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対峙した旧友の姿はピッチとテクニカルエリアに。柏GK佐々木雅士は特別な一戦で自身にとって約2年ぶりの公式戦勝利を掴み取る!

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旧友たちとの再会となる一戦を勝利で飾った柏レイソルGK佐々木雅士

[7.10 天皇杯3回戦 柏2-1(延長)筑波大 三協F柏]

 対戦相手にはアカデミーで濃厚な時間を共にしてきた、2人の大切な友人がいる。ただ、ひとたびピッチに立ってしまえば、そんなことは関係ない。目の前のワンプレーを正確にこなし、目の前の勝利を貪欲に目指す。それを全力で追及することが、サッカーで生きていくということなのだから。

「筑波大学は町田を倒して上がってきた相手なので、力があるチームだということはわかっていましたし、自分たちとしては天皇杯のタイトルが懸かっていて、絶対に勝たないといけない試合という中で、いつもと違う緊張感の中でプレーできました」。

 柏レイソルのゴールマウスに立った若き守護神。GK佐々木雅士は旧友と対峙した120分間の経験を胸に、さらなるステップアップを期して、再びトレーニングと向き合う日常へと身を投じていく。


 筑波大と対戦することになった天皇杯3回戦。相手には同じ太陽のエンブレムを背負って、1つの勝利を目指し合った旧友が2人も顔を揃えていた。1人はヘッドコーチを務める戸田伊吹(4年=柏U-18)。もう1人はMF田村蒼生(4年=柏U-18)だ。

 とりわけ田村は3歳から同じチームで切磋琢磨してきた、本当の幼馴染み。お互いにすべてを知り尽くしているといっても過言ではないような間柄であり、戦うステージが変わってからもお互いがお互いを意識してきた。

 2年前の6月1日。やはりこの日と同じ、日立台で両雄が対峙した天皇杯2回戦では田村がスタメンフル出場を果たしたのに対して、その3日前にJ1のリーグ戦で90分を戦った佐々木はメンバー外。2人がピッチで再会を果たすことは叶わなかった。

「蒼生がどんな想いでこの試合に臨んでいるかは、全部わかるわけではないですけど、2年前も負けて涙していたのを見ていましたし、そういう気持ちの部分は試合前からわかっていたので、自分としては絶対にやらせたくないと思っていました」。試合直前。整列が終わり、両チームの選手が握手を交わしていく中で、佐々木と田村は軽くハグをして、健闘を誓い合う。


 試合のファーストシュートは田村が放つ。前半4分。左サイドからカットインしながら、鋭い弾道で打ち込んだボールが枠を捉えるも、佐々木は丁寧にキャッチする。「蒼生がドリブルしてきてシュートを打つって、練習でしか受けたことがなかったので、日立台でそういうプレーがあったのが、嬉しいというか、なんか不思議な感覚でしたね」。

 とりわけ意識していたわけではないが、ふと相手のベンチ方向を見やると、戸田がテクニカルエリアに立っている姿が目に入ってくる。「たまにそっちの方を見たらイブ(戸田コーチ)が立っていて、それも不思議な感じでしたね」。

 実は佐々木がウォーミングアップから引き揚げてくる際に、2人はやはり軽いハグをしたあと、少しだけ会話を交わしていた。「イブに『汗、かきすぎ』って言われました(笑)。それで『お互い頑張ろう!』って。同い年にあんな指導者がいるなんて、それも不思議な感じです」。やはり彼らにとって、この試合が特別な一戦だったことは間違いない。

 さらに佐々木にはどうしても勝ちたい理由があった。今シーズン出場したリーグ戦の3試合は1分け2敗と未勝利。昨シーズンもリーグ戦とルヴァンカップを合わせて、出場した6試合で白星は手にできず、最後に公式戦で勝ったのは2022年8月6日に開催されたJ1第24節の京都サンガF.C.戦までさかのぼる。そんな状況で巡ってきたスタメンの機会。勝利への渇望感が小さいはずがないだろう。

 決して楽な展開だったわけではない。むしろボールを持って、スムーズな攻撃を繰り返していたのは筑波大だ。ただ、ハイボールを確実に処理しつつ、ビルドアップにも正確に関わっていく佐々木の安定感は、120分間を通じて際立っていた。

「自分たちの時間もありましたけど、相手には内野(航太郎)選手を含めて一発を持っている選手が多かったので、そこをやらせないということはディフェンスラインの選手と密にコミュニケーションを取っていましたし、セットプレーから1失点してしまいましたけど、それ以外は良い対応ができていたんじゃないかなと思います」(佐々木)。

 延長後半のアディショナルタイムも過ぎ去り、ようやくタイムアップのホイッスルが聞こえる。「延長の前半に(細谷)真大が決めて、『守り切らないといけない』と思っていたので、いつもよりは時間は長く感じたかなと思います。自分が出た試合は一昨年の8月から勝てていなかったので、そういう意味ではリーグ戦とか天皇杯とか関係なく、勝ちという結果を得られたのは、僕にとって凄く嬉しいです」。

 およそ2年ぶりにもぎ取った、レイソルの一員としての公式戦勝利。その相手に田村と戸田という、気の置けない間柄の友人がいたというのも、何とも不思議な巡り合わせだったというほかにない。


 現在のレイソルではアカデミーの先輩でもある松本健太が、正守護神として好パフォーマンスを続けている。脳震盪の影響でしばらく欠場していた期間は、守田達弥と佐々木がスタメン起用されていたが、そのリーグ戦5試合でチームは勝利を掴めなかった一方で、松本が復帰したここ2試合は連勝を飾っており、改めてその存在感を示している。

 佐々木はここからの決意を問われると、言葉に力をこめる。「まずはこのレイソルで試合に出ることがすべてだと思うので、マツケンくんがいますけど、良い競争をしながら、自分の良い部分をアピールし続けて、試合に出続けられるように頑張りたいなと思っています」。

 プロ4年目。久々にトレードマークの弾けるような笑顔を見せた佐々木は、この22歳の夏を飛躍の時間にするために、これからも日立台のグラウンドでハイレベルなゴールキーパー陣と、お互いを高め合っていくはずだ。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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