『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:伝説の入口(アルビレックス新潟U-18)
最後まで自分たちのスタイルを貫いた
東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」
それはもちろん勝利を手繰り寄せたかったに決まっているけれど、自分たちの持てる力を110分間にわたって出し尽くした確かな手応えは、身体の中に残っている。みんなで築き上げたこのスタイルで、ここまで歩みを進めてきた過程は、必ず後輩たちへと受け継がれていく。
「この全国の強いチームが集まる参入戦という舞台で、自分たちのサッカーを最後まで見せられたのは良かったですし、たぶん見ている人たちも『アルビのユースはいいサッカーをしているな』と思ってくれたんじゃないかなって。その部分は今までの3年間で自分たちがやってきたことの積み重ねが出せたので、それぞれがこれからの自信に繋げていきたいと思います」(アルビレックス新潟U-18・竹ノ谷颯優)
プリンスリーグ北信越を制し、プレミアリーグ昇格へあと一歩まで迫った、若きオレンジ軍団の大冒険。ハッキリとした未来予想図を描いて、新たな道を歩き出したアルビレックス新潟U-18(新潟)は、きっともう『伝説の入口』の扉の前に、堂々と立っている。
「結果は残念でしたけど、この1年間やってきたサッカーを選手は表現してくれたので、僕は素晴らしい試合だったと思います」。
プレミアリーグへの昇格を懸けた激闘が終わって、1時間は経っていただろうか。新潟U-18を率いている田中達也監督は、ロッカールームから取材エリアへ現れると、真っ先に選手たちの奮闘を称える言葉を口にした。
田中監督がこのチームの指揮官に就任したのは今シーズンから。昨年まではトップチームのコーチを務める傍ら、U-15のトレーニングにも週1回のペースで参加し、今季からはアカデミーの出口に当たるU-18のカテゴリーを、監督として受け持つことになった。
初めて向き合う高校生たちとの日々の中で、気付いたことがあったという。「選手たちをどこまで枠にハメるか、ハメないかというのは、凄く勉強になりましたね。枠にハメすぎてしまうと躍動感がなくなってしまうので、その枠を壊す作業というのを、途中からは意識するようになりました」。
キャプテンを任されているMF竹ノ谷颯優(3年)も「最初の方は達也さんの目指しているサッカーが少し難しくて、なかなかうまく行っていなかった感じがありました」と言及したように、リーグ戦でも開幕2試合は1分け1敗。好スタートとは行かなかったものの、第3節の松本国際高戦で初勝利を収めると、そこから怒涛の7連勝を記録する。
真摯にトレーニングを積み上げ、実戦で結果を引き寄せていく中で、選手たちにも少しずつ指揮官のイメージが浸透していく。「だんだん時間を重ねていくうちに、みんなもそれを理解していって、いい形のサッカーになった手応えはメチャクチャあります」(竹ノ谷)。後半戦は苦しみながらも勝点を積み重ね、最終節でリーグ優勝を達成。プレミアリーグプレーオフの進出権を手に入れた。
田中監督の“サッカー人”としての在り方を、明確に実感する機会があった。夏のクラブユース選手権。福山で行われたグループステージの横浜F・マリノスユース戦で、年代別代表をズラリとそろえる難敵相手に、新潟U-18はきっちりとボールを保持しながら、アグレッシブに攻め切る形を貫徹。結果は2-2のドローに終わり、1試合を残して敗退が決まってしまったが、普段の練習がそのまま滲み出るような攻撃的スタイルが記憶に残った。
「もう選手は素晴らしいプレーをしてくれたと思っています」。
その日も、まず指揮官から発せられたのは選手たちの奮闘を称える言葉だった。それからも次々とゲームの中の良かった点を挙げながら、いかに選手たちが頑張ったか、いかに選手たちが成長を続けているかを、丁寧に説明してくれる。
ある意味で“消化試合”となった大会最終戦に向けても、田中監督はきっぱりとこう言い切った。「もう勝つだけです。常日頃から『結果はどうあれ、自分たちのサッカーをしよう』と言っているので、そこを目指して明日も良い準備をしたいです」。
竹ノ谷も「もう敗退が決まってしまったんですけど、最後まで自分たちのサッカーを全部出して、全部の面で圧倒して勝ちたいなと思っています」と話していた、翌々日の鹿児島ユナイテッドFC U-18戦は1-0で勝利。大会初白星を掴み取る。目の前の試合に、自分たちのサッカーを100パーセント出し尽くす。今年の新潟U-18はそんなチームだ。


