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エモーショナルでスペクタクルな90分間は3-3のドロー!FC東京U-18とやり合った柏U-18が携えるのは指揮官も認める自主性と超攻撃的な意志

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柏レイソルU-18FWワッド・モハメッド・サディキは豪快なゴールを叩き込む!

[4.21 プレミアリーグEAST第3節 柏U-18 3-3 FC東京U-18 日立柏総合グランド(人工芝)]

 退いてしまうようなマインドなんて、端から持ち合わせていない。打ち合い上等。攻め合い上等。点を獲られたら、点を獲り返す。この日の90分間には、そんなお互いのチームが携える信念が、ピッチのあらゆるところでバチバチと火花を散らし合っていた。

「メチャメチャ楽しい試合でした。負けている時にも楽しさはあって、3失点してしまった後にみんなでもう1回顔を上げて『楽しんでやろう』ということを発信して、それが後半の最後に追い付く形に繋がったんじゃないかなと思います。もちろん悔しいですけど、充実感はありました」(FC東京U-18・後藤亘)。

 どちらも3点を獲って、3点を獲られた、エモーショナルでスペクタクルな好ゲーム。21日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 EAST第3節で、柏レイソルU-18(千葉)とFC東京U-18(東京)が対峙した一戦は、2-2で迎えた後半38分に柏U-18のFW吉原楓人(3年)が勝ち越しゴールを奪うも、45+1分にFC東京U-18もDF岩田友樹(3年)が執念の同点弾。双方に勝ち点1ずつが振り分けられている。


 試合はあっという間に動く。前半6分。柏U-18がGKまで下げたビルドアップに厳しく寄せたFC東京U-18のFW尾谷ディヴァインチネドゥ(2年)は、GKのキックを身体に当てると、ボールはそのままゴールへと吸い込まれる。「今年はチームを勝たせるために、前から守備をしようという気持ちが強くなりました」という2年生アタッカーの献身性が呼び込んだ先制点。まずはアウェイチームが1点をリードする。

「1失点目は気にしていないです。僕が求めていることなので、ただノージャッジで蹴るよりは、最後まで選びに行ったことは褒めたいぐらいですから」と藤田優人監督も話した柏U-18は、いきなりのビハインドにも揺らがない。続ける丁寧なビルドアップ。GK栗栖汰志(3年)は怖じずにボールを受け続け、DF福島大雅(3年)とDF吉川晴翔(1年)のセンターバックも、MF廣岡瑛太(2年)とMF沼端隼人(2年)で組むボランチも、狭いエリアでパスを動かしていく。

 26分はホームチームの真骨頂。最終ラインでのビルドアップから、吉川は一気に縦へのクサビでテンポアップ。受けたMF戸田晶斗(3年)はFWワッド・モハメッド・サディキ(3年)とのワンツーで中央を切り裂くと、粘って粘って右足一閃。ファインゴールをネットへ突き刺す。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。

 展開はめまぐるしく変わる。1分後の27分。今度はFC東京U-18に決定機。DF佐々木将英(2年)のフィードから、DF金子俊輔(3年)が丁寧なスルーパス。抜け出した尾谷はGKとの1対1も冷静に制し、ボールをゴールへ流し込む。「キーパーをよく見て、冷静に決めることができました。コースは見えていましたね」と語る18番はこれでドッピエッタ。2-1。再びFC東京U-18がアドバンテージを手にして、最初の45分間は終了する。



 後半も双方がチャンスを作り合う中で、先に決定的なシーンはFC東京U-18が迎えた。3分。MF鈴木楓(2年)のフィードに尾谷が競り勝つと、右サイドを飛び出したMF川村陸空(3年)は強烈な枠内シュートを放つも、ここは栗栖がビッグセーブで回避。柏U-18の守護神も、大事な“次の1点”を相手に与えない。

 28分の主役は柏U-18の9番だ。高い位置でビルドアップに加わった栗栖を起点に、福島はシンプルなフィードを前方へ。「相手のセンターバックはたぶん澤井(烈士)くんが背後に抜けるのを見ていて、『自分はオフサイドじゃない』と思ったので、澤井くんに『触るな!』と言いました」と冷静に状況を見極めたワッドは、豪快なシュートをニアサイドにぶち込む。「あまり前半は機能していなくて、ちょっとハーフタイムに藤田さんに喝を入れられて、『決めなきゃダメだな』と思っていた」というストライカーが面目躍如のゴラッソ。2-2。ゲームのボルテージが、さらに一段階引き上がる。

