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全勝首位破ったいわきFC、リスク覚悟の3枚替え→18歳中野陽斗WB起用で示した育成と勝利の両立志向…田村雄三監督「経験させないと課題は見つからない」

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敵地で首位甲府を破ったいわきFC

[3.14 J2・J3百年構想リーグ第6節 甲府 0-1 いわき JITス]

 プロとして勝利を狙いながらも、選手育成の観点も欠かせないのがJ2・J3百年構想リーグ。若手選手の受け入れを積極的に進めているいわきFCは今季全勝が続いていたヴァンフォーレ甲府のホームに乗り込んでもなお、次々にサブの選手を送り込む攻めの起用を続け、その上で4試合ぶりの勝ち点3をもぎ取った。

 この日のいわきは序盤からセットプレーを主体に甲府を攻め立てたが、0-0の前半20分過ぎにFWオウイエ・ウイリアムに脳震盪の症状が見られ、早々に交代を強いられる苦しいスタート。しかし、そこで代わりに入ったFW加藤大晟が同33分、ルーキーFW田中幹大からのクロスを沈め、アクシデントを“怪我の功名”に変えた。

 加藤は鹿屋体育大から昨季加入したプロ2年目のFW。前々節の藤枝戦(●1-2)ではいきなり先発起用され、今季初出場を果たしたが、前節・大宮戦(○1-1、PK5-4)では控えに回り、チームを救う同点ゴールを決めていた。今節では再び先発に戻すプランもあったようだが、田村雄三監督はそのままジョーカー起用を続けるという決断をしていた。

「ここ最近、大晟は途中から出ていいリズムで入れて、前節で初得点して、本来だったらスタートのほうがいいかなというふうにも思ったが、選手の現状を見てどっちのほうがスタートで、どっちが途中から行ったほうがゲームにしっかり入れるかということで今日は選んだ」(田村監督)

 もっとも、その決断をするにあたっては、加藤に試合に向けての心構えをしっかりと伝えていたという。

「2試合連続で得点しようと思うなと。ただ、しっかりチームのためにしっかりボールを収めて、しっかり走ったら、絶対に目の前にボールが転がってくるからと。まずはチームのタスクをしっかりやってくれと話した」(田村監督)

 今季初出場の藤枝戦では気負いからか、チャンスシーンで空回りする場面も見られた加藤。「今日はアクシデントだったけど、自分の役割をしっかりやった上でゴールを狙おうと思っていた。そこが結果につながってよかった」。この日はチームのタスクに向き合った結果、指揮官の言葉どおりに巡ってきたファーストチャンスを決め、早くもルーキーイヤーの得点数に並ぶ2戦連発となった。

 そのまま前半を1点リードで終え、シュート数では9-0と一方的優勢に持ち込んだいわきだったが、後半は甲府が圧力を強めてきたことで、嫌な流れになっていった。そこで田村監督は後半18分、一気に3枚替えを敢行。それもボランチを主戦場とする203cmの19歳FW木吹翔太をハイプレスに関わる右インサイドハーフに入れ、負傷明けで今季初出場のDF深港壮一郎と開幕節以来の出場となるDF今野息吹を起用するという、育成と調整も兼ねた攻めの采配だった。

 いずれも明確な個性を持つ選手であるため、追加点を奪える可能性はもちろん広がる。その一方で、オープンな展開になれば相手のチャンスも広がりかねない。実際にいわきがこうした攻めの交代を行うことを予測していたであろう甲府側もすぐさま3枚替えを行い、左サイドにMF水野颯太とMF荒木翔を入れ、ここぞとばかりに仕留めにかかってきた。

 ただ、田村監督はそのようなリスクを負ってもなお、控え選手にチャンスを与える道を選んでいた。試合後、記者会見でそのことを問うと、次の言葉が返ってきた。

「おっしゃる通りにどっちに転ぶだろうというのは思いましたが、それを経験させないとこの選手が何ができて何ができないかという課題は見つからない。いくら練習でやっても、やっぱりこの本番の雰囲気の中で、この中でやれるのかというところを見たかった。でも別にゲームを捨ててはいないので、そのぶんみんなでカバーしようとは言いました」

 そうした起用に踏み切った田村監督自身も、甲府の交代を見据えて次の一手を準備していた。それまで右ウイングバックで攻撃の軸を担っていたMF中島舜を下げ、CBの桒田大誠を3バックの一角に入れることで、開幕から3バックの右での抜擢が続いている高卒ルーキーのDF中野陽斗をウイングバックに回したのだ。

「あれはシンプルに7番の選手(途中出場してきた荒木)の対策です。左足の突破力も含め、もともと甲府さんは左サイドからの攻撃のポイントが高いというのもわかっていたし、(荒木が)入ってきた時に桒田選手を入れて、そこをチャレンジして、対人の強い陽斗を一つ前にしました」

 これも高校時代からCBを主戦場としていた中野にとって成長につながる起用であり、またCBに投入された桒田も昨季はプロ1年目の柏レイソルで出場機会がなく、再起を目指していわきに期限付き移籍でやってきた選手。こうした起用の結果、その後は甲府の猛攻を受け続けるといういわきにとって厳しい展開となったが、ゴール前で身体を張った選手たちがなんとか最後まで1点を守り切り、4試合ぶりとなる90分勝利を収めた。

 この試合の流れだけを見れば、“3枚替え”で流れを失いつつも、なんとかリードを守り切ったという内容にも捉えられる。それでも、こうした経験の一つ一つが選手の成長を促し、この先の勝利につながっていくというのは大きな収穫だ。田村監督も「あの交代を別に後悔はしていないし、前向きにプレーしてくれたからこそ課題が出たので、3人だけじゃなくフィードバックをして一つ一つ積み上げていけたら」と前向きに受け止めていた。

 またこうした育成に主眼を置いた起用が選手の成長につながるというのも、勝利を目指しているという大前提があるからこそだ。

 田村監督は甲府戦に臨むにあたり、2つのメッセージを込めて勝利へのモチベーションを煽っていたという。「相手が首位の甲府さんということで、また自分たちが過去6戦して3分3敗で勝ったことがないというのも含めて、甲府さんのほうが上なので、しっかりチャレンジャーとしてと。また3.11もあったので、今日だけじゃないけど、90分間止まらない、倒れないというサッカーをしっかり体現しないといけないと伝えて、選手たちがよく頑張ってくれたと思います」。選手の育成、負傷を乗り越えた選手の調整、そして新たな節目を踏み出した地域への思い。さまざまな使命と向き合いながら掴んだ、首位相手の勝ち点3だった。

(取材・文 竹内達也)

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竹内達也
Text by 竹内達也

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