beacon

「自信は大事。でも邪魔になることもある」パリ五輪メンバーGK野澤大志ブランドン、プロ2年目のJ1→J3で学んだこと

このエントリーをはてなブックマークに追加

GK野澤大志ブランドン

 プロキャリアをスタートさせた若手の多くは、出場機会を求めて移籍を経験する。そこで何を学べるか。GK野澤大志ブランドン(FC東京)はプロ2年目の夏から一年半の間、いわてグルージャ盛岡にレンタルされた。その場所で自身を見つめ直して成長。そして、今回パリオリンピックメンバーの一人になった。「ここまで来られるとは思っていなかった。岩手への移籍があって今がある。後悔は何ひとつないし、その時間に向き合ってきたからこその今」と振り返った。

 今季ここまでFC東京のゴールを守り続け、J1リーグ13試合に出場した。冷静なセービングでピンチを乗り越えるFC東京の守護神。そこにたどり着くまでには、多くの時間を要した。

 FC東京U-18所属時の2019年に2種登録でJ3デビューした。経験を積んだ翌20年にトップ昇格。しかしプロ初年度で公式戦出場はなく、21年夏に当時J3リーグだった岩手への期限付き移籍が決定した。岩手ではゴールを守る機会を獲得。J2昇格に貢献するも、昇格初年度には1年でのJ3降格も味わった。ピッチ内でいいことも悪いことも経験しながら、ピッチ外では内省する時間が増えた。

「つらい時期に自分と向き合う時間がすごく貴重だった。そういうつらい時間があったからこそ、さらに人として成長させてもらった」。いわてグルージャ盛岡というクラブの中で日常を過ごし、気づいたことも多い。「ひとつのコミュニティとして、みんなで働いていることがすごく素晴らしいことだと思った。多くの人に支えられていることで、自分一人で生きていけるなんてないんだなって。本当に感謝でいっぱいの時間」。一年半の期間をそう表現した。

 あきらめずに、前を向き続ける。成功した者はそうシンプルな答えを語る。ただ、野澤は行動することの難しさを知っているからこそ、言葉の奥底に秘めた意味を真剣に伝えようとしていた。

「(下位カテゴリーで)そういった時間を過ごしている選手に対して、ひとつでも励ましになったらいいと思うけど……でも言葉で言うのは簡単なこと。なんて声をかけたらいいかわからないけど、それでも生き方を見てもらって、感じてもらうものもあると思う」

「いろんな人と話して、自分一人で生きているんじゃないんだなって思ったときに、本当に当たり前の日常生活のところ、小さなことからでも感謝の気持ちとか謙虚さが出てくる。おれならやれるとか、そういう自信ってすごく大事だと思う。だけど傲慢になったり、ひとつでも自分なら大丈夫だろうとか、そういったものが邪魔になることもある」

「僕が言えることは、やっぱりその瞬間瞬間に無駄なことは何ひとつないということ。そこにしっかり向き合って、つらくても前に進み続ける。前に進むのは簡単ではないし、つらいことは絶対にある。それでも進み続けるということは、あとでサッカー以外のところでも本当に宝になる」

 パリ五輪メンバーとなり、再び正守護神の座をかけた争いが始まった。それでも野澤は「いろんな人がいるけど、僕自身はチームが勝つことが一番」と強調。「チームの中での立場を自分自身理解することも大切」。GK小久保玲央ブライアンとの序列を自分なりに咀嚼しているようだ。

「小久保選手がこのチームを助けてきたし、この大会でも絶対そういう存在になる。僕は陰で支える存在に落ち着いていいわけではないが、それも理解している。自分が出たらもちろんチームを勝たせる存在でいるように、いつも準備している。だけど同時にチームメイトが本当に最大限の力を出せるために関われるようにしていきたい。それはそっとしておくことも一つかもしれないし、前向きな声掛けもそう。あるいは何かアクシデントが起きたときにも、僕らがチームであることをわからせてあげることとか、いろいろあるけど、チームとして勝っていくことが一番必要だと思う」

 たった1枠しかないGKだからこそ、正守護神にアクシデントがあったとき、出番が真っ先に来るのはセカンドGKだ。「いきなりパッと出て、パッと結果を出すことは難しいこと。でも僕も今まで経験していることなので、プレーはできると思っている」。プレーヤーとして、けっしてサポートに甘んじているわけではない。「出たときには絶対に勝たせる存在でいたい」とその矜持を垣間見せた。

 一言一言をしっかり伝えようとしていた。長時間を話し終えたときも「慎重に言葉を選んでしまって……すみません」と謙虚だ。それでも少しばかりテンションは高め。「やっぱりサッカー好きなんで。そこに関してはめちゃめちゃワクワクしています。オーバーエイジはあるけど、23歳以下で入れるのは一生に一回なので」。今はただ、たどり着いた大舞台を全力で楽しむつもりのようだ。

(取材・文 石川祐介)

●パリオリンピック(パリ五輪)特集(サッカー)
石川祐介
Text by 石川祐介

「ゲキサカ」ショート動画

TOP