてはどう思っていますか。
「最初は日本のメディアもドイツのメディアもすごく大きく取り上げてくれて、『そんなにすごいことなんだな』と、あとから気づいたぐらいでした(笑)。最近はみんなが『高徳がキャプテンだよね』と分かってくれたというか、メディアも含めてあらためて持ち上げるということもなくなったので、自分の中で落ち着いてきたところはあります」

―1年余りキャプテンをやってきて、自分に還元できているものはありますか?
「どうですかね。他の選手に聞いてみないと分からないですけど、プロがこうあるべきだという姿は若い選手に伝えていますし、練習の前後でこういうことをしたほうがいいよとか、『今は大変なときかもしれないけど大事な時期だよ』という声がけはするようにしています。信頼される人間になるにはどうしたらいいかというのは常に考えますね。何かを発信する立場であれば、みんなから“あの人が言うことなら聞こう”と思われる人間でないといけないと思っているので、そこは自分の中ですごく意識しています。一つの行動、発言にも気を付けますし、“キャプテンなのにあんなことをしているよ”と思われるようなことは絶対にしないようにしています。逆に“あいつが言うんだったら俺らは何も言えないよね”と思わせるような、そういう姿を見せることを意識しています」

―高徳選手のコミュニケーション能力や周りへの気配りができる人間性はキャプテンとして適任だと思います。同時にそういうキャプテンシーやリーダーシップをもっと日本代表でも出していいのではないかと思うときもあります。
「そういってもらえるのは非常にうれしいですし、今までいろんな先輩方を見てきて、“プロのサッカー選手はこうでなければならない”というセオリーは自分の中にあります。自分もそういう選手になりたいと思っていますし、それは続けていきたいと思っています。日本代表に関しても、自分が言うべきところは言おうと思っていますし、若い選手やあまり出場機会のない選手には練習中からどんどん話しかけるようにしています。ただ、それ以上のことは長谷部(誠)さんや(吉田)麻也くんがキャプテンをやっていますし、僕より(年齢が)上の選手もいるので、僕がそこで出しゃばってやることではないのかなと、自分の中で線を引いているところも正直あります。もちろん、自分のことだけをやってるわけではなく、声をかけるべき選手には声をかけていますが、自分もピッチに立っている時間が少ないので、そういう意味で自分の中で線を引いてしまっているところがあるのかもしれません。試合に出ている、出ていないというのは、“この人に言われるならしょうがない”と思わせる部分に関わってくることでもあるので、試合に出場する時間がもっと増えてくれば、もう少しそういった意味でも余裕が出てくるのかなと思っています」

―試合にあまり出られていないから遠慮しているんだろうなというのは感じていて、だからこそもったいないなと思うこともあります。
「もちろん、そうならなきゃいけないタイミングもあると思います。大事なポイントで自分が話さないといけないタイミングが来るのであれば、そこはしっかり話したいと思っています。それがサッカーのことなのか、私生活のことなのかは分からないですけど、自分が言わなきゃいけないと思ったときには、思い切りぶつけて話したいと思いますし、自分からも意見を出すつもりでいます。今はまだそういう状況ではないのかなと。そういうことをやるべき人間、ふさわしい人間が今の日本代表にはいるので、今は自分はやっていませんが、必要とされれば、あるいは必要だと自分で思ったときには、積極的に話していきたいと思っています」

―10年南アフリカW杯にはサポートメンバーとして帯同し、前回の14年ブラジルW杯も試合出場こそありませんでしたが、チームの一員として参加しました。2度のW杯を経験して、そういう「タイミング」が必ずどこかで来るという覚悟も持っているのではないですか。
「南アフリカW杯でしっかり結果を出せたときのチームの雰囲気というのは、振り返ってみると納得できる部分がすごく多かったと思っています。ずっと主力で出ていた選手が大会直前でスタメンから外れて、それでも練習でAチームの対戦相手側に回ったとき、『こうやったらここが空いてくるから気を付けたほうがいいよ』と俊さん(中村俊輔)がスタメン組の選手に話しているのを聞いて、この人は本当にプロフェショナルだなと思いました。ギリギリまで出ていたのに外されて、それでもそういうことをしっかりチームとして還元できる。すごい選手だな、素晴らしい人間だなと。それは俊さんに限らず、ナラさん(楢崎正剛)もそうだったし、川口(能活)さんも、(内田)篤人くんも岡崎(慎司)さんもみんなそうでした。チームとしてのW杯への向かい方、団結の仕方というのは、少なからず自分を含めてあの大会を経験した選手は知っているはずですし、それは伝えたいと思っています。

