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ユース同期2人のU23アジア制覇に東京V松橋優安「大きな刺激。悔しさもある」J1初挑戦で際立つ献身も「この状況に満足してはいけない」

東京ヴェルディMF松橋優安(写真中央)

[5.15 J1第14節 東京V 0-0 G大阪 味スタ]

 一時はJ3リーグでの武者修行も経験したアカデミー出身の22歳が今季、東京ヴェルディにとって16年ぶりの復帰となったJ1の舞台で着実に足跡を刻んでいる。U-23日本代表をアジア制覇に導いたMF藤田譲瑠チマ、MF山本理仁はアカデミー時代の同期。先を走る盟友からも大きな刺激を受けつつ、同期で唯一クラブに残った存在として、J1での躍進に導いていくつもりだ。

 2001年生まれのMF松橋優安はトップチーム昇格6年目の今季、J1第3節・C大阪戦で途中出場し、待望のJ1デビューを達成。第5節・京都戦で初先発のチャンスを獲得すると、その後も出場機会を重ね、第11節・鳥栖戦(◯2-0)では終了間際にJ1初ゴールを記録するなど、昇格1年目にして直近11試合負けなしを続けるチームで一定の存在感を放っている。

 そんな充実した日々を過ごしているように思える22歳だが、これまでのプロキャリアは決して順調なものではなかった。

 コロナ禍の20年にトップチームに昇格し、初年度はJ2リーグ戦18試合、2年目の前半戦は11試合に出場したが、出番は大半が途中出場。同年後半戦には出場時間を伸ばすべく、SC相模原に期限付き移籍したが、そこで無念の降格を喫し、引き続き在籍した翌年はJ3でのプレーを余儀なくされた。また昨季はレノファ山口FCで武者修行を続けたが、先発は4試合のみ。途中出場を含めても17試合の出場にとどまっていた。

 今季は4年ぶりの東京V復帰を果たし、自身初のJ1所属とはなったものの、開幕前のメンバー構想には食い込むことができず、苦しい日々を送った。トレーニングから懸命にアピールした結果、負傷者や世代別代表招集、連戦などさまざまな要因もあり、出場機会が巡ってくる形となったが、現状を「シーズン最初の自分からしたら僕がこの立ち位置にいるのは考えられないこと」と謙虚に受け止めている立場だ。

 もっともそうしたチャンスを掴むための準備、またチャンスを活かすための準備は続けてきた自負があった。ユース時代は背番号10を任され、世代別代表にも選ばれていた逸材にとって、プロ入り後に初めて迎えた挫折は苦難そのもの。ただそうした中、期限付き移籍先で直面したベテラン選手の振る舞いが前向きな刺激を与えてくれていたのだという。

「ユースまではずっと試合に関わらせてもらってきた中でトップ昇格して、レンタル先でもなかなか出られない状況が続いて、自分はプロになってから苦しい思いをしてきたタイプだと思う。でも試合に出られない中での過ごし方は意識してきたし、特に同じ状況にいる先輩たちの背中を見て学んで、自分の中に吸収して活かせたのが大きかったと思います」

「どの選手からというわけではないけど、相模原は特にベテランの選手が多く、最終的にはそのまま引退することになった選手もいたけど、そういった人たちも最後までサッカーと向き合っていたし、サッカーに対する準備をしている姿を見てきた。そこは今の自分も意識しているところです」

 試合中の姿勢からも、その言葉に表れているような献身性が際立っている。今節・G大阪戦では連戦の影響もあり、今季2度目となる先発に抜擢されたが、立ち上がりから前線のハイプレッシングと執念のプレスバックで奮闘。自陣深くまで戻って失点につながりかねないピンチを防いだ場面もあった。

「チームとして前半から飛ばして、力尽きる選手が出てきて欲しいと城福さん(城福浩監督)の話もあったので、スタメンで使われたからにはそういったプレーを見せていこうという意識で入った。連戦というのもあったし、全員の力が必要になると思っていた。チームとしてバトンをつなぐことを意識していた」

「今年に入って守備の意識はすごく上がっているし、前線の選手でもゴール前に戻って守備をするのは当たり前だと思っている。前線からの守備は本当に意識していたし、奪われた瞬間の切り替えだったり、相手のCBとSBに好きにプレーさせないことを意識していた。チームとしても前線の選手がそういう意識でプレーし続ければ後ろの選手もついてくる」

 結果的には前半45分間のみのプレータイムにとどまったが、その前半はG大阪をシュート1本に抑え込んだのに対し、後半からはやや押し込まれる場面が増加。「与えられた時間で自分の力を全力で出し切ろうと意識して入った」という松橋の献身的な姿勢が前半優勢の内容の一つの要因になっていたと言える。

 もっとも松橋は「前半からああいう勢いを見せていくのはこれからも続けていきたい」と自身の姿勢については前向きに振り返りつつも、全体的なパフォーマンスについては「この状況に満足してはいけない。まだ甘い部分があると思うので、そこを突き詰めていきたい」と厳しさを込めて語る。

 課題の一つに挙げたのは得意の攻撃面だ。「守備はだいぶ自分のところで根付いてきて、意識がだんだん強くなってきていると思うけど、そこはおろそかにせずにいつつも、やっぱり攻撃でもうちょっとゴール前に関わるプレーとか、前線の選手とのコンビネーションでチャンスに顔を出せるようにしていきたい」とレベルアップを誓った。

 そうした向上心は藤田、山本だけでなく、DF馬場晴也(札幌)、MF石浦大雅(愛媛)といったJリーグで活躍する同期の存在によってもかきたてられている。

「同期の活躍は大きな刺激になっています。今年は大雅も点を取っているし、僕がJ1初ゴールを決めた後にも晴也が札幌で決めていた。そして譲瑠と理仁はアジアを制している。2人に対しては晴也も、大雅も、僕も悔しさがあるし、もっと切磋琢磨しながらやっていきたいという気持ちがあります」

 5人の中でいまも東京Vに残っているのは松橋のみ。「移籍した間もずっと心のどこかにはヴェルディで試合に出て活躍したいという思いがあった。実際にこうしてピッチに立って、ヴェルディのためにプレーできるのはありがたいことだし、4人は違うチームなので、自分が育ったチームで活躍できる、恩返しできる機会があるのは今年すごくありがたいこと」。育ったクラブを背負う重みも感じながら、真摯に日々を過ごしているようだ。

 東京Vは今季、第4節・新潟戦から直近11試合負けなしを続けており、ここまでの敗戦はリーグ最少タイの2敗のみと、昇格1年目のチームとしては上々の好成績を挙げている。それでも松橋の目線はさらに高みにある。

「昇格1年目で負けていない試合が続いているというのは見え方的にはいいかもしれないけど、引き分けも多いし、勝てた試合も何試合もある。どこかまだJ1を戦う上で、個人としてもチームとしてもまだ足りないし、少し甘さがあるのかなと感じている。そこをチーム全体で乗り越えていった先に勝ち点3を積み重ねられたり、上位に食い込めたりすると思う。負けていないことはプラスに捉えつつも、できれば勝ちながら修正できるようにしていきたい」

 着実に出場時間を伸ばしている自身の現状も、負けなしが続いているチームの現状も、一つの通過点。さらなる快進撃に導くべく、より中心的な働きを担っていく構えだ。

(取材・文 竹内達也)

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Text by 竹内達也

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