「モハと晶斗が決めていたので、自分も決めたい気持ちはありました」。柏U-18の11番はその瞬間を虎視眈々と狙っていた。38分。自陣で得たFK。周囲の状況をいち早く察知した栗栖は、素早いリスタートから正確なキックを絶妙のコースへピタリ。「相手も頭と足が止まっていて、汰志は良いボールが蹴れるのでそこは狙っていましたし、ボールが来た瞬間は『もう行ける!』と思いました」という吉原は、完璧なシュートでゴールを陥れる。3-2。とうとうホームチームが、この試合で初めて一歩前に出る。



 FC東京U-18も諦めない。45+1分。右サイドで獲得したCK。途中出場のMF田中希和(2年)が蹴ったキックを、ファーに潜ったMF永野修都(3年)が頭で残し、さらに右からこちらも途中投入のMF高橋裕哉(2年)も折り返すと、中央で待っていた岩田のヘディングがゴールへと飛び込む。3-3。三たび生まれた同点ゴール。アウェイチームの歓喜がピッチに弾ける。

「エモーショナルな試合でした。『よく追い付いた』とも言いたいですし、『2-1の時に3点目が獲れなかった』という言い方もできますし、その両方ですね」(FC東京U-18・佐藤由紀彦監督)「失点が少なくて点も獲れないよりは、失点も多いけど点は獲れている方がいいですし、やり合うのは好きなので、むしろ『何で4点目を獲れなかったんだ』というところに目を向けたいです」(藤田監督)。スペクタクルな意地の張り合いは、引き分けという形で決着を見ることになった。


「1試合1失点は覚悟するサッカーをしているので、そこは置いておいて、3失点目がいらなかったですね。『冷静じゃなかったな』というところです。勝てば同率首位というところで、そんなに甘くないというか、今の力はこれぐらいなんだなと、いろいろと考えさせられる失点でした」。試合後に柏U-18を率いる藤田監督はそんな言葉を残しながらも、自身の経験から来る面白い見解を教えてくれた。

「変な話ですけど、3-1よりは3-3の方が飲み込めます。3点獲れたけど、3点獲られたということは、こっちも考えなくてはいけない部分がありますし、たとえば僕は高校選手権を経験している中で、1回戦で5点獲れるチームだとして、5-0で終わるチームは優勝できるんですけど、5-1で終わるチームは優勝できないんですよ。だから、3失点まで行くとウチの実力かなと飲み込めますね(笑)」。つまりは本当の意味でディテールを突き詰められるか否か。国見高、明治大と勝利を義務付けられるキャリアを歩んできた指揮官のサッカー哲学が垣間見えた。

 もともと藤田監督はそれほどテクニカルエリアに出てくるタイプではない印象だが、今季は昨季以上にその回数が減っているようにも見える。「去年の3年生もそうでしたけど、今年もそこまで要求はしていないですね。前線の4枚(ワッド、戸田、吉原、市村健)とか福島や栗栖とか、そのあたりの去年から出ている選手たちが、自分が何かを言おうとしたタイミングで、その言おうとしていたことを言ってくれたりするので、それはもう逞しいなと思います」。そう話した指揮官は、続けてベンチでの一幕も笑いながら明かしてくれる。

「ベンチでスタッフと話していて、『こういうことを言おうか』と言っていたタイミングで、誰か選手がそれを言ってくれると、我々スタッフも『なんか、こういうことだよね。育成ってこういうことじゃん。座っとこ』って(笑)。そういうことが嬉しいんですよ」。

「僕は口癖のように『自分で考えろ』といつも言いますし、何でも言うことがその子のためではないと思っているので、少なからず選手によってヒントを与えるパーセンテージを変えていますけど、基本的には何でもかんでも自分で考えさせています。だから、ウォーミングアップも自分たちでさせていますし、そういう時に『どういう行動をしているのかな』とか『どういうアクションを起こしているのかな』というのを見ていますけど、選手たちは本当に去年の1年間でものすごく成長したと思います」。

 この世界で生き抜いていくための自主性を促す指揮官と、それを着実に身に付けつつある選手たち。そこに加わるのは3点獲られたら4点を、4点獲られたら5点を奪いに行く、超攻撃的な揺るがぬ意志。今シーズンの柏U-18も間違いなく面白い。

勝ち越しゴールを決めた吉原を祝福する柏U-18・藤田優人監督


(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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