プレーオフ1回戦で桐生一高を1-0で撃破し、10年ぶりとなるプレミア復帰へあと1勝と迫った決勝戦。プリンスリーグ中国王者の米子北高と対峙する一戦も、やるべきことはいつもと何も変わらない。「最後の試合だったので、勝って3年生は笑って終われるようにしたいと思っていました」と話すのはGK松浦大翔(2年)。1,2年生は3年生のために。3年生は1,2年生のために。2025年のラストゲームの幕が上がる。
「今日は後ろで数的優位を生かしながら、1個ずつ丁寧に剥がしていこうと。あとはウイングのところでチャンスになるから、そこを見逃さずにと。あとはみんなのクオリティを発揮するところだよねという話はしました」(田中監督)
立ち上がりからボールを支配したのは新潟U-18。DFサグダトブ・イリヤ(3年)とDF岡崎我徠(2年)の両センターバックに、右のDF三野原亘輝(3年)、左のDF安田陽平(3年)の両サイドバックのどちらかが加わり、丁寧にポゼッションしながら、テンポアップする瞬間をチームで見極めていく。
だが、21分には縦パスを引っかけられたところからカウンターを食らい、先制点を献上し、1点を追い掛ける展開に。29分には竹ノ谷が決定機を掴むも、シュートはわずかに枠の左へ。前半は米子北にリードを許し、ハーフタイムへ折り返す。
その3年生は、出番を待ちわびていた。「1試合目はベンチにいて試合に出れなくて、それが凄く悔しかったですし、この試合ではそういう感情をしっかりピッチで表現できたらいいなという想いがありました」。後半開始から田中監督はMF松澤玲央(3年)に代えて、初戦は出番のなかったMF石山未来(3年)を右サイドハーフの位置へ解き放つ。
48分。石山が右サイドで仕掛けたドリブルを起点に、三野原とMF田中琉磨(1年)が関わった流れから、MF稲場健人(3年)のシュートはクロスバーを叩いたが、いきなり代わった背番号13がチャンスを演出すると、ゲームリズムは明らかに変わる。
67分。三野原からボールを受けた田中は、右サイドへ鋭いスルーパス。一気に加速した石山は縦に運びながら、優しい折り返しを中央へ。飛び込んできたMF井本修都(3年)のスライディングシュートは、ゴールネットをきっちり揺らす。「未来は縦へのパワーがある選手なので、チームに勢いを付けてくれましたし、彼の良さを出してくれました」と話した田中監督の采配ズバリ。ジョーカーのアシストで、新潟U-18はスコアを振り出しに引き戻す。






84分。ここも右サイドから石山が中へ付けると、FW山崎琉偉(2年)はダイレクトで捌き、FW小林椋人(2年)が粘って残したボールを、かっさらった石山はGKと1対1に。慎重に枠へ収めたシュートは、しかし相手GKのファインセーブに阻まれてしまう。結局90分間では決着が付かず、試合は前後半10分ずつの延長戦へともつれ込む。
92分。シンプルなフィードからのカウンターで、米子北に勝ち越し点を奪われてしまう。追い込まれた新潟U-18は、とにかく攻める。三野原のクロスから山崎が、さらに三野原の右FKからサグダトブが、それぞれ枠内にヘディングを打ち込むも、どちらも相手GKがファインセーブ。1点が遠い。
110分。ほとんどラストチャンスのCK。三野原のキックに「ラストだったので、自分が点数を決めて勝つという気持ちで上がりました」と前線に駆け上がってきたGKの松浦が飛び付くも、頭に当たったボールは枠の外へ逸れていく。ファイナルスコアは1-2。「ここまで良いサッカーができたので、勝ち切りたかったなという想いがありました」(竹ノ谷)。まさにあと一歩のところで、プレミア昇格の切符を勝ち獲ることは叶わなかった。








