大学在学中に横浜FMプロ契約も直面した現実…「ゼロから」奮起したGK木村凌也が415人→67032人リバプール戦でデビュー「あの景色は一生忘れずにいたい」
リバプール相手にプロデビューを果たしたGK
[7.30 国際親善試合 横浜FM 1-3 リバプール 日産ス]
大学卒業を待たずに飛び込んだプロの世界、どん底の立場から必死で掴み取ったデビュー戦は、かつて想像もできなかったような大きな舞台だった。対戦相手は世界を代表する選手がずらりと並ぶプレミアリーグ王者のリバプール。日産スタジアムにはJリーグ主催試合最多のとなる6万7千人超の大観衆。横浜F・マリノスのGK木村凌也は数多くの人々の記憶にもきっと残るであろう歴史的な華試合で、静かに第一歩を踏み出した。
「緊張はしたんですけど、思ったより普通にできました。こんなに多くの観客がいる中でデビュー戦をすることはなかなかないだろうし、リバプールとできるなんてあんまり……、あんまりどころかなかなかない経験だったので、本当にすごく良かったなと思います。日産スタジアムがほぼほぼ埋まっているというのは見たことのない景色で、あの景色は一生忘れずにいたいですし、これからに活かしていきたいなと思います」


0-0で終えた前半をベンチで見守った後、ハーフタイム明けからピッチに立った。ルーキーイヤーの今季は出場機会がなく、最後に公式戦のゴールマウスを守ったのは昨年12月22日のインカレ準々決勝・新潟医療福祉大戦(●1-2)。あの日、日本大の守護神として415人の観衆を前に立っていた22歳のGKが、67032人の大観衆に囲まれながら世界有数のビッグクラブに立ち向かった。
「やっぱり大学の応援には比にならない声量で。自分のコーチングも周りの声も聞こえない中で、どう伝えていくか難しいなと感じましたし、その中でもやっていけないんだなというのを感じました」
そんな緊迫感のなかでも横浜FMは勢いよく後半に入り、後半10分に先制に成功。ところが同15分、MF遠藤航の凱旋投入でスタジアムが大きく沸き立つなか、リバプールの激しい猛攻を浴びる形となった。
結果は3失点。鋭いカウンターからのパスワークをMFフロリアン・ビルツに沈められた後半17分の1失点目、DFジェレミー・フリンポンからのワールドクラスなクロスをMFトレイ・ナイオニに押し込まれた同23分の2失点目、恐るべき16歳FWリオ・ングモハの個人技に屈した同42分の3失点目と、いずれも質の高い攻撃だったが、木村は「個人個人の能力をもっと上げていかないといけない」という現実に向き合った。


それでも木村のサッカーキャリアにおいては、紛れもなく大きな一歩となった。それはリバプールとの親善試合という舞台装置のおかげではない。ここまで苦しかった半年間の日々を思えば、日の目を浴びるピッチに立てたこと、そして実践で浮かび上がった課題と向き合えることが何より貴重なものだった。
「このシーズンが始まってから、キャンプから最初の数カ月は自分の力のなさを実感してばかりで。トレーニングでテツさん(榎本哲也コーチ)、シゲさん(松永成立コーチ)から言われていることが多々あったなかで、半年経ってできる部分が多くなっていると感じていた。それをここまで試合でそれを発揮する場所がなかったなかで、こうして45分間だったけど、半年間トレーニングを積み重ねてきたものをまずは出そう、発揮できるようにしていこうと思っていた。それがたまたまリバプールだったというだけで、どの相手にも変わりなかった。もちろんそれがリバプール相手だったのはすごく良かったなと思います(笑)」
神奈川県横須賀市出身の木村は小学生時代から横浜FMのアカデミーで育ち、世代別の日本代表でゴールを守ってきた22歳のGK。高校卒業時にはトップチーム昇格を逃したものの、進学先の日本大で1年次から正GKを任されると、U-20日本代表でもU-20W杯出場などの実績を重ね、大学4年時を前に横浜FMとのプロ契約を掴み取った。
