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[MOM1023]大阪体育大FW古山兼悟(4年)_「プロに行ったらもっと泥臭く」C大阪内定エース、全国初ゴールは規格外の逆回転弾「恩師の前で決められて良かった」

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ゴール後、高校からの盟友MF山田和樹と抱き合うFW古山兼悟(4年=立正大淞南高)

[大学サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.18 インカレ決勝ラウンド第3節 東海学園大 0-2 大阪体育大 ミクスタ]

 グループリーグ制が新たに導入された今大会で開幕2試合ノーゴールの大阪体育大だったが、不発のエースがこのまま黙っているはずはなかった。

「1戦目、2戦目はチームが(失点)ゼロで抑えて、あと1点取れたらというところで取れずチームに貢献できていなかった。それじゃダメだと思っていたし、今日はもうボールを持ったら思いっきし振り切ろうと思ってました」。勝たなければ引退の大一番。FW古山兼悟(4年=立正大淞南高/C大阪内定)がその瞬間を迎えたのは0-0の前半18分だった。

 FW中津悠哉(3年=福井商業高)からの縦パスをペナルティエリア左で受け、鋭いターンで前を向くと、角度がないなかでも右足を一閃。「最初は一瞬パッと巻こうと思ったけど、それで外れたら嫌やなと。思いっきし振ろうと思った」。力強く放ったシュートは逆回転し、鋭く右に曲がりながら枠内へ。規格外の軌道にGKも反応できず、そのままファーポスト脇に突き刺さった。

 入学当初からAチームのメンバー入りを掴んだ古山だが、全国出場は1年夏の総理大臣杯以来の悲願。3年前は1回戦の終盤のみの出場に終わっており、これが記念すべき大学全国初ゴールだった。あえてゴールから遠ざかったことで、幅広いシュートレンジを活かした一撃。本来は「正直ゴール前で駆け引きだけをしたほうが点を取りやすい」という考えもあったが、総理大臣杯の出場を逃した最後の夏が大きな転機になっていたという。

「警戒されているのは感じていたし、今でも自分が走り出せば相手が絶対についてくる感覚はある。でも逆に言えば他の選手が空くんで。囮でもなんでもチームのためになるんやったらやろうというのを夏に総理大臣杯に出れなかった時に決めた。だから結果が出て良かったです」(古山)

 その夏場には、冬に奮起を遂げるべく「3日間の走り合宿」という過酷な練習も経験した。「本当にキツかったし、正直あの時はなんやねんって思う時もあったけど、いまはあの過去があったから今があると感謝してますね。みんなで乗り越えたあの瞬間、『走り合宿終わった〜』ってなったあの瞬間、あの時のみんなの団結が今につながっていると思います」。ともに厳しい鍛錬を乗り越えてきた連帯感が、チームを背負う気持ちにもつながっているようだ。

 そうして胸に刻んだ献身的な姿勢は、勝利を決定づけるビッグプレーとしても表れた。前半30分、自陣でプレッシャーを受けたGK野村寛礼(1年=藤枝明誠高)のキックに対し、大きく左に流れてサポートすると、振り向きざまに前線へ浮き球パスを配球。これに抜け出したFW西山隼矢(2年=清水桜が丘高)がファウルを誘い、相手DFを一発退場に追い込んだ。

「相方の西山がとにかく速いやつなんで、置いといてあげれば行ってくれる。うまいこと流せてよかった」。ゴール前の駆け引き以外のプレーにはいまでも「正直上のレベルでやるにはまだまだ足りないレベル」という控えめな自己評価を下すが、チームはこの数的優位を活かして後半に2点目を奪っており、古山の働きは極めて大きかった。

 そんな古山にとってこの一戦での活躍は、ただの勝ち点3だけではないもう一つ大きな意味があった。

 この日、ミクニワールドスタジアム北九州のスタンドには立正大淞南高時代の恩師である南健司監督が吉岡幹朗コーチとともに来場。古山が同高で最終学年を過ごした2020年はコロナ禍の真っただ中。サッカー部寮のクラスター発生で誹謗中傷に晒されたつらい記憶もあり、恩師とともにその日々を乗り越えた強さがいまの自分を支えているという自負がある。