「結果は残念でしたけど、この1年間やってきたサッカーを選手は表現してくれたので、僕は素晴らしい試合だったと思います」。
プレミアリーグへの昇格を懸けた激闘が終わって、1時間は経っていただろうか。田中監督は、ロッカールームから取材エリアへ現れると、真っ先に選手たちの奮闘を称える言葉を口にした。
「監督という立場でしたけど、『選手を成長させてあげられたな』ではなくて、『選手に成長させてもらったな』と。そんな1年でした。選手と一緒で、特にメンタルのところで、ちょっとしたことにも動じずに、いろいろなものを見られるようになったなと。選手とともに戦えた時間が本当に素晴らしかったです」。
「特にこのプレーオフの2試合は、ベストゲームができたと思います。もちろん失点の部分は修正すべき点だとは思うけれど、それよりも自分たちがどうやって後ろからポゼッションして、どうやって攻撃していくかというのは、最高に表現できたと思います」。
やっぱりこの指揮官のスタンスは、あの夏の日と同じだった。口を衝くのは選手たちへの賞賛と感謝ばかり。その言葉の端々に、彼らへの信頼と愛情が滲む。
「選手たちには『このままでいい』と。『何かが足りないのではないから、このまま続けていこう』と。それはサッカーもそうですし、メンタル的なところもそう。僕はそう思ったので、率直に伝えました」
「今年の戦いを見た1,2年生には、『これを受け継いでくれ』という話もしましたし、3年生には率直に『3年間お疲れさまでした』と。親元を離れて、3年間寮で暮らしながら、いろいろな葛藤があった中で、今日も素晴らしいゲームをしてくれたと思っています」。田中監督と過ごした濃密な1年間が、3年生たちにとってかけがえのない時間になったであろうことは、想像に難くない。
「今回の2試合はプリンスリーグ以上にみんなハードワークしていて、今日も力強い相手にも自分たちのサッカーがいつも以上に出せたと思うので、3年間積み上げてきたものが最後に出せて良かったと思います」。
キャプテンの竹ノ谷は、比較的さばさばと終わったばかりの試合を、そう振り返る。当然ながらアカデミーラストゲームを勝利で飾れなかった悔しさも抱えつつ、一方で個性派揃いのチームを引っ張ってきたシーズンをやり切ったという充足感も、同時にその表情からは窺えた。


まだ2年生の松浦は、試合後のロッカールームの光景を、しっかりと瞼に焼き付けたようだ。「みんな泣いていて、自分もずっと試合のことしか考えられないぐらい悔しかったんですけど、3年生の最後までやり切っていた姿を見ると、自分も来年は絶対に去年の分も勝ってやるという気持ちで、またここに戻ってこれたらなと思っています」。彼らには3年生たちが見せてくれた姿勢を、日常を、受け継いでいく必要がある。
2025年の新潟U-18を現地で取材した2試合は、いずれもいろいろなものの懸かったシビアな全国大会のゲームだったが、ピッチ上の選手たちは生き生きと、楽しそうに、躍動していたのが強く印象に残っていた。そんなチームを貫くマインドの理由は、田中監督のこの話の中に隠れているような気がする。
「この1年、凄く楽しかったです。と言ったら、甘いとか言われてしまうのかもしれないですけど、僕は選手には常に『勝とう』とは言わないようにしていて、もちろん勝ちたいけれど、勝つための準備は最高にして、あとは楽しもうと。結果は自分でコントロールできないですし、そこまでどれだけ準備できたかというのは、常に選手に要求していて、自分自身も突き詰めたつもりです」。


勝敗はコントロールできないけれど、勝つための準備ならばいくらでも整えることはできる。それを万全にやり切ったうえで、自分たちのスタイルを打ち出し、大好きなサッカーを楽しむ。それを突き詰めてきた監督と選手たちが繰り広げる90分間が、魅力的にならないはずがない。
竹ノ谷は少しだけ笑顔を浮かべながら、最後にこんなことを教えてくれた。
「今年は『伝説を作る』という目標があって、アルビユースの歴代最高の結果を出そうと思ってきたので、その伝説を作りたかったんですけど、そこまであと一歩のところまで来れたのは、自分たちの力かなと思っています」。
「北信越のチームでも、この全国の舞台でも全然戦えるんだということを、今回の大会で証明できたと思うので、後輩たちには臆することなく、また来年もこの舞台に戻ってこれるように頑張ってほしいなと思います」。
脈々と受け継がれてきたオレンジの伝統を、今年の3年生もしっかりと携えながら、力強い足跡をチームの歴史に残してみせた。届かなかったあと1勝を追い求めるための戦いは、既にスタートを切っている。2025年を颯爽と駆け抜けた、新指揮官と選手たちの共闘がもたらす新たなフェーズ。新潟U-18はきっともう『伝説の入口』の扉の前に、堂々と立っている。


