beacon

青森山田で日本一から8年後の“埼スタ凱旋”…JFLから這い上がった岡山MF嵯峨理久が挑む覚悟の初J1「結果を残せば人生も変わる」

埼スタに立ったMF嵯峨理久

[3.8 J1第5節 浦和 1-0 岡山 埼玉]

 JFLからJ1まで着実に這い上がってきた26歳が、かつて日本一の栄光を手にした埼玉スタジアム2002のピッチに帰ってきた。

 ファジアーノ岡山MF嵯峨理久はJ1第5節・浦和戦の後半35分、右ウイングバックで途中出場。0-1のビハインドという展開の中、持ち味のスピードを活かしたドリブル突破と前線のターゲットを目掛けたクロスで相手をかき回し、同43分にはFWルカオの決定的なヘディングシュートも導いた。

 ところがこのチャンスは浦和GK西川周作に阻まれると、その後もチームは猛攻を仕掛けるも、最後までゴールを奪えずにタイムアップ。嵯峨自身が記念すべきJ1デビューを飾った2月22日の第2節・横浜FC戦(●0-1)に続き、ビハインドからの出場が続いた中、またしても悔しい結末に終わった。

J1デビュー戦の嵯峨

 そんな嵯峨が埼スタのピッチに立つのは、青森山田高のアタッカーとして出場した2017年1月9日の16年度全国高校サッカー選手権決勝・前橋育英高戦(◯5-0)以来8年ぶりのことだった。

「プロになってここに来られたのは、コツコツやってきてよかったなと思います。ただレッズサポーターがいての埼スタの雰囲気はまた違うものがあったし、この雰囲気の中でやっぱり勝ちたかったなというのと、岡山のサポーターに勝利を届けたかったなという気持ちが大きいです」

 選手権決勝では1ゴール1アシストの活躍で大量リードに導いた後、過緊張によるコンディション不良で後半16分に途中交代するというアクシデントに見舞われていたが、この日は元気な姿で聖地に凱旋。再び時計の針を進める機会ともなった。

全国決勝で1ゴール1アシストを記録した嵯峨

「『しんどかったな、あの時……』と思いながらも、(優勝という)最高の瞬間を味わえて、自分にとって大きな場所でもあったので、プロになってまたピッチに立てたのはあらためて嬉しさを感じつつ、でも負けた悔しさが大きいです。まずはまたここに戻ってこられるように頑張らないといけないなと思います」

 青森山田高を卒業後、仙台大を経て、2021年に当時JFLだったいわきFCで社会人キャリアをスタートした嵯峨。そこから自身の活躍でチームをJ3参入、J2昇格に導くと、昨季途中に加入した岡山でJ1昇格プレーオフを制し、クラブとしても自身としても初めてのJ1挑戦のチャンスを掴んだ。

 JFL時代から数えて5年目でのJ1到達。難しい道のりではあったが、支えになっていたのは高校・大学で共にプレーしてきた選手たちが上のカテゴリで戦う姿だったという。

「千葉の高橋壱晟(青森山田高→千葉)であったり、今日で言えば大学の先輩の松尾佑介くん(仙台大→浦和→ウェステルロー→浦和)といった、身近にいた選手たちが上で戦っている姿を見て、俺も絶対に行くんだ、超えてやるんだと思っていたし、その野心があったからこそ、目の前の日々を大切にやっていくというのを大事にしてきた。プロでやっていく以上は結果を求められるけど、まずは日々。私生活もそうだし、トレーニングに自分がどういうモチベーションで向かうかというのはすごく大事にやってきて、それで今があると思います」

青森山田で共に日本一になったMF高橋壱晟と嵯峨

 絶対的な中心選手としていわきFCを牽引していたJ2・J3初挑戦時とは立場が違い、岡山ではよりハイレベルなポジション争いに挑んでいる状況にある。昨季の半年間もJ2リーグ6試合の出場のみ。嵯峨自身は「自分の中では自分自身の力でJ1昇格を成し遂げたわけではないと思っている」と謙虚に現状を見つめている。

 ただ、稀有なスピードと着実な実績でキャリアを切り拓いてきたのは紛れもない事実。そうして巡ってきた環境と「一つの運だし、チャンスだと思う」と前向きに向き合いつつ、何より岡山をこのJ1舞台に定着させるという使命のため、「この舞台で何か一つ結果を残せば自分の人生も変わる。岡山の勝利に貢献するために岡山に来たので、それをプレーで表現して、ファジアーノもそうだし、自分自身もよりもっと認められる選手にならないといけない」と意気込む。

 そうした挑戦の支えとなるのも、かつて共にプレーした選手たちがJ1で見せている活躍だ。いわきFCから昨季、ひと足先にJ1デビューを果たした新潟のMF宮本英治、同じ仙台大・いわきFC出身で昨季岡山に加入した1歳上の先輩FW岩渕弘人からの大きな刺激を口にする。

「いわきFCで同期入団の宮本英治は先にステップアップして、もう新潟に欠かせない選手になっているし、僕も僕なりに岡山でチームに認められるように競争に打ち勝って、ピッチに立ち続けられるように日々コツコツとやっていかないといけない」

「(岩渕とは)もう8年の仲なので、大学からいわき、そして岡山と自分が追っかけているみたいになっているんですけど(笑)、でも彼は昨季からずっと試合に出続けて結果を残したし、新しいチームに来て認められているので彼の存在は大きいし、チームメートですけど超えていかないといけないなと思います」

 まずはここから序列を上げていくため、一つひとつの出番で爪痕を残すのみ。「他にもいい選手がいっぱいいるので、目の前のチャンスを掴めなかったら、もうチャンスは来ないぞというくらいの争いだと思う。でもそこで他と比較するんじゃなく、自分にしかできないことを再確認し、試合に臨むだけ。もっとチーム内の競争に勝たないといけないので、また明日から頑張っていきたいです」。

(取材・文 竹内達也)

★日程や順位表、得点ランキングをチェック!!
●2025シーズンJリーグ特集
竹内達也
Text by 竹内達也

「ゲキサカ」ショート動画