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[MOM4852]鹿児島城西DF福留大和(3年)_元FWの嗅覚、発動!攻撃的右SBがプレミア初勝利を引き寄せる値千金の逆転決勝弾!

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値千金の逆転弾を叩き出した鹿児島城西高DF福留大和(3年=FCアラーラ鹿児島U-15出身)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[9.29 プレミアリーグWEST第16節 鹿児島城西高 2-1 岡山U-18 鹿児島城西高校 半端ない人工芝サッカー場]

 頭にはちゃんとその瞬間の感触が残っている。夢中で飛び込んで、夢中で押し込んだボールがゴールネットへ収まったのを見届けると、一目散に応援団が陣取るピッチサイドへと走り出す。あっという間に飲み込まれた歓喜の輪。やっぱり、ゴールって最高だ。

「ゴールの瞬間は『よっしゃ!』という感じでしたね。ここまでのプレミアでは試合の中で勝ち越しというシチュエーションがあまりなかったので、『やってやった!』という想いと、みんなに『応援してくれてありがとう』という想いでした」。

 昨秋まではフォワードでプレーしていた、鹿児島城西高(鹿児島)のアタックに推進力をもたらすアグレッシブな右サイドバック。DF福留大和(3年=FCアラーラ鹿児島U-15出身)が備えている“得点感覚”が、チームに念願のプレミアリーグ初勝利を鮮やかにもたらした。


「ここでもし負けたら、また離されて厳しくなるところだったので、みんなで『絶対に勝つ』って話して、今週1週間は結構練習を頑張ってきたんです」。福留もそう口にした『ここ』は重要な一戦。プレミアリーグWEST第16節。最下位に喘ぐ鹿児島城西がホームで対峙するのは、10位に付けているファジアーノ岡山U-18(岡山)。両者の勝点は8ポイント離れているが、残留圏ギリギリに位置する、まさにターゲットにすべき相手だ。

 だが、前半は最初のピンチで失点を喫してしまう。30分。右サイドを切り裂かれ、叩き込まれたゴラッソ。「インターセプトを狙いに行こうとして入れ代わってしまったので、あそこはもっとギリギリまで見ておけば、入れ代わられずに済んだかなと思います」。スコアラーと対峙しながら、突破を許した福留は責任を感じていた。

 それでも36分には悩めるエースのFW大石脩斗(2年)が、今季初ゴールとなる同点弾をマーク。さらに後半に入ると、ホームチームはロングスローを含めたセットプレーを多く取れるようになり、ジワジワとゲームリズムを引き寄せていく。

 最終盤に差し掛かりつつあった後半34分。鹿児島城西に左サイドでFKが与えられる。キッカーはMF常眞亜斗(2年)。右足で蹴り込んだ軌道がファーまで届くと、既に福留の中には明確なイメージが湧いていた。「練習から奥に脩斗がいて、折り返しかこぼれを狙ってニアで待っておくことは決まっていたので、脩斗が折り返してくるというのはわかっていました」。

 大石のヘディングは右のポストに弾かれたが、ボールがエリア内へこぼれると、“元フォワード”の研ぎ澄まされた嗅覚は、もういるべき的確なポジションを嗅ぎ取っていた。「脩斗がヘディングした瞬間に、『これは自分のところに来るかも!』と思ったら本当に来たので、飛び込むだけという感じでした。とりあえずボールだけ見て、ふかさないようにヘディングしましたね」



 目の前の無人のゴールへ頭でボールを届けると、福留はすぐさま声援を送り続けてくれたチームメイトや子どもたちが待つピッチサイドへ向かって、軽やかに駆け出していく。2-1。残された時間は10分あまり。14試合を戦って一度も奪えていない勝利が、少しずつ近付いてくる。

「自分はあまり落ち着けなかったです。もうヒヤヒヤしていて、正直『ここから1点返されたら……』とか考えていました」。福留が素直に明かした心境は、おそらくチームメイトも同じだったはず。それでも鹿児島城西の選手たちは、丁寧に、確実に、そして懸命に時間を潰していく。

 5分間のアディショナルタイムを凌ぎ切ると、タイムアップのホイッスルがようやく聞こえてくる。「嬉し過ぎましたね。最後の5分間はメッチャみんなで耐えたので、『やっと勝てた!』という実感が湧いてきました。ずっと勝てなくて、みんな応援してくれているのに悔しくて、後期のホームゲームでは絶対に勝つという気持ちだったので、本当に勝てて嬉しいです」。自ら挙げた値千金の決勝点で、とうとう手にしたプレミアリーグ初勝利。福留の表情にも歓喜と安堵の笑顔が広がった。



 前述してきたように高校入学後はフォワードを務めてきた福留だが、今シーズンは右サイドバックを主戦場に出場機会を重ねている。「もともと中学校の頃はサイドバックもフォワードもどっちもしていたので、どっちもできると思っていたんですけど、今は良い感じにできるようになってきたので、サイドバックも楽しいです」。

 とはいえ、プレミアではハイレベルなアタッカーと対峙することも多く、守備面でのアジャストも簡単ではなかったようだ。「最初の頃は守備の対応に慣れなかったんですけど、少しずつスピードにも慣れてきて、奪ってからの攻撃もスムーズにできるようになってきたので、あとは自分の課題のクロスを克服したら、もっと良いサイドバックになれると思います」。

 本人も把握しているように、目下の課題はクロスの精度。「酒井宏樹選手のクロスを真似しながらやっているんですけど、落ちるボールが蹴れないので、なかなか上手くならなくて……。もうちょっとクロスを練習したいと思います」。より相手に嫌がられるサイドバックを目指して、日々のトレーニングと向き合っていく。



 今年の3年生は、チームがカテゴリーを駆け上がっていく様子を間近で見ていた世代。それゆえにこのプレミアで戦うことの意味は、十分過ぎるほどに理解している。福留の誓った決意が頼もしい。

「先輩方が県リーグからプリンス、プリンスからプレミアまで上げてきてくれたのを見てきて、今自分たちがやれている環境がどれだけ凄い環境かもわかりますし、このプレミアリーグを何としても後輩に残してあげたいので、残りの試合も勝ってしっかり残留できるように、チーム一丸となって頑張りたいです」。

 背番号7を託された、鹿児島城西が誇る右の翼。福留大和は90分間を通して効果的に立ち振る舞えるサイドバック像をはっきりと思い描きながら、来年もこのステージで戦う権利を引き寄せるために、ひたすら右サイドを上下動し続ける。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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