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受け継がれるクラブとスタジアムの歴史と伝統。鹿島ユースは横浜FCユースに競り勝って聖地で5年ぶりのプレミア勝利を掴む!

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鹿島アントラーズユースは4試合目にして今季プレミア初勝利!

[4.27 プレミアリーグEAST第4節 鹿島ユース 2-1 横浜FCユース カシマ]

 タイムアップの瞬間。ピッチに立っていたユースの選手たちも、スタンドから声を嗄らして応援し続けたジュニアユースとジュニアの選手たちも、目の前で掴んだ勝利にとびきりの笑顔を弾けさせる。その舞台がカシマスタジアムだったのだから、それはこれ以上ないぐらい最高の景色だ。

「やっぱりユースの選手たちもこのスタジアムの舞台に立ちたいという想いでやっていますし、その選手たちがここでできる喜びと感謝の気持ちを持ちながらプレーしてくれたこと、あとはジュニアユースとジュニアの選手たちが応援に来てくれて良い雰囲気を作ってくれたことと、それに応えようとする選手たちがいた中で、非常にアントラーズらしい一体感の中で戦えたかなと思います」(鹿島ユース・柳澤敦監督)。

 アカデミーの総力で手にした、5年ぶりのプレミア勝利。27日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 EAST第4節で、鹿島アントラーズユース(茨城)と横浜FCユース(神奈川)が対峙した一戦は、鹿島ユースがMF福岡勇和(1年)とDF土橋竜之介(3年)のゴールで2点を先行。終盤には横浜FCユースもFW庄司啓太郎(3年)の得点で1点差に迫るも、鹿島ユースが2-1で逃げ切って今季のリーグ戦初白星をもぎ取っている。


「前半は良い入りができて、押し込めたと思います」とキャプテンのDF佐藤海宏(3年)が振り返ったように、序盤からホームチームの勢いが鋭い。4分には福岡を起点にMF平島大悟(1年)の右クロスに、FW吉田湊海(1年)が合わせたヘディングはわずかに枠の右へ逸れたものの、1年生トリオでビッグチャンスを。5分にもMF小笠原聖真(3年)のパスに抜け出したMF中川天蒼(2年)の左クロスから、平島が叩いたボレーはゴール左へ外れるも、いきなり2つの決定機を創り出す。

 すると、“3度目の正直”が実ったのは8分。左サイドを小笠原とのスムーズな連携で崩した中川が中央へ折り返し、吉田が丁寧に落としたボールに、「湊海がキープしてくれた時に、『自分がフリーだな』と思って『パス出せ!』と言ったら、良いところに出してくれました」という福岡が左足で打ち切ったシュートは、右スミのゴールネットへ飛び込む。「このスタジアムで決められるとは思っていなかったので、メッチャ嬉しいです!」と笑った1年生ボランチの先制弾。鹿島ユースが勢いそのままに1点をリードする。

「入りのところでちょっと付き合ってしまった部分と、周りが見えてない部分が多くあって、なかなか自分たちの主導権が握れない中で失点してしまったというところは反省ですね」と和田拓三監督も話した横浜FCユースは1点を追い掛ける展開の中、20分過ぎからは徐々に持ち味を発揮。中盤中央に入ったキャプテンマークを巻くMF高橋友矢(3年)とMF笹歩睦(3年)がリズムを作り、右のMF中台翔太(3年)、左のMF岩崎亮佑(2年)の両翼の仕掛けも積極的。23分には左サイドを庄司が切り裂き、FW前田勘太朗(2年)が放ったシュートは、鹿島ユースのMF大貫琉偉(1年)が身体でブロックしたものの好アタック。ややアウェイチームが盛り返しながら、前半は1-0で45分間が終了した。


 後半開始から2枚替えを決断した横浜FCユースは、6分に決定的なチャンス。右から中台がクロスを入れると、こぼれを収めたDF佃颯太(2年)は思い切りよくミドルにトライ。だが、軌道はクロスバーに跳ね返り、同点には至らない。

 以降もゲームリズムは、馬力のある庄司と前田の2トップや、途中出場でドリブルを繰り返したMF四日裕歩(1年)の推進力も生きた横浜FCユース。鹿島ユースは「なかなか前からのプレスがハマらない分、後ろに重くなってしまいましたね」と柳澤監督も口にした通り、守勢に回る時間が長くなっていく中で、チームに勇気をもたらしたのは「今日は『点を決めたいな』と思っていました」というセンターバックだった。

 19分。鹿島ユースが左サイドで獲得したCK。キッカーの中川が正確なボールを蹴り込むと、「練習から天蒼は良いボールを上げてくれるので、イメージ通りでした」という土橋が高い打点で叩いたヘディングがゴールを貫く。殊勲のスコアラーはそのままスタンド方向へと猛ダッシュ。「今日はジュニアユースとかジュニアとか、ユースの出られない人たちもメッチャ応援してくれたので、あそこで決められてみんなで喜べたので本当に良かったです」と笑顔を見せた背番号3の追加点。2-0。リードが広がる。