並ならぬ覚悟を持って決断した“早期プロ入り”。しかし、その壁は想像していた以上に高かった。
今季の横浜FMは昨季から在籍していた飯倉大樹、ポープ・ウィリアム(今夏、湘南に移籍)に加え、朴一圭も新たに加入し、J1リーグで豊富な実績を持つGKを3人抱える異例の“飽和状態”。J1リーグ戦で苦しい戦いが続いていたこともあり、AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)や国内カップ戦との連戦の中でも、出場機会はなかなか巡ってこなかった。
木村にとって何より苦しかったのは、出場機会が与えられなかったことではなく、経験豊富なGK陣との間に立ちはだかる厳然たる実力差だった。
「大学で3年間やってきて、もちろん開幕から試合に絡んでいくんだという自信はありました。でもいざパッと入ってキャンプが始まって、そこで崩れてしまった。これまでやってきたものが何だったんだろうというくらい、シゲさんやテツさんにアドバイスをしてもらうなかで、こんなに足りなかったんだというのが素直に思ったことでした。そこで自分の足りなさもそうだし、パギくん、大樹くん、ポープくんの3人と比べた時にこんなに違うんだということを一番感じて、キャンプが始まってから2か月、3か月くらいは本当にどうしたらいいんだろうというのを感じていました」
木村の言葉を借りれば、GKとして「ゼロから」の日々だったという。
「キーパーというポジションなので本当にいろいろなことがあるんですが、ステップ一つだったり、構え方だったり、セービングの仕方だったり、キャッチングだったり、大学までにあまり言われたことがなかったことを言われた時にどうすればいいの?と思ったことも正直あって、いまこうだったの分かる?と言われても、なんでそうなるんだろうって。だからもう“ゼロから始める”くらいのイメージでした」
「練習でもテツさんがミドルシュートを打ってくれるんですけど、最初の時はまず取れないんですよ。ステップも踏めていなくて。でも他の3人はバンバン止めている。今では簡単だろうと思えるようなコースでもポンポン入っていたり、キャッチでもめちゃめちゃこぼしていたり、それは上体が浮いていたり、いろいろと言われていたなかで基礎の部分ができていなかったんだなと感じていました」
そこからはGKコーチからのアドバイスを受け止め、自らの身体に感覚を刻み込む日々が続いた。
「とにかくまずは言われたことを意識して、それを身につけていく、覚えさせていくという作業でしたね。練習自体もキツかったし、その中でも言われるしで、どうしたらいいんだろうと悩んだ時期もめちゃめちゃあったんですが、基礎の部分ができていなかったのでやろうと。これだけ練習やっていれば上手くなるよなという練習ばっかりやってるんで、プロに来て良かったなと思っています」
そうして迎えたのがリバプールとのデビュー戦だった。GKとして3失点という結果は重く受け止めており、半年間の成果を出せた場面は「正直あまりない」と木村。「3失点ともに難しい場面ではあったけど、その前で連係して防げた部分もあるし、自分個人で防げた部分もあったと思う。(これまでの積み重ねを)発揮できたかというと発揮できていないのかなと思う」と厳しく振り返っていた。


それでもングモハのカットインシュートを身を挺して止めるビッグセーブや、持ち味である質の高い配球を見せるシーンもあったのも事実。これまで半年間で実感してきた成長は、厳しい残留争いが続いているJ1リーグ戦や国内カップ戦で示していく構えだ。
「この半年間、自分でも自信が持てるくらいに成長はしてきている実感があるので、これまでは試合に出られていない状況があったなか、試合を重ねていけばできるという自信はある。いまは今日の経験もそうだし、積み上げてきたものはこの半年間だけでもあると思うので、次は公式戦、リーグ戦で出していければなと思います」。プロ1年目の大学4年生、木村凌也のルーキーイヤーはここからが始まる。
(取材・文 竹内達也)