■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に『蹴球ヒストリア: 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』『高校サッカー 新時代を戦う監督たち』
▼関連リンク
SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史
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それはもちろん勝利を手繰り寄せたかったに決まっているけれど、自分たちの持てる力を110分間にわたって出し尽くした確かな手応えは、身体の中に残っている。みんなで築き上げたこのスタイルで、ここまで歩みを進めてきた過程は、必ず後輩たちへと受け継がれていく。
「この全国の強いチームが集まる参入戦という舞台で、自分たちのサッカーを最後まで見せられたのは良かったですし、たぶん見ている人たちも『アルビのユースはいいサッカーをしているな』と思ってくれたんじゃないかなって。その部分は今までの3年間で自分たちがやってきたことの積み重ねが出せたので、それぞれがこれからの自信に繋げていきたいと思います」(アルビレックス新潟U-18・竹ノ谷颯優)
プリンスリーグ北信越を制し、プレミアリーグ昇格へあと一歩まで迫った、若きオレンジ軍団の大冒険。ハッキリとした未来予想図を描いて、新たな道を歩き出したアルビレックス新潟U-18(新潟)は、きっともう『伝説の入口』の扉の前に、堂々と立っている。
「結果は残念でしたけど、この1年間やってきたサッカーを選手は表現してくれたので、僕は素晴らしい試合だったと思います」。
プレミアリーグへの昇格を懸けた激闘が終わって、1時間は経っていただろうか。新潟U-18を率いている田中達也監督は、ロッカールームから取材エリアへ現れると、真っ先に選手たちの奮闘を称える言葉を口にした。
田中監督がこのチームの指揮官に就任したのは今シーズンから。昨年まではトップチームのコーチを務める傍ら、U-15のトレーニングにも週1回のペースで参加し、今季からはアカデミーの出口に当たるU-18のカテゴリーを、監督として受け持つことになった。
初めて向き合う高校生たちとの日々の中で、気付いたことがあったという。「選手たちをどこまで枠にハメるか、ハメないかというのは、凄く勉強になりましたね。枠にハメすぎてしまうと躍動感がなくなってしまうので、その枠を壊す作業というのを、途中からは意識するようになりました」。
キャプテンを任されているMF竹ノ谷颯優(3年)も「最初の方は達也さんの目指しているサッカーが少し難しくて、なかなかうまく行っていなかった感じがありました」と言及したように、リーグ戦でも開幕2試合は1分け1敗。好スタートとは行かなかったものの、第3節の松本国際高戦で初勝利を収めると、そこから怒涛の7連勝を記録する。
真摯にトレーニングを積み上げ、実戦で結果を引き寄せていく中で、選手たちにも少しずつ指揮官のイメージが浸透していく。「だんだん時間を重ねていくうちに、みんなもそれを理解していって、いい形のサッカーになった手応えはメチャクチャあります」(竹ノ谷)。後半戦は苦しみながらも勝点を積み重ね、最終節でリーグ優勝を達成。プレミアリーグプレーオフの進出権を手に入れた。
田中監督の“サッカー人”としての在り方を、明確に実感する機会があった。夏のクラブユース選手権。福山で行われたグループステージの横浜F・マリノスユース戦で、年代別代表をズラリとそろえる難敵相手に、新潟U-18はきっちりとボールを保持しながら、アグレッシブに攻め切る形を貫徹。結果は2-2のドローに終わり、1試合を残して敗退が決まってしまったが、普段の練習がそのまま滲み出るような攻撃的スタイルが記憶に残った。
「もう選手は素晴らしいプレーをしてくれたと思っています」。
その日も、まず指揮官から発せられたのは選手たちの奮闘を称える言葉だった。それからも次々とゲームの中の良かった点を挙げながら、いかに選手たちが頑張ったか、いかに選手たちが成長を続けているかを、丁寧に説明してくれる。
ある意味で“消化試合”となった大会最終戦に向けても、田中監督はきっぱりとこう言い切った。「もう勝つだけです。常日頃から『結果はどうあれ、自分たちのサッカーをしよう』と言っているので、そこを目指して明日も良い準備をしたいです」。
竹ノ谷も「もう敗退が決まってしまったんですけど、最後まで自分たちのサッカーを全部出して、全部の面で圧倒して勝ちたいなと思っています」と話していた、翌々日の鹿児島ユナイテッドFC U-18戦は1-0で勝利。大会初白星を掴み取る。目の前の試合に、自分たちのサッカーを100パーセント出し尽くす。今年の新潟U-18はそんなチームだ。