 だが、横浜FCユースも諦めない。36分。途中出場のFW谷田蓮都(3年)が低い位置でのピックアップから前方へフィード。巧みに収めた庄司のコントロールシュートは、右スミのゴールネットへ鮮やかに吸い込まれる。2-1。たちまち点差は1点に。アウェイチームも勝利への執念を前面に打ち出す。

「失点した時に時計を見たら80分ぐらいで、まずそこからの10分が長くて、もうワンプレーワンプレーが切れるごとに何度も何度も時計を見て、そのたびに『まだこれだけしか進んでないのか……』と思いました」(佐藤)「体感的にもメッチャ長くて、何度も時計を見て『早く終わらないかな……』と思っていたんですけど、みんなで声を掛け合って集中して守れたと思います」(土橋)。

 アディショナルタイムの4分が過ぎ去ると、タイムアップのホイッスルが鳴り響く。「みんなの勝ちたいという気持ちが非常に伝わったゲームかなと思います」(柳澤監督)。開幕から4試合目にして鹿島ユースが掴んだ、今シーズンの初勝利。試合後のスタジアムには選手とスタンドが一体になって奏でる、歓喜の歌声がこだました。


 この日のメインスタンドには、鹿島アカデミーのジュニアユースとジュニアの選手が応援に駆け付けていた。聞けば彼らは前日からピッチ上の“先輩”たちを勇気づけるために、どういう応援をするかを話し合い、試合当日を迎えていたという。

「ジュニアユースの子にも寮で一緒に生活している子がいるので、今日の朝から『頑張ってね』みたいな声を掛けられていて、ジュニアとジュニアユースが来ることは聞いていたので、『絶対に負けられないな』という気持ちはありました。アップの時から応援してくれたので、メッチャ気持ちも入りましたし、ありがたい応援でした」(土橋)「プレーしていても声が通らないぐらい応援が聞こえていましたし、最後になってくるにつれてあの応援が聞こえてくることで、また『頑張ろう』という気持ちが出たので、本当にありがたかったです」(福岡)。2人が口にした想いが、選手たちの共通認識であることは間違いない。

 ジュニアから鹿島でプレーしているキャプテンの佐藤は、「中学生の元気を感じました(笑)。自分は早い段階で足が攣っちゃったんですけど、応援があったから踏ん張れましたし、走れたと思うので、改めて応援の力を感じることができました」と笑顔を見せながら、自らの経験をこう話してくれた。

「自分も小さい頃はプレミアの試合の応援に来ていましたし、チームでの応援がなくても、時間がある時は試合を見に来たこともありました。そんな自分が憧れていた舞台に立って、今日見に来てくれた子たちと勝ちを掴み取って一緒に喜べたというのは本当に良かったですし、今日の試合を見に来てくれた子たちにとっても、自分たちのプレーが目標になって、憧れを持ってくれるのであれば嬉しいなと思います」。

 自身もクラブOBである鈴木修人アカデミーマネージャーの言葉も印象深い。「僕たちのアカデミーのセレクションには、他の関東のJクラブみたいに何百人もの子が集まるわけではなくて、本当にこのあたりの地域から『アントラーズでやりたい!』と思う子が来てくれるんです。だから、僕たちもそれこそスペインのバスク地方のように、この地域のそういう子たちを鍛えて、育てることで、アントラーズの力になってもらいたいんですよね」。

 かつて柳澤敦や小笠原満男、曽ケ端準といったレジェンドに憧れた世代は、彼らと一緒にカシマスタジアムのピッチに立ちたいと、このアカデミーの門を叩いた。そのあとは土居聖真や鈴木優磨のような、ユースからトップチームへと巣立った選手たちが明確な道標となることで、ああなりたいと願う子どもたちが、やはりこのクラブのエンブレムを背負ってきた。

 翻って、この日。左サイドを上下動し続ける佐藤海宏を見て、最後まで身体を張り続けるGK岸野瑛太(3年)やDF玉木亜門(3年)を見て、左足を巧みに操る小笠原聖真を見て、ゴールを決めて自分たちの元へ走ってきてくれた土橋竜之介を見て、ジュニアユースやジュニアの子たちが感じたものは、過不足なくクラブの財産になっていく。やはり鹿島アントラーズは、鹿島アントラーズ。カシマスタジアムは、やはりカシマスタジアムなのだ。

スタンドから声援を送り続けた鹿島ジュニアユースとジュニアの選手たち


選手たちもスタンドに感謝の拍手


(取材・文 土屋雅史)

●高円宮杯プレミアリーグ2024特集

土屋雅史
Text by 土屋雅史

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