「つらかったですね、あの時期は……。でもそこでサポートしてくれたのも南先生やったり、関係者の皆さんだった。(大阪体育大でチームメートの)山田和樹もキャプテンとして頑張ってくれていたし、あれで精神的に強くなったのはありますね」。その感謝も胸に臨んだ一戦。そこでのゴールに「見にきてもらった時はエグいシュートを決めるのが続いてるんで、今日も恩師の前で決められて良かったです」と胸を張った。

 また古山のゴールの直後には、7年来の付き合いとなる山田が真っ先に飛び込んできたのも印象的なシーンだった。「かわいいっすね。アイツかわいいっす」。照れ笑いを見せた古山だが、山田は今季後期までAチームでの出場機会を得られなかったという苦労人。最後のインカレでは前節・筑波大戦で山田が先発抜擢もあり、共演が実現している中、格別な思いは隠せない。

「うれしいですね。でも僕はできる選手だって知ってたんで。早く上がってこいよと。アイツも黙々と練習してたんで、ここでやっと上がってきたなと。お互いやってほしいこともわかってるし、コイツならここまでできるのもわかってるんで、いい関係性かなと思います」(古山)

 筑波大戦後に山田が取材で口にした「もともと高校では全然ぶつかり合ってたんですけど、いまは自分が大人になったというか、アイツを抑える役目を任されてます」というコメントには「記事読んだんですけど、ホンマにええように言ってますけどね(笑)」という指摘も忘れた古山だったが、「サポートしてくれてるおかげで自分が熱く行ける部分もあります」と感謝も口にした。

 そんな古山は大学卒業後、J1のセレッソ大阪に加入することが決まっており、プロサッカー選手としての生活をスタートさせる。ピッチ上で誰の目にも分かるような熱さ、そして泥臭さを表現するパーソナリティはプロの世界でも大事な素質。長居のサポーターにもきっと愛される選手になれるはずだ。

「嫌われたら僕はもう終わりなんで(笑)。パスも出てこなかったら終わりだし、そこはずっと大事にしているところですね。チームメートとの関係も大事だし、サポーターも。人との関係は大事にしていきたいなと思っています」(古山)

 そうしてピッチ上で醸し出す華やかさには「自分では華のある選手だとは思っていないし、華があるように仕立ててくれるのもチームメートの協力があってこそ。おかげで気持ちのいい環境でやれているし、その感謝は忘れてはいけない」と謙虚に話す古山。それどころか「プロに行ったらもっと泥臭くやっていかないと続かないと思うんで、そこだけは忘れずにやっていきたいなと思います」と冷静に語る。

 たしかにその言葉どおり、J1のストライカーとなると厳しい競争が待ち受けているのは想像に難くない。それでも厳しい環境は覚悟の上だ。「試合に出られへんくらいの覚悟はあるけど、でも下からコツコツやっていくのは淞南時代からやってきたんで。コツコツ、コツコツやって、パッと出た試合で今日みたいなシュートを決める。泥臭いゴールでも決められたらどんどん道は広がっていくんじゃないかなと思います」。これまで大事にしてきた姿勢を貫き、プロでの活躍を広げていくつもりだ。

 まずは目の前の大学サッカーで弾みをつけたいところ。「自分自身ほとんど初めての全国大会。でも夏の苦しい時期、僕らをシゴきまくってくれた松尾元太監督を日本一にするためにもあと3戦、チーム体大全員で戦っていきたいなと。とにかく松尾元太監督を日本一にしたいなと思います」。プロは結果の世界。その覚悟を先取りするかのように、体大の絶対的エースはタイトルにこだわり、残りの3試合を戦い抜く。

(取材・文 竹内達也)

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竹内達也
Text by 竹内達也

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