夏のクラブユース選手権を戦う新潟U-18の選手たち
プレーオフ1回戦で桐生一高を1-0で撃破し、10年ぶりとなるプレミア復帰へあと1勝と迫った決勝戦。プリンスリーグ中国王者の米子北高と対峙する一戦も、やるべきことはいつもと何も変わらない。「最後の試合だったので、勝って3年生は笑って終われるようにしたいと思っていました」と話すのはGK松浦大翔(2年)。1,2年生は3年生のために。3年生は1,2年生のために。2025年のラストゲームの幕が上がる。
「今日は後ろで数的優位を生かしながら、1個ずつ丁寧に剥がしていこうと。あとはウイングのところでチャンスになるから、そこを見逃さずにと。あとはみんなのクオリティを発揮するところだよねという話はしました」(田中監督)
立ち上がりからボールを支配したのは新潟U-18。DFサグダトブ・イリヤ(3年)とDF岡崎我徠(2年)の両センターバックに、右のDF三野原亘輝(3年)、左のDF安田陽平(3年)の両サイドバックのどちらかが加わり、丁寧にポゼッションしながら、テンポアップする瞬間をチームで見極めていく。
だが、21分には縦パスを引っかけられたところからカウンターを食らい、先制点を献上し、1点を追い掛ける展開に。29分には竹ノ谷が決定機を掴むも、シュートはわずかに枠の左へ。前半は米子北にリードを許し、ハーフタイムへ折り返す。
その3年生は、出番を待ちわびていた。「1試合目はベンチにいて試合に出れなくて、それが凄く悔しかったですし、この試合ではそういう感情をしっかりピッチで表現できたらいいなという想いがありました」。後半開始から田中監督はMF松澤玲央(3年)に代えて、初戦は出番のなかったMF石山未来(3年)を右サイドハーフの位置へ解き放つ。
48分。石山が右サイドで仕掛けたドリブルを起点に、三野原とMF田中琉磨(1年)が関わった流れから、MF稲場健人(3年)のシュートはクロスバーを叩いたが、いきなり代わった背番号13がチャンスを演出すると、ゲームリズムは明らかに変わる。
67分。三野原からボールを受けた田中は、右サイドへ鋭いスルーパス。一気に加速した石山は縦に運びながら、優しい折り返しを中央へ。飛び込んできたMF井本修都(3年)のスライディングシュートは、ゴールネットをきっちり揺らす。「未来は縦へのパワーがある選手なので、チームに勢いを付けてくれましたし、彼の良さを出してくれました」と話した田中監督の采配ズバリ。ジョーカーのアシストで、新潟U-18はスコアを振り出しに引き戻す。






84分。ここも右サイドから石山が中へ付けると、FW山崎琉偉(2年)はダイレクトで捌き、FW小林椋人(2年)が粘って残したボールを、かっさらった石山はGKと1対1に。慎重に枠へ収めたシュートは、しかし相手GKのファインセーブに阻まれてしまう。結局90分間では決着が付かず、試合は前後半10分ずつの延長戦へともつれ込む。
92分。シンプルなフィードからのカウンターで、米子北に勝ち越し点を奪われてしまう。追い込まれた新潟U-18は、とにかく攻める。三野原のクロスから山崎が、さらに三野原の右FKからサグダトブが、それぞれ枠内にヘディングを打ち込むも、どちらも相手GKがファインセーブ。1点が遠い。
110分。ほとんどラストチャンスのCK。三野原のキックに「ラストだったので、自分が点数を決めて勝つという気持ちで上がりました」と前線に駆け上がってきたGKの松浦が飛び付くも、頭に当たったボールは枠の外へ逸れていく。ファイナルスコアは1-2。「ここまで良いサッカーができたので、勝ち切りたかったなという想いがありました」(竹ノ谷)。まさにあと一歩のところで、プレミア昇格の切符を勝ち獲ることは叶わなかった。