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大学卒業を待たずに飛び込んだプロの世界、どん底の立場から必死で掴み取ったデビュー戦は、かつて想像もできなかったような大きな舞台だった。対戦相手は世界を代表する選手がずらりと並ぶプレミアリーグ王者のリバプール。日産スタジアムにはJリーグ主催試合最多のとなる6万7千人超の大観衆。横浜F・マリノスのGK木村凌也は数多くの人々の記憶にもきっと残るであろう歴史的な華試合で、静かに第一歩を踏み出した。
「緊張はしたんですけど、思ったより普通にできました。こんなに多くの観客がいる中でデビュー戦をすることはなかなかないだろうし、リバプールとできるなんてあんまり……、あんまりどころかなかなかない経験だったので、本当にすごく良かったなと思います。日産スタジアムがほぼほぼ埋まっているというのは見たことのない景色で、あの景色は一生忘れずにいたいですし、これからに活かしていきたいなと思います」


67032人の大観衆が詰めかけた一戦
0-0で終えた前半をベンチで見守った後、ハーフタイム明けからピッチに立った。ルーキーイヤーの今季は出場機会がなく、最後に公式戦のゴールマウスを守ったのは昨年12月22日のインカレ準々決勝・新潟医療福祉大戦(●1-2)。あの日、日本大の守護神として415人の観衆を前に立っていた22歳のGKが、67032人の大観衆に囲まれながら世界有数のビッグクラブに立ち向かった。
「やっぱり大学の応援には比にならない声量で。自分のコーチングも周りの声も聞こえない中で、どう伝えていくか難しいなと感じましたし、その中でもやっていけないんだなというのを感じました」
そんな緊迫感のなかでも横浜FMは勢いよく後半に入り、後半10分に先制に成功。ところが同15分、MF遠藤航の凱旋投入でスタジアムが大きく沸き立つなか、リバプールの激しい猛攻を浴びる形となった。
結果は3失点。鋭いカウンターからのパスワークをMFフロリアン・ビルツに沈められた後半17分の1失点目、DFジェレミー・フリンポンからのワールドクラスなクロスをMFトレイ・ナイオニに押し込まれた同23分の2失点目、恐るべき16歳FWリオ・ングモハの個人技に屈した同42分の3失点目と、いずれも質の高い攻撃だったが、木村は「個人個人の能力をもっと上げていかないといけない」という現実に向き合った。


「大学では感じられなかったレベルで、プロでもまだ感じたことのなかった」(木村)という2失点目
それでも木村のサッカーキャリアにおいては、紛れもなく大きな一歩となった。それはリバプールとの親善試合という舞台装置のおかげではない。ここまで苦しかった半年間の日々を思えば、日の目を浴びるピッチに立てたこと、そして実践で浮かび上がった課題と向き合えることが何より貴重なものだった。
「このシーズンが始まってから、キャンプから最初の数カ月は自分の力のなさを実感してばかりで。トレーニングでテツさん(榎本哲也コーチ)、シゲさん(松永成立コーチ)から言われていることが多々あったなかで、半年経ってできる部分が多くなっていると感じていた。それをここまで試合でそれを発揮する場所がなかったなかで、こうして45分間だったけど、半年間トレーニングを積み重ねてきたものをまずは出そう、発揮できるようにしていこうと思っていた。それがたまたまリバプールだったというだけで、どの相手にも変わりなかった。もちろんそれがリバプール相手だったのはすごく良かったなと思います(笑)」
神奈川県横須賀市出身の木村は小学生時代から横浜FMのアカデミーで育ち、世代別の日本代表でゴールを守ってきた22歳のGK。高校卒業時にはトップチーム昇格を逃したものの、進学先の日本大で1年次から正GKを任されると、U-20日本代表でもU-20W杯出場などの実績を重ね、大学4年時を前に横浜FMとのプロ契約を掴み取った。
並ならぬ覚悟を持って決断した“早期プロ入り”。しかし、その壁は想像していた以上に高かった。
