beacon

アジア連覇のU-17日本代表が凱旋帰国!! W杯への競争スタート「チャンスを与えたい」U-20W杯の教訓も活かせるか

このエントリーをはてなブックマークに追加

U-17日本代表の森山佳郎監督

 AFC U17アジアカップで2連覇を果たしたU-17日本代表が3日、大会が行われていたタイ・バンコクから帰国した。森山佳郎監督が羽田空港で報道陣の取材に応じ、過酷な中2日の連戦を勝ち抜くにあたって「最終戦で一番良い状態にチームが持ってこられたのが大きな勝因だったかなと思う」と振り返った。

 今大会の日本はグループリーグ初戦でウズベキスタンに1-1で引き分けたあと、第2戦でベトナムに4-0、第3戦でインドに8-4で勝利し、D組を首位で突破。U-17W杯出場権がかかる準々決勝でオーストラリアを3-1で下すと、準決勝のイラン戦、決勝の韓国戦をいずれも3-0で圧勝し、コロナ禍前の2019年大会に続いて大会史上初の連覇を成し遂げた。

 終わってみれば22得点6失点という結果となったが、決して簡単な戦いではなかった。最も大きな障壁となったのはこの大会特有の変則スケジュール。グループリーグ初戦はA組が大会初日、B組とC組が大会2日目、D組が大会3日目にそれぞれ組まれていたため、準々決勝以降を見据えると日本のD組のみ極めて不利な日程となっていた。

 日本は大会開幕から決勝戦まで一貫して中2日の日程が続き、試合に出場した選手たちがリカバリー中心の調整を強いられていた一方、準々決勝と準決勝の相手は中3日のインターバルを享受。とりわけU-17W杯出場権がかかる準々決勝でコンディション面に不公平があるのは、紛れもなく厳しい要素であった。

 それでも森山監督はコンディションの違いを受け止め、大会を通じた大胆なメンバー入れ替えを敢行し、難局を乗り越えていった。

「中3日の相手にまともに同じメンバーで戦っていたら疲弊して最後にやられてしまうというのがあったので、まずはハナからしっかりと選手をローテーションさせながら、準々決勝がW杯が決まるところなので、まずはそこにピークを持ってきて、決勝をまたピークを持ってきたいなと。また準決勝はどの国もW杯が決まって結構キツイ。そこも5枚くらいメンバーを代えて、またフレッシュな選手を決勝に送り込む。それがうまくいったかなと」(森山監督)

 大会序盤には慣れない東南アジアの気候や、世界舞台がかかる国際大会の緊張からか、体調不良者が続出。メンバーの入れ替えさえもプラン通りにいかない事態に見舞われた。森山監督はそうした状況下での采配について「賭けではありますけどね(笑)」と笑い飛ばしていたが、経験豊富な指揮官の見極めと胆力が連覇を手繰り寄せたのは間違いなさそうだ。

 またこの大会を通じてもう一つ際立っていたのは、国際舞台でも引けを取らないデュエルの強さだ。それも選手選考の時点でデュエルに強みを持つ選手たちばかりを優先的に選考していたわけではなく、むしろ身体能力より技術に秀でた選手を多く送り込んでいながらのハイパフォーマンスだった。

 U-17W杯の過去2大会でU-17日本代表を率い、その前はコーチとしてAFC U-16選手権(前身大会)を経験した森山監督によると、今回の世代は「アタッキングサードで特徴のある選手が多く、結構点数が入る」という点で秀でている一方、「そのぶん足先だけで上手いけど戦えないみたいな典型的なグループ」という課題認識があった。

 そうした選手たちに対し、森山監督はMF遠藤航(シュツットガルト)らデュエルに秀でた選手たちの動画を見せながら粘り強く働きかけてきた。指揮官自身は「かなり嫌味を言い続けてきた(笑)」と冗談めかしたが、指導の内容はボールを奪う力だけでなく、戻る際のスプリント、球際、運動量など具体的で多岐にわたっていた様子。その結果、今大会では過去の対戦で大幅にデュエル勝率で下回ったウズベキスタン、イランにも対等以上のスタッツを記録していたという。

 森山監督は「これまで弱いと思っていたけど、数字を見たら勝ってるぞという状況で。その意識を持って取り組めば変わってくるんだなと」と成功体験を強調した上で、「また自チームに帰ることになるけど、それを意識し続けてやってほしいなと思います」とさらなる成長に期待を寄せた。

 また指揮官は彼らの順調な成長に期待するのみでなく、新戦力の発掘も積極的に進めていく姿勢を見せた。U-17日本代表の次の目標は11月にインドネシアで開幕するU-17W杯で、世界仕様のチーム作りをしていくことが求められるが、学業にも配慮しなければならない年代のため、ベストメンバーでまとまった活動ができるのは9月のフランス遠征のみになる。

 そのぶん、2度の国内合宿では「今回参加していない同年代の選手にチャンスを与えたい」意向。今回のAFC U17アジア杯メンバーには「強化する時間がないのでチームに帰って頑張ってもらうしかない。ちょっとした不安や心配事はW杯で大きな綻びになるので、それを埋めてきてくれよと話した」という指揮官は、国内合宿でチャンスをうかがう選手に向けて「そこから名乗りを挙げてくれる活きのいい選手が助けになってくれたらなと。『来てくれよ』という感じです」と台頭を呼びかけた。

 アジア連覇に達成感を覚えるのではなく、世界舞台に向けた上積みにフォーカスする姿勢は、日本サッカー協会(JFA)としても同様だ。同じ便で帰国した反町康治技術委員長は今大会の戦いぶりに一定の手応えを示しながらも、「真剣の勝負をやるのは非常にこの年代には必要だなというのを感じているし、毎週末にでもこんな強度の高い試合をしたら日本も強くなるとな思って帰ってきた」を前を見据えつつ、グループリーグ敗退に終わったU-20W杯を例に楽観的な見方を一蹴した。

「U-20と同じだけど、アジアだったらたとえば中盤で相手を剥がすことはできる。選手にもクロージングのミーティングで言ったけれども、そのつもりでアルゼンチンに行ったら、相手を上回ることができなかった反省もあると。だからこれからどう成長していくか。11月までにもう少し意識をもっと高くやらないと(U-20W杯と)同じような感じになる危惧もあるので、それは強く言った」

「またW杯はメンバーが21人になるので、今回行ったメンバーよりも間違いなく減るという競争の中で、インターハイやクラブユースなどいろいろあるのでなるべく見にいくよというのは伝えた。自分のチームに帰ったらお山の大将かもしれないけど、そのつもりで鼻を高くすると選ばれないし痛い目に遭うよとも言った」

 そうした言葉は選手たちの心にも響いていた様子。今大会で光るプレーを見せていた選手からはアジア連覇の充実感よりも「自分にとって課題が明確になった大会だった。球際、プレスバックは確実に変えていかないと世界でやっていけないと思う」(MF矢田龍之介)、「一日一日、一分一秒も無駄な時間は過ごしたくない。課題に向き合っていく覚悟を持っている」(DF本多康太郎)といった厳しい声が次々に聞かれた。

 選手キャリアを大きく花開かせるチャンスとなるU-17W杯まであと4か月。AFC U17アジア杯連覇で世界への扉を開いた選手たちであっても、その舞台が確約されているわけではない。この先も慢心することなく、新たなサバイバルに挑んでいく構えだ。

(取材・文 竹内達也)
▼関連リンク
AFC U17アジアカップ タイ2023特設ページ
●U-17ワールドカップ2023特集ページ

TOP