「結果は残念でしたけど、この1年間やってきたサッカーを選手は表現してくれたので、僕は素晴らしい試合だったと思います」。
プレミアリーグへの昇格を懸けた激闘が終わって、1時間は経っていただろうか。田中監督は、ロッカールームから取材エリアへ現れると、真っ先に選手たちの奮闘を称える言葉を口にした。
「監督という立場でしたけど、『選手を成長させてあげられたな』ではなくて、『選手に成長させてもらったな』と。そんな1年でした。選手と一緒で、特にメンタルのところで、ちょっとしたことにも動じずに、いろいろなものを見られるようになったなと。選手とともに戦えた時間が本当に素晴らしかったです」。
「特にこのプレーオフの2試合は、ベストゲームができたと思います。もちろん失点の部分は修正すべき点だとは思うけれど、それよりも自分たちがどうやって後ろからポゼッションして、どうやって攻撃していくかというのは、最高に表現できたと思います」。
やっぱりこの指揮官のスタンスは、あの夏の日と同じだった。口を衝くのは選手たちへの賞賛と感謝ばかり。その言葉の端々に、彼らへの信頼と愛情が滲む。
「選手たちには『このままでいい』と。『何かが足りないのではないから、このまま続けていこう』と。それはサッカーもそうですし、メンタル的なところもそう。僕はそう思ったので、率直に伝えました」
「今年の戦いを見た1,2年生には、『これを受け継いでくれ』という話もしましたし、3年生には率直に『3年間お疲れさまでした』と。親元を離れて、3年間寮で暮らしながら、いろいろな葛藤があった中で、今日も素晴らしいゲームをしてくれたと思っています」。田中監督と過ごした濃密な1年間が、3年生たちにとってかけがえのない時間になったであろうことは、想像に難くない。
「今回の2試合はプリンスリーグ以上にみんなハードワークしていて、今日も力強い相手にも自分たちのサッカーがいつも以上に出せたと思うので、3年間積み上げてきたものが最後に出せて良かったと思います」。
キャプテンの竹ノ谷は、比較的さばさばと終わったばかりの試合を、そう振り返る。当然ながらアカデミーラストゲームを勝利で飾れなかった悔しさも抱えつつ、一方で個性派揃いのチームを引っ張ってきたシーズンをやり切ったという充足感も、同時にその表情からは窺えた。


新潟U-18を牽引してきたキャプテン、竹ノ谷颯優
まだ2年生の松浦は、試合後のロッカールームの光景を、しっかりと瞼に焼き付けたようだ。「みんな泣いていて、自分もずっと試合のことしか考えられないぐらい悔しかったんですけど、3年生の最後までやり切っていた姿を見ると、自分も来年は絶対に去年の分も勝ってやるという気持ちで、またここに戻ってこれたらなと思っています」。彼らには3年生たちが見せてくれた姿勢を、日常を、受け継いでいく必要がある。
2025年の新潟U-18を現地で取材した2試合は、いずれもいろいろなものの懸かったシビアな全国大会のゲームだったが、ピッチ上の選手たちは生き生きと、楽しそうに、躍動していたのが強く印象に残っていた。そんなチームを貫くマインドの理由は、田中監督のこの話の中に隠れているような気がする。
「この1年、凄く楽しかったです。と言ったら、甘いとか言われてしまうのかもしれないですけど、僕は選手には常に『勝とう』とは言わないようにしていて、もちろん勝ちたいけれど、勝つための準備は最高にして、あとは楽しもうと。結果は自分でコントロールできないですし、そこまでどれだけ準備できたかというのは、常に選手に要求していて、自分自身も突き詰めたつもりです」。


新潟U-18の指揮を執る田中達也監督
勝敗はコントロールできないけれど、勝つための準備ならばいくらでも整えることはできる。それを万全にやり切ったうえで、自分たちのスタイルを打ち出し、大好きなサッカーを楽しむ。それを突き詰めてきた監督と選手たちが繰り広げる90分間が、魅力的にならないはずがない。
竹ノ谷は少しだけ笑顔を浮かべながら、最後にこんなことを教えてくれた。
「今年は『伝説を作る』という目標があって、アルビユースの歴代最高の結果を出そうと思ってきたので、その伝説を作りたかったんですけど、そこまであと一歩のところまで来れたのは、自分たちの力かなと思っています」。
「北信越のチームでも、この全国の舞台でも全然戦えるんだということを、今回の大会で証明できたと思うので、後輩たちには臆することなく、また来年もこの舞台に戻ってこれるように頑張ってほしいなと思います」。
脈々と受け継がれてきたオレンジの伝統を、今年の3年生もしっかりと携えながら、力強い足跡をチームの歴史に残してみせた。届かなかったあと1勝を追い求めるための戦いは、既にスタートを切っている。2025年を颯爽と駆け抜けた、新指揮官と選手たちの共闘がもたらす新たなフェーズ。新潟U-18はきっともう『伝説の入口』の扉の前に、堂々と立っている。


■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に『蹴球ヒストリア: 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』『高校サッカー 新時代を戦う監督たち』
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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史
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