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プレッシャーを結束に変えたなでしこ、“らしさ”取り戻し準決勝へ

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[8.3 ロンドン五輪準々決勝 日本2-0ブラジル カーディフ]

 原点に立ち返った。2大会連続のベスト4。日本女子代表(なでしこジャパン)が悲願のメダルへ王手をかけた。ブラジルの攻勢に押し込まれ、耐えて我慢して手にした勝利。思うようにパスをつなげず、ゴールは素早いリスタートとカウンターから。きれいな勝ち方ではなかったが、そんな泥臭い勝利に選手たちは胸を張る。「これがなでしこらしさ」。彼女たちは一様に声をそろえた。

「最後の最後まで勝とうという意識で、我々の方がまさっていた。我々が(準決勝の行われる)ウェンブリーに行くべきだと思っている」。試合後の記者会見。「ブラジルの監督が『日本は守備的で、ブラジルが勝つべきだった』と話していたが?」と聞かれた佐々木則夫監督はそう力説した。

 昨年の女子W杯で世界一に輝き、世界女王として臨んだロンドン五輪。周囲は、小気味いいパス回しや攻守に連動した躍動感のあるサッカーを期待する。それも一つのなでしこらしさであり、目指すべきスタイルでもあるが、理想だけで勝てるほど現実は甘くない。優勝した女子W杯でも、準々決勝のドイツ戦や決勝のアメリカ戦は劣勢に耐え、たとえ失点しても驚異的な粘りで追いつき、ぎりぎりのところで勝利をもぎ取ってきた。

 MF阪口夢穂が「ポゼッションサッカーより、今日みたいなゲームの方がなでしこらしいと思う。みんなで体を張って。基本的にこのチームは守備からなので」と淡々と言えば、DF鮫島彩は「きれいなパスサッカーもなでしこらしさだとは思うけど、根本は気持ちの面だと思う。『これだな』と、今日はやっていても思った」と力を込める。

「みんなの一体感は、今日の試合でさらに増したと思う。試合の中でも、今までのグループリーグとは雰囲気の違うチームだった」。鮫島はそう指摘する。そのきっかけの一つになったのが、グループリーグ最終戦の南アフリカ戦(0-0)だったかもしれない。指揮官が試合終盤、2位でグループリーグを突破するために0-0のまま終わらせるよう選手に指示を出したことは、さまざまな議論も呼んだ。

 準々決勝では絶対に負けられない。選手たちへのプレッシャーが強まったのは確かだ。FW大野忍は「話し合いもたくさんしたし、どうやりたいか、どうしたいか。悩みもした」と言う。しかし、指揮官が「あの勝ち点1が、この試合に対してのモチベーションにはなっていたと思う」と振り返ったように、選手は重圧を感じながらも、それを力に変え、さらに結束を強めた。

 阪口は言う。「監督一人だけに背負わせるわけにはいかない。そういう気持ちはみんなあると思う。サッカーは自分たちにしかできない。南アフリカ戦を無駄にしたくないという気持ちは強かった」。南アフリカ戦後、「責任は僕にある。選手に指示をして、やらせたのは僕」と選手をかばった佐々木監督。そんな指揮官の思いに応えたい選手。結果で証明する。そのために、チームは一丸となった。

 初のメダルを懸けた準決勝の相手はフランスだ。五輪直前の親善試合では0-2の完敗を喫している。だが、当時とはチームの状況がまるで違う。「あのとき負けたことで、リベンジしたいという気持ちに火も付いている」と話すDF岩清水梓は「(連戦で)こういう疲れた中でどれだけがんばれるか。がんばれるのは日本だと思う」と言った。金メダルまで、あと2勝。“らしさ”を取り戻した今のなでしこには、どんな逆境にも屈しない本物の強さがある。

(取材・文 西山紘平)

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