 自分はサポートメンバーでしたが、大会が終わったとき、(監督の)岡田(武史)さんに『サポートメンバー組の仕事ぶりには本当に感謝している』と声をかけてもらったことは本当に印象に残っています。だから前回のブラジルW杯でも、(サポートメンバーだった)坂井(大将)と(杉森)考起には『俺らはこういうふうにやっていた。それはお前たちのためにもなるから』という話をしましたし、『お前らも見られているんだよ』『ただ一緒に来ているだけじゃないよ』というのは伝えました。W杯は全員が一丸となって臨まないといけない大事な場所。自分の意見を発する必要があると思えば、そこはしかるべきタイミングでしっかり話したいと思っています」

―南アフリカW杯の成功例も大事ですし、前回のブラジルW杯の教訓という意味でも伝えられることがあるのではないですか。
「僕が見ていて思ったのは、最終戦のコロンビア戦は勝ってもグループリーグ突破が難しいかもしれないという状況の中で、相手もメンバーを代えてきて、雰囲気もフワッとしている感じがしました。でも、コートジボワール戦とギリシャ戦は自分たちで結果を変えることができた試合だったと思っています。結果は出ませんでしたが、勝てる可能性があった試合、そういうチャンスがあった試合でした。そこでの押しの強さや踏ん張りが足りなかった。チームの意思疎通という意味でも、特にコートジボワール戦は先に1点取って、“行くぞ”となるのかと思ったら、1点取ったことに少し満足してしまったのか、相手に時間を与えて、どんどん引いてしまったイメージがずっと残っています。そうではなく、もっと自信を持って、もっと相手に向かっていく姿勢が出せればよかったのかなと。相手を倒し切る、ゴールを守り切る。そういう最後の部分が足りなかった。すべてをクリアできるわけではないかもしれませんが、一つひとつの不安を知っておくことも大事ですし、それを一つずつクリアしていくための準備をすることも大事だと思っています」

―前回のW杯はコロンビア戦で終わり、4年後、ロシアW杯はコロンビア戦で始まります。
「向こうもこちらもメンバーは変わっていると思いますが、日本として成長した姿を見せなければいけない大会だと思っています。この4年間、僕らはただ単にW杯に出場するためだけにアジア予選を戦ってきたわけではありません。W杯本大会で日本がどれだけ力を発揮できるか、どれだけ結果を残せるか。初戦の相手が前回大会で負けたコロンビアということで、コロンビアに勝てば勢いに乗りますし、自信も付きます。すごく大事な大事な1試合になると思うので、4年前とは違う気持ちで臨むことを意識して、勢いを持って臨みたいと思っています。いろんな意味で非常に面白い試合になると思います」

―プレーを足元で支えるスパイクはアディダスの『X(エックス)』を履いていますが、履き心地はいかがですか。
「いろんなスパイクの中でも断トツにフィット感がいいですね。靴全体に柔らかさがあって、軽さもあります。サイドの選手にとってアジリティーやスピードは非常に大事なので、このスパイクの特長は自分のポジションに一番合っていると思います。自分のパフォーマンスを発揮するのに非常に役立っているなと思っています」

―スパイクでこだわる部分はどんなところですか。
「子供のころに履いていたスパイクというのは、足を入れてもスパイクと足が別々という感覚が強かったですが、このスパイクは履いた瞬間にスパイクと足が一体化するぐらいフィット感があります。足全体が包まれている感覚も好きなので、履き心地や柔らかさは大事にしています」

(取材・文 西山紘平)

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