今季の横浜FMは昨季から在籍していた飯倉大樹、ポープ・ウィリアム(今夏、湘南に移籍)に加え、朴一圭も新たに加入し、J1リーグで豊富な実績を持つGKを3人抱える異例の“飽和状態”。J1リーグ戦で苦しい戦いが続いていたこともあり、AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)や国内カップ戦との連戦の中でも、出場機会はなかなか巡ってこなかった。
木村にとって何より苦しかったのは、出場機会が与えられなかったことではなく、経験豊富なGK陣との間に立ちはだかる厳然たる実力差だった。
「大学で3年間やってきて、もちろん開幕から試合に絡んでいくんだという自信はありました。でもいざパッと入ってキャンプが始まって、そこで崩れてしまった。これまでやってきたものが何だったんだろうというくらい、シゲさんやテツさんにアドバイスをしてもらうなかで、こんなに足りなかったんだというのが素直に思ったことでした。そこで自分の足りなさもそうだし、パギくん、大樹くん、ポープくんの3人と比べた時にこんなに違うんだということを一番感じて、キャンプが始まってから2か月、3か月くらいは本当にどうしたらいいんだろうというのを感じていました」
木村の言葉を借りれば、GKとして「ゼロから」の日々だったという。
「キーパーというポジションなので本当にいろいろなことがあるんですが、ステップ一つだったり、構え方だったり、セービングの仕方だったり、キャッチングだったり、大学までにあまり言われたことがなかったことを言われた時にどうすればいいの?と思ったことも正直あって、いまこうだったの分かる?と言われても、なんでそうなるんだろうって。だからもう“ゼロから始める”くらいのイメージでした」
「練習でもテツさんがミドルシュートを打ってくれるんですけど、最初の時はまず取れないんですよ。ステップも踏めていなくて。でも他の3人はバンバン止めている。今では簡単だろうと思えるようなコースでもポンポン入っていたり、キャッチでもめちゃめちゃこぼしていたり、それは上体が浮いていたり、いろいろと言われていたなかで基礎の部分ができていなかったんだなと感じていました」
そこからはGKコーチからのアドバイスを受け止め、自らの身体に感覚を刻み込む日々が続いた。
「とにかくまずは言われたことを意識して、それを身につけていく、覚えさせていくという作業でしたね。練習自体もキツかったし、その中でも言われるしで、どうしたらいいんだろうと悩んだ時期もめちゃめちゃあったんですが、基礎の部分ができていなかったのでやろうと。これだけ練習やっていれば上手くなるよなという練習ばっかりやってるんで、プロに来て良かったなと思っています」
そうして迎えたのがリバプールとのデビュー戦だった。GKとして3失点という結果は重く受け止めており、半年間の成果を出せた場面は「正直あまりない」と木村。「3失点ともに難しい場面ではあったけど、その前で連係して防げた部分もあるし、自分個人で防げた部分もあったと思う。(これまでの積み重ねを)発揮できたかというと発揮できていないのかなと思う」と厳しく振り返っていた。


それでもングモハのカットインシュートを身を挺して止めるビッグセーブや、持ち味である質の高い配球を見せるシーンもあったのも事実。これまで半年間で実感してきた成長は、厳しい残留争いが続いているJ1リーグ戦や国内カップ戦で示していく構えだ。
「この半年間、自分でも自信が持てるくらいに成長はしてきている実感があるので、これまでは試合に出られていない状況があったなか、試合を重ねていけばできるという自信はある。いまは今日の経験もそうだし、積み上げてきたものはこの半年間だけでもあると思うので、次は公式戦、リーグ戦で出していければなと思います」。プロ1年目の大学4年生、木村凌也のルーキーイヤーはここからが始まる。
(取材・文 竹内達也)
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